第七話
父が帰ってきてから3日後、母が帰ってきた。
向こう一年分の仕事を終わらせてきたらしい。なんでその状態で缶詰させたんだ、編集者よ。
何はともあれ、母は一年ほどこっちにいるようだ。
父と母が大好きな姉が母と話し合っている間、僕は父の書斎にいた。
普段何気なく出入りしている場所ではあるが、昨日僕が学校に行っている間、父がこの部屋を片付けていたようで僕の掃除の不届きさを思い知らされた。
母が帰ってきたのは夕飯時で、父がご飯を作ってから迎えに行ったのだが、そのご飯がとても美味で、父の万能さをさらに思い知らされた。
そういうところが、嫌いなんだよ。
心の中で呟きながら、父のお気に入りの一冊を手に取る。
僕も小さい頃からのお気に入りで、何度も読んだ本だ。
ペラペラとページをめくるが、内容も細かく覚えているので、初めて読んだ時のような感動はない。
初めて読んだ時の事が忘れられず、僕はこの本を何度も何度も繰り返し読んでいるのだが、それでもあの時の感情は手に入らない。
一度だけの感情、一度だけの時間、それがどれだけ愛しいか、あの時の僕には分かっていなかったのだ。だからただただ読むだけで、何一つ考えなかった。
ずっとそうだ。
僕には何も見えていない。
過去も、未来も、今も。父も母も姉も、響や春のことだって、僕は何も知ろうとしなかった。僕はそれから逃げていた。
それが嫌で離れていった。友達を、不必要と思うようになっていった。
馬鹿だなぁ、僕は。
そんな当たり前の事さえ、声を大にして知らないと言い張ったんだ。
だけど、これ以上は僕には出来ない。
僕は何も、知りたくない。
ーー俺が、連れて行ってやる。
そんないつか誰かに言われた事にすがりついているままで、何も成長なんてしていない。
だから未だに、こうしているんだ。
幸せになんて、なろうともせず、ここにいつまでも、しがみついているんだ。