僕が剣を握るのは
開いてくれた全ての方に深い感謝を。
拙い作品ですが、感想をいただけると嬉しいです。
ぼくはほめられたいからけんをもちます。
ぼくはけんをもちます。けんをもつと、みんながほめてくれます。まものをやっつけると、おとうさんもおかあさんもよろこんでくれます。ぼくはうれしいです。まものさんたちはいたそうだけど、わるいことをするからしょうがないです。
ぼくはまだこどもです。でも、もりでみつけたきれいなぼうをもつと、なんだかちからがわいてきます。ぼうのことをけんというのはおとうさんがおしえてくれました。けんをふるとなんだかつかれます。でもほめてもらうためにがんばります。
まえに、おうさまがよんでくれました。たべたことがないりょうりがいっぱいでおいしかったです。おうさまもほめてくれました。うれしかったです。
ぼくはたびにでました。おとうさんとおかあさんとはなれるのはすごくさびしかったけど、みんなのためにがんばります。それに、いっしょにおにいさんやおねえさんがついてきてくれます。だから、こわくないです。ほんとうです。
たびでは、ぼくはみたことのないものをいっぱいみることができます。やま、うみ、さばく、たいへんだけどきれいなばしょがたくさんあります。まものもいっぱいいるけど、すぐにたおします。
たたかっていると、ぼくはつよくなりました。いつも、おにいさんやおねえさんはほめてくれるけど、なんだかさいきんすこしへんです。みんななんだかかなしそうにしているときがあります。「だいじょうぶ?」ってきいてきます。ぼくはどこもいたくないのでだいじょうぶっていいます。
ぼくは、みんながわらっているのがすきなので、みんなにはわらっていてほしいです。
にっきのつけかたは、おねえさんがおしえてくれます。べんきょうはきらいですけど、おねえさんがほめてくれるのでがんばります。
――ぼくは、ほめてもらうのがすきです。ほめてもらうためにけんをにぎります。
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僕が剣を握るのは人間族を守るためです。
僕が旅に出ている間に、お父さんとお母さんは魔物に殺されてしまいました。僕の村はなくなってしまいました。皆を殺したあいつらを僕は決して許しません。毎日戦うのは疲れますが、僕には休んでいる時間はありません。必ず魔王を倒します。そうすれば、みんなが笑って暮らせる世界になると、仲間たちが言ってくれました。
そんな仲間たちも一人、二人と減っていきました。彼らの分も僕は頑張らないといけないです。
旅をしていると、助けた村の人たちが感謝してくれます。そんなとき、僕は自分が頑張っていてよかったと思います。
そういえば、この剣についても最近少し知りました。この剣は聖剣トラヴィスというようで、選ばれた者にしか使えないそうです。きれいな棒だと思ってはいましたが、そんなすごいものだなんて知りませんでした。魔王を倒せるのは、この剣を使える僕だけだそうです。少し責任が重いですが、やりがいも感じます。
――平和な世界のために、人間族を守るために僕は剣を握ります。
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僕が剣を握るのは彼女を守りたいからだ。
彼女は僕の生きる理由だ。その勝気な性格と不器用な優しさが僕には心地よい。正直、人間がどうなろうが、僕はどうでもよくなっていた。彼女が幸せになれればそれでいい。
聖剣の正体も知った。それは聖剣と呼ぶにはとても禍々しすぎるものだった。聖剣というよりも魔剣とでもいった方が正しいだろう。
魔剣は僕に力をくれる代わりに、僕の命を削っていく。魔物によく効くのも、斬った相手の魔力や生命力を奪い取るためであった。魔王は物理的に殺すことができないが、この剣ならば、その魂すら食らいつくす。
だから、魔王を殺すためにはこの剣が必要なのだ。そして、王国にとって都合がよいことに、魔王を殺すころには僕自身の寿命も大して残ってはいないだろう。力を持ち過ぎた僕の処分を心配することもないというわけだ。本当によくできている。
彼女にはこのことを話してはいない。それを話してしまえば、きっと彼女は僕を止めるだろう。きっと、とてつもなく悩ませてしまうことになる。彼女はこの旅についてくるには少し優しすぎるから。
なんてことを書いたけど、本当は違う。僕が怖いだけなのだ。
彼女の言葉で僕の剣が鈍るのを恐れているだけなのだ。
僕は幸せを得るのがたまらなく怖かった。だって、もし幸せになっても、僕はすぐに死んでしまうから。もし彼女が僕を大切に思ってしまったら、死ぬことで彼女を縛り付けてしまうことになるかもしれない。
