2.俺が考えた理想の僧侶系魔法使いと魔王様。
俺は色んな意味で視界に悪いメリィベルさんから目を逸らし、魔法が発動しないか軽く念じてみる。
テレパシーやサイコキネシス……思いつく限りの『異能』の発動を試してみたけれど、それらしい現象は起こらない。
「うーん、ハズレ引いてたらごめんなさい。今の時点では、これといって異能を持っている感じがしません」
「そんな! ハズレだなんておっしゃらないで! そして敬語はどうぞおやめ下さい!」
「!?」
どうも比較的気が強い人のようで、メリィベルさんは前のめりになって俺の傍に寄ってきた!
やめて下さい! ナイスバディを全く隠さないマイクロビキニは目に毒だ!!
「な、慣れます……すみません……っ」
俺が視線を全くメリィベルさんに合わせないまま声を搾り出すと、彼女はヨロヨロと後ろに数歩下がり、「そんなに……」と小さく呟いた。
「え?」
「私、見るに耐えないですか……?」
顔を真っ赤にして、震えている。
俺が彼女を視界に入れたくないと思っていることに、気付いてしまったようだ。
傷付けたかったわけではない。
俺が悪い。彼女は、何も悪くない。
申し訳なくって、まだ足に掛かっていた毛布を蹴飛ばし、さらに後ろに下がっていく彼女の傍に寄った。
俺の感覚とはあまりに違う身体に戸惑いはしたけれど、幸いにも転ぶことはなかった。
「違います! どちらかというと、そのっ、魅力的過ぎるから、目に毒で……っ、ぬ、ぬ、布地が、少なくって……っ」
「えっ、あ……っ!!」
童貞丸出しで、格好付かなくて。
多分、綺麗な外見にそぐわない言動になっているに違いない。
――それもこれも、全部メリィベルさんの服に布地が少ないからだ! 布よ増えろ!!
「きゃっ!?」
「!?」
メリィベルさんの下に青白い魔法陣が浮かび、彼女を光に包んだ……かと思いきや、ふわりとレースが舞い上がった。
「えっ、服が……っ!!」
黒を基調とした清楚なローブに、金の刺繍。
ローブの下は、繊細なレースの白ワンピース。
肌の露出は、袖口からちらりと見える手首と顔付近だけ。
俺が考えた、『理想の僧侶系魔法使い』の姿になったメリィベルさんが、そこにあった。
「一体、何が……?」
「!? お、俺のせいです! な、なぜか、俺が思い描いた理想の服に……っ!!」
露出が魔族の嗜みとかだったらどうしよう。
震え、目に涙を浮かべるメリィベルさんに慌てて謝れば、彼女はゆるゆると首を横に振るい、花が咲くように微笑んでくれた。
「嬉しい……魔王様は、このような服が好みなのですね……っ!!」
「好み? って、ああっ! あのマイクロビキニ、前魔王の好みか!!」
「そうなんですよぉっ! 城の女は皆、あの服の着用を義務付けられていてぇ……!!」
「最低だな前魔王!! セクハラとパワハラのコンボじゃないか!!」
お世辞とかそんなんではなく、メリィベルさんは心の底から喜んでくれているようだった。
露出狂のようなあの服装、どうやらかなり恥ずかしかったらしい。
いたいけな女性を苦しめた的な意味でも、童貞に変な刺激を与えた的な意味でも、前魔王、許さない。絶対に許さない。
「あー……そうですね。魔王ってことは、俺が偉いんですよね?」
「は、はい……」
「だったら、まず制服変えましょう。女性だけじゃなくて、男性も変なことになってるなら男性も一緒に変えましょう。直ちに」
「! はい……!」
「とりあえず、現状把握したいです。今来れる人だけで良いんで、全員集めて下さい。城なら広間的な場所ありますよね? そこに全員集合です」
「はい!!」
変態前魔王のせいで、俺の魔王としての第1任務は、『従業員の制服正常化』になってしまった。適当な村を滅ぼしに行くべきなんだろうけれど、従業員達の心が滅ぼされつつある現状を無視は出来ない。
メリィベルさんは「準備をしてまいりますので、少々お待ち下さい」と言い残して外に出ていき、やたら広い部屋に俺1人取り残される。
辺りを見回し、姿見の存在を確認した俺はそこに近付いていき――みっともなく声を震わせた。
「うわあお」
鏡に映ったのはさらさらのプラチナブロンドに、切れ長の赤い瞳、エルフのような尖った耳を持つ長身の美丈夫。
一体どこの魔王様だよって思ったけれど、困ったことに……俺だ。
メリィベルさんの服もそうなんだけど、これ、俺が書いていたファンタジー小説に出てくる魔王様そのものじゃないか。
つまり俺が考えた『理想の魔王様』だった。
悲しき悪役感前回でとても格好良い。俺だけど。困ったことに、俺なんだけども。
「これ……変な言動したら残念度が上がるな。気を付けないと……」
多分、俺は確かに『異能』を持ってこの世界にやって来ている。
これが本当に異能ならちょっとチート過ぎやしないかと思ったけれど、まだ確信は出来ていない。
だけど、この姿は恐らく異能に関係するものだ。
「魔王様、準備が整いました」
「ありがとうございます、それでは向かいましょう」
メリィベルさんが帰ってきた。
部屋の外で待つ彼女の元に向かい、俺は目に悪過ぎる光景が広がっていないことを心の底から祈った――数分後、その祈りは盛大に裏切られることとなった。前魔王、許さないからな。




