第2話「庶民派エリート組ステラ」
ステラが初めて契約を取ったこと、その対価は銅貨三枚であることが代理店中に知れ渡った。本来高給取りとなるはずの代理人がそんな安価で働いているのだから、これは当然の反応だろう。
「貴女、ただの馬鹿?」
「本当に、呆れてモノも言えん」
ルーテシアがゴミでも見るような目でステラを睨み、チーフは大きなため息を吐いた。
「でも困ってたし、それにやってみたかったから」
「ふぅん……ま、やるだけやってみれば?」
「そうだな。契約した以上、反故にしては信用問題になる」
「ありがとうございます! 行ってきます!」
ステラは意気揚々と初出勤した。しかし現地に着くとその生き生きとした表情が曇る。
ダンジョンには高価で目立つタワー型、安価だがひっそりとした洞窟型などがある。しかし、ここはダンジョンとはとても呼べないただの更地。日照りで干からびた畑のような土地だった。
「おぉ、よく来てくれたの! 狭い場所じゃが、入ってくれい!」
その中央に崩れかけの掘立小屋が一つ立っていた。その中にお邪魔すると、あちこち埃だらけでステラは目に涙を浮かべる。
「すまぬ……それほどまでに汚いかの?」
「き、汚いなんてものじゃないですよ! ある意味、ここは魔物の巣窟です!」
虫が徘徊し、蜘蛛の巣が張り、カビが繁殖している。こんな場所にいたら命がいくつあっても足りないだろう。
「ぬ? なぜ腕まくりしておるのじゃ?」
「お掃除です、お掃除! こんな場所では、これからの方針について話し合うこともできません!」
ステラはアルを連れて外へ出る。
「ここで見ていて下さい。すぐに終わりますから」
そう言ってステラは近くの森の中へと消えて行った。それから一時間ほどして、両手に持ちきれないほどの草を持って帰って来る。
「それは何じゃ?」
「これは汚れを落とす成分を含む草です。こっちは線維が細かいので雑巾の代わりになります」
ステラは持って来た草を駆使して掃除にかかる。それから更に一時間ほど経った頃、小屋は見違えるほど綺麗になっていた。
「ぬぅぅ……お主、もしや掃除のプロじゃな!?」
「違います! これくらい、庶民の悪魔は誰でも知ってます!」
「そ、そうなのかの? うぅむ、まだまだ世の中には知らぬことが多そうじゃ」
アルはその手腕に唸ったのだった。