第7話「ダンジョン生成できない、こともない」
2人は余り人が踏み入っていない場所をかき分けて進む。
「ふわぁっ!? な……なんだ、ツルでしたか」
「蛇か何かと間違ったかの?」
「うぅ……爬虫類は苦手です。って、今度は蜘蛛ですかっ!?」
そんな苦労もあったが、2日ほどかけておおよその地図が完成する。探索して判明したことだが、この森は余り障害となりうる植物や場所が無く比較的安全な場所であった。森の中に罠を張り巡らせなければ、迷う可能性以外に脅威はほとんどない。
「どうしましょう……罠を張るとなると、また余計にお金がかかりますし……」
「そうじゃ! 偽看板を立てるのはどうじゃろう?」
アルが提案したのは、道案内の看板を見当違いの方向へ向けるものだった。
「アルさん、明らかに人が踏み入っていない場所に看板があったら不審に思われますよ」
「うぅぬ……確かにそうじゃのう。そうなると……幻惑かの?」
「幻惑……ですか?」
「うぬ! 皆に見当違いの意識を持たせる魔法じゃ」
「そんな高等魔法を使えるんですか!?」
「お主……気付いておらぬな? 我のこの姿とて、幻惑の力で見せておるのじゃぞ」
アルは豚の貯金箱の体で胸を張る。
「えっと……どうしてそんな面倒なことを?」
「そ、それは……そうじゃ! 我を弱々しく見せることで敵が油断することを期待しておるのじゃ!」
「えっと……威厳ある姿の方が効果的かと思いますけど。味方も増えますし」
魔界では威厳や力のある魔王の下に悪魔や魔物は集まる。人間の世界でも似たようなものか。
「と、とにかく! 我の力を信じよ!」
そう言ってアルは小さな手から魔力を放出し、森へ魔法をかける。森はまがまがしい黒いオーラで覆われ、奥は真っ暗で何も見えない明らかに入ってはいけなさそうな雰囲気を醸し出す。
「す……凄い。本当に幻惑ですね」
「偽の幻惑でどうするのじゃ。とにかく、これで中へ踏み込めば方向感覚を失い、右へ左へさ迷うこととなろう」
「……その、アルさん。凄い力を持っていらっしゃることはわかりました。しかしこのままだと不審に思った人間たちが押し寄せて来ます」
「構わぬ! 迎え撃てぃ!」
「あの……まだ魔物がいません」
アルは無言で魔法を解いた。