名前を覚えてもらいたい悪魔との契約
そうか、死んだのか。余りにもあっけない人生だった。
「聞いたことがあるんだ。昔の伝承で悪魔は人間の命を奪うと。やはりそうなのか? だから僕の命を奪ったのか?」
『その問いに答える我はマモン。汝の命の灯火を吹き消したのは我だ……だが、死をもたらす為ではない』
「命の灯火を消すとは、死ぬという比喩表現だと思うが違うのか?」
『その問いに答える我はマモン。その言い回しは人と魔が共存せし古来の時に、人に伝わった我らの言葉……汝が捉える意味とは異なるものだ』
死んではいないらしい。でも、そもそもどうして僕は悪魔と会話してるんだ?
「なあ、マモン。僕は何のためにここに来たんだ?」
『我はマモン。汝と契約を交わす為、汝を導いた……では執り行うとしよう』
「待ってくれ、契約ってなんだ! 契約するメリットは? 悪魔との契約だからリスクはあるんだろ?」
『その問いに答える我はマモン。汝は汝の望む物を手に入れる……対価は汝の渇望する物だ。対価は金銀財宝かも知れぬし命かも知れぬ……汝が先の人生で最も執着する物。それを手にした時……それを差し出してもらう』
望みを叶えてもらう代わりに、一番大切な物を失う。なんて契約なんだ。
「悪いが、その契約を交わすつもりはないよ。自分の欲しい物は自力で手に入れる!」
『汝の過ちを正す我はマモン。汝は最早、契約から逃れられぬ……汝が我が腕を自らの物にした時点で契約は結ばれた……残るは契約の報酬と対価を取り決めるのみだ』
……言葉が出ない。悪夢を見て目覚めたら腕がどす黒く変色していて、それで契約完了。悪徳商法すぎやしないか、悪魔め。
「分かった。伝承通り悪魔とはずる賢いな。望む物は何でもいいのか? 炎の蛇は望む物ではないのか?」
『お褒めの言葉を授かった我はマモン。人の想像力で考え付く物を与えるなど容易い……蛇は我の加護の力である為、対価を要求したりはしない』
なるほど、なんでも与えられるのか。どうせ対価を支払うんだ。勿体ない使い方をしないように慎重に考えるとしよう。
――どのくらい時間が経ったか分からないが考えはまとまった。
「マモン。望みが2つある場合は、どちらかしか叶えてくれないのか?」
『その問いに答える我はマモン。望みは1つのみだ……だが過去に例外がない訳ではない』
「そうか。では、全ての事柄の真実を見極める力がほしい。世界教会の牛耳る世界が本当に正しいのか知りたいんだ!」
『汝に問う我はマモン。もう1つの望みはなんだったか……宜しければお教え願いたい』
「もう1つは、両親に会ってみたい。僕は親の顔を知らない。そういう人間はあまりいないんだ。だから僕を生んだ両親に会いたい。1つ目の望みに比べて小さなことだと思うだろうが大切なことなんだ」
『……』
返事が返ってこない。やはりどちらかを選べと言われるのか。
そもそも悩んで出てきた望みがこの2つというのはくだらないと思う。素直に世界最強の力とかにすれば良かったのか?
『我はマモン。汝の2つの望み……聞き届けた』
「いいのか!?」
『我はマモン。では今より報酬と対価の子細について語る……まず1つ目の望みとしてフラウロスの魔法陣の力を与える』
「それはなんだ?」
『その問いに答える我はマモン。その力は万物の真贋を見極め……虚言を無へと帰す。対象は汝が感知しうる全てだ』
どうやら真実を見抜く力をくれるらしい。目や耳にするものすべてが対象であり、例えば相手が嘘をついても見抜けるようになるってことだろうか。
『我はマモン。2つ目の望みとして我、マモンの力を与える』
「それだけ? 力の説明はないのか?」
『その問いに答える我はマモン。我が力により汝は、いつの日か想い人との再会を果たす……その過程で降り注ぐ試練は必ずや突破出来ると約束しよう』
「本当に会えるのか?」
『その問いに答える我はマモン。神は約束を反故にするが、悪魔は如何なる約束も破らぬ……』
「分かった。では試練とはなんだ?」
『その問いに答える我はマモン。汝に降り注ぐ試練は不可避……因果律によって定められ、必ず汝に襲い掛かる』
「……」
答えになってない気がするが、とにかく苦労するぞと言いたいらしい。
『我はマモン。最後に汝の支払う対価だが……時が満ちた際、悪夢に関する全ての記憶を我に捧げてもらう』
「パンデモニウム? なんだそれは?」
『その問いに答えぬ我はマモン。奪われる記憶だ……知らぬほうが良い。では汝の世界に還るといい……』
その言葉を最後に周囲がどんどん明るくなっていく。鳴っていた音楽は遠くなり、やがて聞こえなくなった。
悪魔と契約したレイがいよいよ大活躍を始めます!
自分で作っておいてなんだけど、マモンのキャラがしんどいです……