僕は彼女を守りたい。でも、彼女と一緒にはいられない。だって、この旅が終われば僕はいなくなるんだから。彼女を守るために剣を振りたい。それを理由にすれば、きっと最後まで戦い続けられるから。
それだけでいいのだ。彼女のために剣を振れる、それだけで僕は幸せだ。
僕はどうなってもいい。だから、お願いです神様。どうか、どうか、彼女だけは幸せにしてやってください。彼女を守る力を僕に下さい。
――僕は、彼女を守るために剣を握る。
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僕が剣を握るのは死にたいから。
彼女は死んだ。
最期の瞬間、僕は見ていることしかできなかった。あれだけ、大口を叩いておきながら、僕は何もできなかった。
そのとき、僕は全てを失った。生きる理由など最早何もなかった。
僕は、ただただ死にたかった。死に場所を探していた。
魔剣の影響で、僕の体には異常にな再生能力が備わっていた。本来僕の生命力を食らいつくすはずの魔剣が、なぜか僕の命を維持するのだ。どれだけ死のうとしても、魔剣がそれを許さない。
皮肉なことに、ここにきて初めて、魔剣が僕を持ち主として認めたということなのだろう。魔剣からの生命力の要求に耐えている限り、僕は外的要因で死ぬことが許されない。
そんな僕が死ぬ方法はただ一つ。
それは、魔王を殺すことだけだ。
僕以上の膨大な魔力と生命力を吸収することにより、魔剣の要求は最大限に達する。その要求に僕が応えられなければ、僕の命は一瞬にして搾り取られて枯れ果てるだろう。
本当にこの世界というものはよくできている。僕はどう足掻こうとも魔王と戦う運命のようだ。
戦う理由を失おうとも、生きる理由を失おうとも、僕は唯一の目的のためにこの剣を振るい続けなければならない。
そうだな、さっさと終わらせて、彼女のもとに急がないとな。向こうで会ったら怒られるだろうな。なんたって、僕は彼女に嘘をついていたんだから。それに、彼女との約束も守ることはないだろうし。
死に際に彼女が言った言葉、それは僕に生きてほしいというものだった。
――それでも、僕は死ぬために剣を握るのだ。
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僕が剣を握る理由は……
魔王の呪い、奴が死ぬ間際に施したそれは、僕を決して死ねないからだに変えた。
どれだけこの剣を振ろうと、この身が裂かれようと、焼かれようと、僕はもう死ぬことはできない。
それは生の呪いだ。数ある呪いの中から、奇しくも奴は僕にとって最も効果のあるものを選んだのだ。
本当に、最後まで最悪な存在だった。僕から家族を奪い、彼女を奪い、生きる理由までも奪ったうえで、死ぬ自由すらも奪うというのか。
僕は知っていた。魔族が悪だなんてただの決めつけだ。人間が正しいなんて傲慢だ。魔王を倒したって平和なんて訪れない。人間を一番苦しめるのは、同じ人間だ。
僕の故郷を襲った魔物、そんなものは存在しなかった。全ては僕に魔族への憎悪を抱かせるために作られた茶番だった。あの頃の僕はそんなことにも気づかないで、自分の行いが正しいものだと信じて疑わなかった。
いや、違うか。疑えなかったのか。
疑うことで、自分の行いが誤っていることを知るのが怖かった。
そして、周りの期待に応えられずに失望されることが怖かった。周りからの好意が、一転して落胆に変わることが恐ろしかったのだ。
全てはそんな臆病さの所為だったのだ。
あのとき、下らない使命なんか投げ出して、彼女をどこかへと連れ出していれば。
そうすれば……何て、今更何を考えたところですべて遅い。
こんな化け物みたいな力を得て、死ねない体になったって、過去を変えることはできないのだ。
ああ、何もかもが中途半端だ。
起きていたって仕方がないな、少し眠るとしようか。
なに、ほんの数百年くらいだ。今まで必死に頑張ってきたんだ。それくらい許してくれてもいいだろう。
ほんの少しの間だが、バイバイ、この残酷な世界。
神様、お前は僕が嫌いなようだが、せめて夢くらいはいいものを見せてくれよ。
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聞こえる、誰かが僕を呼ぶ声が。
彼女に似た、強い意志のこもった声だ。
もう少し寝させてくれてもいいじゃないか。
仕方がないな。少しだけ、世界の我儘に付き合ってやろう。
――僕が剣を握る理由は、この先にあるのかもしれない。
最後までお読みいただきありがとうございます。