第三十一話
普段、僕は早めに家を出る。だがその日はたまたま忘れ物をし、それを取りに帰ったため遅刻ギリギリだった。
正門前の信号は、青だった。
そう、信号は青だった。だから僕は渡った。しかし。
白いトラックが猛スピードでこちらに来るのが見えた。
その先は、交差点だ。両者からは死角になって見えないだろう。そして僕のその危惧は当たった。最悪の形で。
ピー、ピッ、とやけに不愉快なリズムが刻まれるその部屋は白に包まれていた。
俺はただただ立ち尽くし、窓の外を眺めるほかなかった。
あの時、俺がちゃんと確認していれば、こんな事にはならなかったはずだ。なんで、なんで。なんで連は俺を助けた。自分がはねられる事になると、分かっていたはずだろう。なのに、なんで。連は、連はーー
「連!大丈夫!?」
当事者として、一緒に救急車に乗った俺に比べると、少し遅いタイミングで文さんがやってきた。
「命に別状はないそうです」
俺はそれしか言えなかった。しかし文さんは何も聞き返さない。きっともう知っているのだろう。これが俺のせいだということを。連の状態も。きっと、なにもかも。
命に別状はない。それは確かだ。しかし、目覚めるかどうかは分からない。そう言っていた。
「うん。なら良かった」
あくまで自然に、文さんはワンテンポ遅れて返事をした。しかし、雰囲気はいつもとは比べものにならない。
「響。後1時間ほどでお父さんとお母さんがこっちにくる。説明と、それまでの看病をお願い。部長命令よ」
ゾクリ、背中の毛が逆立った。それほどまでに、異様だったのだ。今の文さんは。なにをしでかすかわからないほどに。
「あと、あんまり気に病む必要はないよ。あの交差点ならトラックが標準速度で走っていれば互いに避けれる距離だし、しかもあのトラックの運転手は泥酔状態で居眠りしていたそうだから。君のせいじゃない。それだけは言っておく」
俺は、はいと答えるほか、なかった。
それからの1時間は、精神がおかしくなるかというレベルで、考え事をして過ごした。
昔のことだったり、今日の夜ごはんのことだったり。
カラリ、ととても静かに扉が開いた。
はっとし、振り向く。
「君が、響くんかな?」
そして、俺は伝説と出会った。
これが一応一つめのクライマックスなわけですけど、読くんの二度めの登場になりますね。しかも今回はガッツリ出ます。読は僕が書いてて楽しいキャラNo.1なので、とても楽しみです。




