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収束

「町には、はあ、はあ、ハネオオトカゲは行っていないね」

「大丈夫だ、ハル。すり抜けた魔物は全部俺たちが倒している」

「よかった、はあ、はあ」


 ハルは肩で大きく息をしている。


「おーい、みんな!」


 リクの声が近づいてきた。


「リク、サイラス!」


 危ないから町に戻ってほしいと思っていたのに。少し苛立ってショウが振り向くと、二人とも鉈を手に構えて、何とか魔物の間をすり抜けてきたようだ。ここまで来たのなら、戻るより一緒にいたほうがいい。

 少し息を切らしながらサイラスが口を開いた。


「丘の魔物がいっせいにこちらに向かって飛んできた。もうほとんど向こうには残っていないと思う」

「その情報、助かった。町には行っていないみたいだが、丘の方も気になってたんだ」


 レオンがほっとしたように頷く。


「こっちに来たんなら、俺たちの後方について、はぐれた魔物を倒してくれ」

「わかった」


 文句なしに頷くということは、既に何匹か倒してきたのだろう。


「はあ、はあ、ショウ」

「なに?」

「残ってる魔力は炎の魔法一回分、はあ、はあ、ショウはどう?」

「うん、剣で戦ってたから、風の魔法一回分はいけそうだよ」


 ショウとハルは草原を見渡した。かなり数を減らしたが、まだこちらを目指して飛んでくるハネオオトカゲがいる。


「最後にあれを落とすんだね」

「はあ、はあ、うん」

「わかった」


 二人は並んで前に進んだ。


 リクは思わず手を伸ばし、しかしその手を力なく落とした。危険だと引き止めてもいまさらなのはわかっていたからだ。


「ショウとハルが魔法を使ってからが俺たちの出番だ。一気にハネオオトカゲを落とすから、それを片っ端から始末するんだ」

「……わかった」



 ハルは前へ、ショウは斜め下にそれぞれ手を伸ばす。


「炎よ!」

「風よ!」


 ハルに少し遅れてショウの声が飛ぶ。


 ハルの手から、草原の草すれすれにすさまじい炎がまるで嵐のように吹き荒れる。それなのに一行のもとに熱風は来ない。


「ショウが風で押さえているのか」

「さすがだな、リク」


 レオンが感心してリクを見た。


「感心してる場合じゃねえ。さあ、落ちたハネオオトカゲを一匹でも多く始末するぞ!」


 ファルコの掛け声とともに、四人はそれぞれ前に走った。


「ハル! お前は休んでろ!」

「うん……」


 力尽きてしゃがみこんだハルは、それでも短剣を胸の前にしっかり抱え、レオンに聞こえるくらいの声でなんとか返事をした。


 それを見て、レオンはショウにも声をかける。


「ショウは!」

「魔法は無理だけど、剣なら!」

「ハルを!」

「もちろんだよ!」


 いろいろ省略されているが、お互いに通じ合っている。


 ショウも肩で息をしていたが、ハルをかばうように立つとすらりと剣を抜いた。


「かっこよすぎるだろ、あれ」

「リク?」

「なんでもない。さ、できることをやらなきゃ」


 不思議なことに、一度ハネオオトカゲを倒したら、その後はもう嫌悪感はなかった。地面にうごめいている、あるいはこちらに向かって来ようとするハネオオトカゲを、たんたんと倒していく。


 やがて座り込んだハルが立ち上がれるくらいになる頃、やっとハネオオトカゲが静かになった。全部倒したわけではないが、興奮も収まったようなので、よほど近くに行かなければ襲われたりしないだろう。


 それでも不安で、あちこちきょろきょろするリクの肩を、レオンがポンと叩いた。


「とりあえず、終わりだ」


 思わずほっとして座り込みそうになったが、慌ててショウとハルのもとに向かう。


「大丈夫だったか!」


 その声を聴いて、まずショウが反応した。


「リク! なんとかね。リクこそ大活躍だったね。初めての中型の魔物だったんでしょ」

「最初の一体だけきつかったけど、後は大丈夫だった」

「よかった」


 ふふっと笑ったのはハルだ。どうやらハルも少しは回復したようだ。


「ハルこそ! ショウもだけど、あんな魔法、俺、見たこともない。湖沼に行けばそんな魔法を普通に使えるのか?」


 なんと答えるべきかとハルは悩むような顔を見せた。


 ハルが答えようと口を開いたその時、レオンが町のほうを見てちっと舌打ちした。


「魔物が出たら、家から出るなって言ってあっただろうよ」


 その声に皆が町のほうを見ると、確かに町の方から、手に何かを持った町の人たちが近づいてくるのが見えた。


「サイラスとリクは何とかうまくやってたが、ハネオオトカゲにぶつかられると思わず転んでしまうくらいの衝撃だし、一度転んでしまって魔物にたかられたら冷静ではいられなくなり、怪我が大きくなるんだ。今朝説明したのに」


 いつも陽気なレオンらしくない言い方だった。


 それも当たり前だろう。


 ハネオオトカゲは、中型とはいえ、大人が付き添っていれば年少のショウでさえ倒せる魔物だ。しかしそれは、年少組に入ってから、狩人としての心得と共に、真剣に訓練してきたからできることなのだ。


 それなのに、ポーションの数さえ十分ではない、狩人でもない町の人が、何の役に立つ。運よく倒せて調子に乗ってしまったら、他の人を巻き込んで大きな事故になりかねないということを、アンファの町の人は理解していなかった。


「おーい、おーい」


 手を振って近づいてくるのは農作業中だった人たちだろうか。足元に倒れて動かないハネオオトカゲをこわごわと避けながら、おのおの鍬や鎌と言ったものを手に持っている。


「普段、土や草に使ってるものを、いきなり振り回したりしたらお互いに怪我をするのが関の山だぜ」

「レオン、どうした。俺たちがずっといられるわけではあるまいし、自衛するのは大切なことだぞ」


 ファルコがいぶかしげにレオンを見た。


「ああ、そうだな。その通りなんだが」


 そんな会話をしている間に、町の人が何人も集まってきた。


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