さよなら現世!!
電話を終えたジョージは猛スピードで僕を部屋の壁に押し当て、そのまま壁を突き破り、廊下に出たところで突進を止めた。
「簡単に死ぬなよ! つまんねぇからなあっ!」
頭がグラグラして目が回る……ただの突進でこんなにも威力があるのか。
何か言い返してやりたいが言葉が出ない。僕の口からはヒューヒューと息の漏れる音が出ただけだった。
「そりゃ無理だ。喉笛に俺の肘をしっかり叩き込んどいたからよ。死ぬときにギャーギャー騒がれんのは興醒めする。じゃあ続きをするか?」
ジョージが僕の胸元を掴み廊下の壁に押し当てた。
なんて怪力だ。右手一本で押さえられているだけなのに逃げることができない。
くそっ。
なんとか逃れようとジョージを殴ろうとするが、全く届かない。
それもそのはず。一般的な体格の僕と2メートルを超えるジョージではリーチの長さが異なる。ジョージの腕に対して拳2つ分ほど短い僕の腕は空を切るばかりだった。
せめてさっきの炎の蛇が出てくれれば……そう思い腕を振るが一向にその気配はない。
「おいおい、やる気あんのか? もう少しいたぶってやろうと思ったが、変更だ。さっさと死んどけ」
右手に力を込めたジョージは、自分の目線の高さまで僕の体を持ち上げた。
苦しい……息が出来ない。両手でジョージの腕を掴み精一杯の抵抗を試みるが虚しいだけだった。
そういえば脚で蹴りつければ状況が変わってたかもしれないなと思いつつ、意識が遠のく。
「さよならだ! 被験者っ!」
ジョージは強靭な背筋を使って身を反らせ勢いをつけ、頭蓋を一気に僕の顔面に叩き込んだ。
『――主よ……王よ』
声を掛けられ目を覚ます。音楽が聞こえる。辺りはとても暗く、目を開けたはずなのに全く視界が変わらない。真の暗闇だった。
『主よ……王よ。我が贄よ……』
「誰だっ!」
あれ? 声が出る。ジョージは? ここは? 聞きたいことが山のようにあった。
『我はマモン。汝の下僕であり……汝の願いを叶え……汝の魂を喰らう者』
マモン。悪魔崇拝者の家で見た悪夢にも出てきた言葉。僕に世界に蔓延る嘘を思い出させて、腕から炎の蛇を出すきっかけになった言葉だ。
「マモン! 君は誰なんだ?」
『我はマモン。汝の魂を糧に契約せし者……汝らの言葉では悪魔と呼ばれる者』
「ふふふ……」
炎の蛇が出た時に少しそんな気がしたが、悪魔なんて非科学的な存在は信じてなかったし、よりによって悪魔崇拝者を捕らえる猟犬の僕の元に悪魔がやって来るとは。とんだ皮肉じゃないか。
「笑ってすまない。それでここはどこだ? 僕は死んだのか?」
『その問いに答える我はマモン。汝が坐するここは冥界に近しい世界……汝の命の灯火は我が吹き消した』