第三十話
無事とは言い難い状況ではあるが、何はともあれ三種類全てが揃ったわけで、いよいよ文化祭は幕を開けた。
相変わらずの繁盛で、文化祭の開催期間のうち人が最も少ないと言われる1日目ですでに半分がなくなっていて、文さんは「追加注文しとくから、先に帰っといて」といい、俺たちは帰った。
こうして、文化祭の1日目は早々に幕を閉じたのだった。
朝、目が覚めたのは7時50分。ここから学校まではどれだけ少なく見積もっても20分はかかり、電車の時刻表を見ると次の電車はだいぶ先だった。
やべぇ、遅刻だ……
電車に乗っていると確実に遅刻する。俺は後40分で学校に着かなければならない。思考を巡らせつつ、制服に着替えて、靴を履いた。
リビングからひょいっと顔を出した弟が、バターロールを投げてきたので、行儀は悪いがぱくりと加えた。
最も早く学校に行くには、これしかない。
そう思い、自転車にまたがる。ここから学校までは7km。平坦な道が多いから、飛ばしに飛ばして30分でつける。
「う、おぉぉぉおお……!!」
ペダルをフル回転させ、両サイドにあった畑を駆け抜けた。運良く信号が青だったので、スピードを緩める事なく、激走した。
まばらに増えていく人に気をつけながらも、ほとんどスピードを落とす事なく市街地を抜け、残りは半分ほど。現在時刻は8時20分。後10分しかない。俺はさらにスピードを上げた。
距離が進むにつれて、思考も低下していく。吹き出した汗に気を取られないように、必死でペダルを回した。
この角を曲がれば、正門だ……!
残り時間1分の均衡。遅刻ギリギリのこの時間なくる人間はほとんどおらず、さすが進学校といったところだろうか。
角に設置された信号までの20mほどが、やけに遠く感じた。
ラストスパートとばかりに、最後の気力を振り絞った。
そして、俺は角をまがりきっ……
頭が真っ白になった。いや、景色も白い。なんだ?この異様な空間は。
「響!!」
聞こえたのは、その叫び声だけだった。




