大罪人レイ・チェンバース
第2章の始まりです!
東京。世界教会本部内にて。
ロンドン支部に侵入者が入り込んだ翌朝。世界教会のトップの連中は皆、頭を悩ませていた。
というのも昨夜、<百獣>ジョージ支部長率いる猟犬達は、侵入者を懲罰房付近にて追いつめた。
だが捕縛できなかったのだ。追い込まれた侵入者は猟犬たちを蹴散らし、ジョージに襲い掛かった。その際、ジョージは大怪我を負ってしまったという訳だ。その後、侵入者は逃亡した。
何故これが悩みの種かというと、支部長が侵入者に負けてしまった事実……これが原因である。
そもそも世界教会支部に配属される支部長達は、人外とも思える武力を振りかざす猛者ばかりだ。そのような者が侵入者に敗北したということ、これが外部に漏れることは、世界教会が1人の賊に敗北したことを全世界が知ることとなる。そうなれば全世界を掌握する世界教会の威信に傷がつくことになるからだ。
「<百獣>ジョージは馬鹿だに。敗北とは情けない奴だに」
「全くですな。情報が漏れた様子はあるのですかな?」
「まだ漏れてはおらぬ。だがぬ、時間の問題であろうぬ」
「こうなれば仕方ないだに。ロンドンを地図から消し去るしかないだに」
「なるほどですな。煙を断つには火元を消せばいいですな。ではロンドンの民には死んで頂くとしますかな」
世界教会本部内の一室で、3人の男達がロンドンの一件について話し合っていた。
「……まあ、そう事を急く必要はないよ」
そこへ1人の男が入ってきた。途端に3人の男達は椅子から立ち上がり深々と頭を下げた。そして頭を下げたまま、男達の1人が話し始めた。
「ファーザー、申し訳ないぬ。どの様に事態を収束させればいいぬ?」
「情報はいずれ漏れるだろう。そこで私はこう考えた。生贄……つまり身代わりが必要だと」
「発言しても良いですかな? それに適任の者はおりますかな? 世界は納得しますかな?」
「心配は要らないよ、三賢人達。昨日、ロンドン支部でレイ・チェンバースという男が反逆行為を起こしたと連絡が入っていた。ジョージは彼を殺し損ねたらしいが、寧ろ好都合だ。彼に全ての罪を被ってもらおう」
「なるほどだに。つまり、その男を捕らえて公開処刑すればいいだに。その様子を全世界へ一斉配信すればいいだに!」
「70点の答えだね。筋書きはこうだ……昨夜、支部内で猟犬の1人が寝込みのジョージを襲った。その猟犬は悪魔崇拝者とつるんでいたらしい。警備は万全だったが卑劣な悪魔崇拝者達の手によって、市民の平和を守る支部長が襲われた。これでどうだい? これなら我々に仇なす悪魔崇拝者も同時に葬ることも可能だ」
「いい案ですな! では最後にこう付け加えましょうかな。本件に関わった悪魔崇拝者及び猟犬の情報を提供した者、又はその首を差し出した者は、ファーザーより祝福と褒美を与える……どうですかな?」
「ああ、構わないよ。では今の話を全世界に通達してくれないか。それと真実を知る者は私達だけでいい。<百獣>ジョージを含め、ロンドン支部の者は全員殺処分するんだ」
「ファーザー。ちなみに褒美はどうするぬ? 何を与えるぬ?」
「そうだね……では死を与えよう。私の世界で褒美を求めるような強欲な人間は要らないからね。神からの施しを期待して祈る愚かな人間は、神に見限られて当然じゃないか」
こうしてレイ・チェンバースは、犯罪者としてその名を知られることとなった。
――数時間後、ロンドン。
「……寝過ぎてしまった」
重い瞼を上げ、辺りを見渡す。どうやらベッドに寝かされているようだ。
「腹……減ったな」
昨日の夜から何も食べていない。食べ物の事を考えると口の中に唾が溢れてくる。
「おお、目が覚めたようじゃな」
スーツを着た初老の男性がこちらを見て微笑んでいる。
「ここはどこですか?」
「私の家じゃ。お前さん、路地裏に倒れておったのでのう。勝手に運ばれてもろうた」
そうだったのか。親切な方だが、ここにいるといずれはジョージの追手が来るだろう。この人を巻き込む訳にはいかない。
「ご迷惑をおかけしました。このご恩は忘れません。では……」
早々に立ち去ろうと思いベッドから起き上がろうとするが身体が動かない。
「ちと厳しいと思うがのう。お前さんはまだ動けんよ。私が打った麻酔が効いておる限り何も出来ん」
麻酔? もしかすると怪我の治療までしてくれたのか。なんて良い人なんだ!
「それよりお前さんが動けん内に、聞きたいことがあってのう。これを見るのじゃ」
そう言って、僕に1枚の紙を見せる。
指名手配のポスターだ。なんだってこんな物を? 不思議に思いつつ内容を見る。
【レイ・チェンバース:悪魔崇拝者と共謀し、世界教会ロンドン支部長ジョージ・スコッチフィールド殺害事件を起こした罪人である。情報提供者にはファーザーからの祝福と褒美が与えられる】
頭がパニックになり動転する僕に、男はニヤリと笑いながら声をかけた。
「お前さん、レイ・チェンバースじゃな?」