第十六話
つい深く考え込んでしまったが、今はデート中だ。可愛い彼女を怒らせないために、そちらに集中せねば。
本屋では、主にラノベコーナーを見ていた。例えばM○文庫だったり、ガ○ガ文庫や、電○文庫、講○社ラノベ文庫などもみた。
この本屋は品揃えが豊富だから助かる。ここに来れば欲しい本の大半は揃うんじゃないかという安心感である。
その途中で通った、イラストなどの資料集のコーナーで、翡翠が一瞬目を曇らせた事は見逃してはいない。
少し気になったので、聞いてみる。
「お前、絵師に復帰するつもりはないのか?」
翡翠は、絵師だった。それはもう神絵師と呼ばれるような。
しかし、一度の炎上で、しかも翡翠に原因のない事で、翡翠は絵師を引退した。引退せざるを得なかった。
翡翠はしばらく黙り込む。
「……今は、いいかな」
その言葉は、俺を求めているように聞こえた。
家まで翡翠を送り、角を曲がったところにある自分の家に入ろうとした。
だが、後頭部に衝撃が走る。
大体検討はついていたので、別段起こるつもりにもなれない。
矢文である。後ろを振り向いた先にあるなんか無駄に豪華な城みたいな家の4階のベランダから飛んできたものと推測される。
無論、西園寺である。
「で、何?お前俺になんか恨みでもあんの?」
午後7時、翡翠と別れてから20分も経っていない。
「恨みならいっぱいありますけど?」
そういえば俺はこいつに対して色々やってきたのだと思い出した。
「これをみて欲しくて」
そう言って差し出してきたのは、約40ページほどの読切短編形式で描かれた漫画だ。作者は西園寺縁。
ペラペラとめくっていき、10分ほど俺はそれを読んでいた。
「……8ページ目の主人公のポーズが狂ってるくらいは問題はなさそうだな」
「その主人公が飛び出すシーン、結構お気に入りだったんですけど」
「いやいやいや、膝の曲がり方おかしいから。こんな曲がらないから。それにこれだとしゃがみながら全力疾走してる変態にしか見えないぞ」
「バースですよ!距離感!距離感でそう見えてるだけで実際はただ全力疾走して道路に飛び出してるだけなんです!」
「読者に伝わんなきゃいみねぇだろーが!!」
こんなやりとりを何度も繰り返す。
何故俺がこんな事をしてるかというと、ある日、俺は何故かこいつの指導者となってしまったからだ。
天才は天才でも、傷一つない才能でも、こいつはデフォルトで穴だらけなのだ。
なかなかに楽しいのだが、しかし夜に男を自分の部屋に呼ぶのも、それを許してしまう親もなかなかにおかしいと思う俺であった。




