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4.エルフ的には享年17歳って水子扱いらしい。

「ありがとうございます、正直に言って頂けたことを感謝致します」


 それはそれで良いかもしれない。殺戮なんて、出来る気がしない。

 何より服が変わっただけで大喜びするような、そんな普通の感性を持ち合わせた魔族の人々を、こちらを殺しに来る勇者と戦わせるなんて……絶対に嫌だ。


「んー、新しい魔王を呼びますか? 俺、適当に退場しましょうか?」

「! そんなことおっしゃらないで下さいな! ずっと思っていましたが、魔王様は少々気が弱くいらっしゃいますね! ほら、もっと威張り散らして!!」

「あっ、正直ですね。良いですよ、それくらいグイグイ来て下さいよ」

「魔王様ァ!!」


 これ、多分前魔王は殺戮系の能力持ちだったんだろうな。俺に殺されないって分かったからか、メリィベルさんがちょっと強気に出始めた。


「第一、ここで放り出されたら困るの魔王様ですよ……っ、冗談でもそんなこと、言わないでくださいまし」

「それもそうなのですが、魔王として生を受けたとはいえ、こんなに良くして下さっている魔界の皆様が困る方が俺は嫌です」

「姿勢が低すぎます! もっと堂々として下さいな! エルフの成体でしょう!? そこいらのドワーフよりはよっぽど長生きしてますから!!」


 俺が理想とする魔王になってみたら、それがたまたまこの世界で言うエルフだっただけだから、別にそういうわけではないんだよなぁ。


「それが、そんなことはないんですよ。【高貴なる創造権】の効果でしょうか? 俺、これでも17歳のガキンチョですよ。この世界の成人年齢は知りませんが……」

「じゅ、17歳……!? み、水子ですか……!?」

「エルフの価値観だとそうなるのですね」


 それにしたって、水子ってどういうことですかね。


「ええぇ……お、幼い……嘘でしょう……?」

「こら! 聞こえますよ! でも、私も驚きました……水子だったなんて……」

「大丈夫です、生まれてはいました。一応ちゃんと生を受けてました」


 驚き過ぎだと思う。エルフの生態系がちょっと気になってしまった。

 もしかして、エルフって胎児か幼児の期間がめちゃくちゃ長いのかな。それとも20歳以下くらいはまとめて水子って言ってるのかな。すごいなエルフって。


「それはさておき……魔王は俺で確定なのでしょうか?」

「はい。正直なことを申し上げますと、地球人は魔界・人間界の双方で1人ずつしかお呼びできないのです。各界に地球人がいる限りはゲートが開かないので。次の召喚は貴方様が亡くなった後、ということに……」

「! やっぱり、俺は殺されるのですか……?」

「失礼ながら魔王様、少々思考回路が後ろに向き過ぎでございます」


 メリィベルさんがニコリと笑う。

 思考回路が後ろに向き過ぎなのは日本人の性だから許して欲しい。


「殺しません。そもそも異能のせいで戦えないなどということはありません。異能とは別に、戦う術を身に付けて頂ければ何も問題はありませんから……ところで、地球の方は大体剣とか魔法とかが好きだと書に記されています」

「はい、好きです!」

「良かった。それなら問題ありませんね」


 これは剣術とか魔法とか、教えて貰える流れだ。

 身体能力は平凡だけど、技術取得のためなら最悪【高貴なる創造権】が使えそうだから剣術に関しては問題ない気がする。魔法は知らないけど、頑張ろう。どうも詠唱が必要な世界みたいだし、厨二心が疼くなぁ。


「でも、侵略とか、そういうのしないといけないんですよね?」

「いえ? 今は人間側が攻め込んでくるようなこともありませんし、魔王様が望まれないのならば、別に必要ありませんよ。正直なところ、しばらくは勇者も来ないでしょうから……戦う必要すら無いかと」

「あっ、そんなゆるい感じで良いんですか」


 曰く、前魔王の圧政により勝手に自滅しかけていた魔界は勇者の進軍を阻むことが出来ず、勇者の手によってあっけなく葬られてしまったらしい。

 魔王不在の今が好機と人類に再び攻め込まれればひとたまりもないため、「魔界はまだ魔王を召喚する力はある」とアピールするために急遽俺が呼ばれたんだとか。


「時代が違えば、と言ったでしょう? 今の魔界はむしろ、魔王様のようなタイプを望んでいたというか……というより、私も内心ではちょっと狙ってたかもしれません、ヒーラー系魔王様。今殺戮されたら国家財政破綻しますから」

「殺戮にもお金が掛かるんですね」


 どうも、疲弊した魔界側の本音としてはしばらく魔王抜きで復興作業に勤めたかったみたいだ。

 でも、体裁を保つためには魔王を呼ばざるを得なくて……そうか、どうりで制服チェンジが受け入れられたわけだよ。いきなり「近くの村を潰しに行きます」とか言い出す魔王じゃなくて良かったって奴か。


「ですが一応、戦闘技能は身に付けて頂きます。弱い魔王様だなんて言われてはちょっと困りますからね。とはいえ貴方様なら、少なくとも魔法関連では全く問題はないでしょう。それから……」

「それから?」

「もっと堂々として頂く訓練をします」

「え?」


 メリィベルさんはニッコリと笑った。ちょっと怖かった。


「魔王様、色が白いので『ロシアンの民』だとばかり思っていましたが『ジャパニーズの民』ですね? ジャパニーズの民、特に『テンプレ』に詳しい若者は適応力が高い代わりに「図々しく鬱陶しい」か「大人しくて流されやすい」かの両極端だと召喚の書に記されています。魔王様は大人しくて流されやすいジャパニーズの民ですね?」


 ああうん、何か分かる。何か分かるけど、誰だそんなのまとめた奴は。


 前者はアレだな、テンプレでよくいるやたら偉そうな転移者だ。

 俺も殺戮系の能力をいきなり発動させてたら『図々しくて鬱陶しい』って言われてたのかな。良かった、大人しくしてて。『大人しくて流されやすい』も大概に悪く言われてる気がするけど。


「その通りなので、ぜ、善処します……」


 俺は後世のためにも、召喚の書の内容をこの第2の人生の間にもうちょっとマシにすることを誓った。

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