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レイ・チェンバースは悪夢を見ない  作者: ネジマキピエロ
[第一章]レイ・チェンバースの奇妙な一日
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奇妙な悪夢

「お、おいっ……俺たちは味方だぞ! や、やめろ!」


「ひぃぃぃ! 悪魔だ!」


 二人の猟犬(ハウンド)がこちらを見て叫び声を上げる。腰を抜かしたのか這いつくばって逃げる姿が滑稽で堪らない。

 以前から思ってたけど、何故こうも声が馬鹿でかいんだ。うるさいんだよ、お前ら。


「痛くない。一瞬だから」


 片方の男の頭を掴み、握り潰すと、赤黒い中身を辺りにぶちまけた。

 それを見たもう一人の男が叫び声を上げる前に、喉笛を指で切り裂く。ほどばしる鮮血。

 生臭い血の匂い。周囲の景色は一瞬で真っ赤に変わった。


「……そうか。心臓を止めないと大量に血が出るんだ。次から気を付けよう」



 ――数十分前。


「いたぞー! 捕まえるんだ!」


「教会を裏切った犯罪者め!」


 西暦2138年。霧の都ロンドン。

 かつて大英帝国として名を馳せたこの地も、今は世界教会の管理下にある。


 僕、レイ・チェンバースは世界教会の治安維持部隊〈猟犬(ハウンド)〉のロンドン支部隊員だ。

 猟犬の仕事は世界教会へ反発する犯罪者の監視、鎮圧、逮捕。だからこうして今夜もロンドンの街で犯罪者を追いかけまわしてる。


 今夜の獲物は三人家族だ。家族の隣人から悪魔崇拝者だと通報が入ったので出動している。


「おい、レイ! お前は家宅捜索してこい! 悪魔崇拝の証拠を押さえるんだ!」


「了解。オットーはベンと一緒に犯罪者の確保を頼む」


「通報によれば三人家族とのことだが、逃げたのは二人だけだ! まだ潜伏してるかもしれない! 油断するなよ、レイ!」


「ああ。それより犯罪者を逃がすなよ。逃がすと支部長がうるさいからな」


 同僚のオットーとベンと別れ、犯罪者の家へ入る。

 1階、2階に人が潜んでいないことを確認し、屋根裏部屋へ続くハシゴを上る。


「この間取りで隠し事をするならここしかないんだよな」


 入ってみると暗く何も見えない。懐中電灯を取り出し辺りを照らすと異様な絵が飾られていた。

 ヤギの頭をした裸の男性の大きな絵。


 この絵は?

 考えるや否や激しい痛みが僕を襲う。

 熱い! 体が燃えていると思うほどの熱さ。

 同時に頭の中で微かに音楽が聞こえる。鈴のような音が遠くから鳴っている。




 ――ここは?

 手術台に拘束されているらしい。頭を起こし身体を見ると両腕がない!


「……より適合手……被験……。接……6歳……」


 声がする方を見ると白衣を着た男が何人も僕を見ていた。肩に紋章が入っている。世界教会の紋章だ。

 彼らの側には黒く干からびた二本の腕が置いてあった。もしかしてそれが僕の腕? 燃え尽きてしまったのか。


「……ゲー……降臨さ……マモン」



「――ああああああああああああっ!!!」


 叫び声を上げて飛び起きると、そこは屋根裏部屋だった。慌てて両手を確認するとどす黒く変色している。


「……なんて言ってたっけ? マモン?」


 その言葉を口に出すや否や、頭の中で記憶の糸が繋がる。


「そういうことか」


 理解した。いや、忘れていたことを思い出した。

この狂った世界の構造、それに疑問も持たず生きる人々……僕は疑問に思う気持ちを今まで忘れ去っていた。


 ふと部屋の隅に目線をやると震えながらこちらを見つめる少女がいた。


「逃げろ。そして好きに生きるといい」


 声をかけ、僕は家の外へ出る。そして肺いっぱいに空気を吸い込む。

 臭い……この街は臭すぎる。


 罪の匂いがする。


「レイ!」


 声をかけられた方を向くとオットーとベンが駆け寄ってくる。


「すまない! 逃がしちまった!」


「構わないさ。それよりオットーとベン……君たちは臭すぎる」


「悪かったな! 必死こいて走り回って汗だくなんだよ!」


「いや、罪の匂いだ」


 両腕が熱くなった途端、掌から真っ赤に燃える炎の蛇が噴き出した。


「レイ……その腕はなんだ!」


「君たちを断罪するための腕」


「お、おいっ……俺たちは味方だぞ! や、やめろ!」


「ひぃぃぃ! 悪魔だ!」


「痛くない。一瞬だから」



「……そうか。心臓を止めないと大量に血が出るんだ。次から気を付けよう」


 死体の処分をどうしようかと悩んだ時、両腕に巻きついた炎の蛇がオットーとベンを丸呑みにした。周囲に飛び散った血は浮き上がり、蛇の口に流れ込んでいく。


 血みどろの景色は、10秒ほどで何事も無かったようなロンドンの平穏な街並みに戻った。


「なるほど。これでいい」


 仕事を終えたのか炎の蛇は少しずつ透け始め……消えた。

 そして両腕は黒ずんだ腕に戻った。


 この数分間に起こったことを反芻(はんすう)してつつ、僕はロンドン支部への帰路に着いた。

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