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1.テンプレったみたいです。

「ま――さ……、――さま!」


 何だか、頭がボンヤリする……。

 誰かの声もする。だけど、身体が上手く動かせなくて、目も開かない。

 ああ、そういえば、俺、トラックに撥ねられて……生きてたんだ。


 生きてたんだったら後遺症とか、残ったかな……それは、辛いな。嫌だな……。



「――様!!」


 一際大きく聞こえてきた、誰かを呼ぶ女の人の声。

 声の主の性別を把握したと同時、急にビクリと身体が震えた。


「……」


 断絶されていた全身の神経に脳からの信号が行き届いた、そんな感覚だった。

 勝手に動くとかじゃなく、ちゃんと自分の意思で動かせて……思うように、指が動くようになった――目も、開いた。


「ああ……っ、良かった。召喚の儀は、無事に成功したのですね……っ、全くお目覚めにならないから、失敗してしまったのかと……っ!」


 視界に飛び込んできたのは、映画とかでよく見る感じのベッド“の”天井。


 そして、ピンク髪&碧眼&羊角&エルフ耳&露出過多とかいう属性てんこ盛りな美女。

 間違っても、この人は看護師さんとかじゃなさそうだ。ついでに知り合いでもない。


 何よりここ、明らかに病室じゃない。


「夢かな……」

「申し訳ありません! 夢ではないのです! 私は召喚士のメリィベル・ラダン。貴方様を異世界より召喚した者です!」

「えっ、いやいやいや、テンプレ……? 夢ですね……」

「夢では無いのです……!」


 メリィベルさんが困っている。

 俺も目のやり場に困る。なんだその、マイクロビキニみたいな服は。

 露出が多ければ良いってもんじゃないと思います。でも、いきなりこんなこと聞いたらセクハラになりそうなので何も言いません。


「テンプレ……」

「そうなのです、異世界の方々がまれに発する『テンプレ』なのです。今、貴方様は、テンプレったのです」

「テンプレった……」



【テンプレる(動)】

・地球人が地球ではない謎の世界に飛ばされた様。

・異世界転移。異世界転生。

・何故か転移者はトラックに撥ねられることが多く、大抵死亡している。


……変な動詞が生まれてしまった。



 それはさておき、目だけじゃなくてもう普通に身体が動くっぽかったから、ふっかふかなベッドから身体を起こす――さらりと、銀色の細長いものが視界に入った。


「えっ」


 嫌な予感がして、引っ張ってみる。

 頭皮が痛い。


「これ、俺の髪……?」

「ええ、とても美しい銀糸のような御髪です」

「あー、はいはい……これは、テンプレ確定ですね……」

「だからテンプレなんですってば」


 手足も何か長い。全身は見ていないけれど、これはきっと、八頭身って奴だ。

 きっと顔面偏差値もえっらいことになっているに違いない。なんてことだ。


 異世界召喚には転生と転移のふたパターンがあるけれど、俺の場合はちょうど真ん中を取った感じかな。全く違う身体かつ大きな身体でスタート……良いトコ取りしてる気がする。


 THE・平均値な外見だった俺としては、約束された勝利の美形スタートってのは、ちょっと嬉しい。だけど……。


「俺、死んだのですか……?」

「……はい」


 ここもテンプレ通りだった。彷徨っていた俺の魂をメリィベルさんがこの世界に引き寄せた……そういうことなんだろう。


 父さん、母さん、姉ちゃん、ごめんなさい。


「? 魔王様?」


 メリィベルさんが困ってる。いきなり黙り込んだら、そりゃ困るよね。

 今は、悲しんでいる場合じゃない。少なくとも今だけは、メリィベルさんに意識を集中させるべきだ。


「……ごめんなさい。俺は、若宮真臣と言います」


 身体の向きが合っていないのはどうかと思うから、布団から出て身体をメリィベルさんの方に向ける。

 そのままペコリと頭を下げれば、メリィベルさんは「ひっ」と小さく悲鳴を上げて土下座体制になった……なんで?


「畏れ多いですわ……!!」

「えっ!? いやいやいや、落ち着いて、顔を上げて下さい!」

「ご、ご命令とあらば!」


 メリィベルさんはそのままの体制でガバリと顔を上げる。

 ところでこの人、さっきから気になることを言ってる。これは聞いても良いよね。


「俺は、『魔王』なのですか?」

「はい、ワカミヤ様は、魔王様です。私は魔王様直属の下僕ですから、どうぞ敬語はおやめ下さいませ」

「は、はあ……」


 魔王! まさかの、魔王!!

 勇者じゃないのかよ!!


「テンプレだと、勇者なんじゃ……」

「勇者も召喚されることが多いですね。ですが、同様に魔王様も召喚させて頂くのです。異世界の方は何らかの異能を持ってこちらに来て下さることが多いので……これも、魔王様の世界では『テンプレ』と呼ばれているとお伺いしております」

「ああ、はい、テンプレですし、転生魔王も、まあ無くはないです……うーん……」


 今の時点ではよく分からないが、俺は異能を持っている可能性が高いらしい。

 どうもメリィベルさんはテンプレに詳しそうだから、ここで軽く情報を得ることにする。


「ステータスボードって、存在します?」

「能力を数値化した板のようなもの、ですよね? 申し訳ありませんが、存在しません」

「そうですか。えーと、魔法はあるんですよね? 剣とか使いますか?」

「ここは魔王様が元々いらした世界で言う『剣と魔法の世界』で、『中世ヨーロッパ風世界』だそうです」

「そっ、そんなピンポイントな説明されるなんて! 俺が魔王ってことは、魔物もいますよね?」

「スライムやゴブリン、ドラゴン辺りが魔王様の世界では有名なんですっけ? はい。いますし、全て魔王様の配下です。ちなみに人間から見れば私達エルフ種やドワーフ種は魔族に分類されます。魔族も魔王様の配下です」

「ありがとうございます……先輩方が珍発言を色々残してくれていたことはよく分かりました」


 どうも地球から連れて来られた人がそれなりに多いようで、『異世界語録』的なものがまとめられている。


 メリィベルさん達召喚士はきっと、異世界語録を頭に叩き込んでから召喚に挑んでいるに違いない。

 お蔭で大体世界のことが分かったような気がした――先駆者達よ、ありがとう。そしてどちらもお疲れ様でした。

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