第八話
「連の様子がおかしい?」
ある日の昼休み、俺は文さんに部室に来いと命令された。
「うん。お父さんとお母さんが帰って来てからね」
ならいつもの事だろうと思ったのだが、どうやら違うらしい。
家族にコンプレックスのある連は、父と母が帰って来るたびに挙動がおかしくなる。
それ自体はいつもと変わらないのだが、今回はいつも以上に、どこか変らしい。
俺から見るとそんな事はないのだが、しかし姉という立場から見ると少しの事で違和感を感じるのも当然と言えるだろう。
「分かりました、俺も少し調べてみます」
「で、僕を頼る訳か」
生徒会室。書類の整理を手伝う代わりに、少し話を聞いてもらう手筈になっている。
「まあ、僕もかなり長く連のそばにいるからね、薄々感じてはいたよ」
春は手を止める事もなく、俺には目もくれずにそういう。
「連のアレに関しては僕たちにも少し責任があるからね、出来る限り協力しよう」
春は簡単に攻略できるのだが、問題はもう一人の連の幼馴染。
何故か生徒会室のソファの上で某医療ミステリを読んでいる赤羽日向である。
「日向には時々生徒会の業務を手伝ってもらってるんだ。今日の君みたいにね」
その代わりにこのふかふかのソファで読書する権限を得ているのか。等価交換って感じかな。
「ところで、他の役員は?」
今、この部屋には俺と春、そして赤羽の三人だけである。
「会長は転校しちゃったし、書記は元からいない。その他の役員は部活とかの用事でほとんど来ないよ」
なんとなく、『他の役員』の気持ちは分かる気がする。
「で、日向も勿論協力してくれるよね?」
俺に難攻不落の攻略は不可能と見たのか、春は赤羽の説得を試みる。
「しょうがない、やる」
赤羽は立ち上がると、おもむろにスマホをいじり始めた。
「そっちから攻めるのか、君らしい」
春は感心したように頷く。
「完了。ちょっと出かける」
赤羽は横に置いてあった荷物を持ち上げ、生徒会室を出て行った。
春に赤羽が何をしたのか聴くと、「母親のところに行ったんだよ」と答えた。