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今日のお仕事

 次の日、朝食に行くと、ショウもハルももう起きて食事を取っていた。もちろん、ファルコとレオン、それに導師も一緒だ。


「おはよう」


 笑顔で挨拶するショウとハルに、リクとサイラスの顔も自然に緩む。


「おはよう」


 挨拶して隣のテーブルに着く。食事を頼むと、意外なことに導師から話しかけてきた。


「昨日ゆっくりと話を聞く時間がなかったが、カナンの町のようすはどのような感じだろうか」

「それなんですが」


 サイラスが少し困った顔をした。


「昨日のこの町のようすを見る限り、カナンの町はそこまで困っていないように見えるんです。アンファの町より大きいから、治癒師も一人じゃないし、薬師も何人かいる。スライムやトカゲは増えているのは確かだが、怪我がひどくてどうしようもないという話は聞いたことがなかったですから」

「ふむ」


 導師は顎に手を当てた。そうはいっても、わざわざ深森から導師を呼び、アンファの町まで迎えを寄こすくらいだから、治癒師が困っているのは確かなのではないか。


「ただ、昨日のスライムの治療を見て、リクが、自分たちが知らないだけで、怪我の跡が残っていたり苦しんでいたりする人は実はいるんじゃないかって気づいたんです。ほら、怪我の跡が残っているというのは言いたくないことでしょう」

「確かにな。そうでなければわざわざ使者を寄こしたりしないだろう」


 そんな導師にリクも思わず口を挟んだ。


「俺は治癒師の勉強もしているけれど、将来の希望は農民だから、治癒師はあくまで兼業のつもりです。けど、俺のような兼業の人にまで頑張ってほしいという話はまだなかったんです」

「この町と同じで、困ってはいるが自分たちで何とかすべきという自覚と危機感がないのだろうな。新しい治癒の技を覚えたいということと、専業の治癒師を増やしたいということなんだろうが、とりあえずは」


 導師が難しい顔をした。


「迎えに来た割には緊急性が高いというわけではないんだな」

「なるべく早く連れてきてほしいとは言われています」


 導師は何かを決意した顔をした。


「よし、やりかけたことはちゃんとやろう。後五日間、私は試しの儀をなるべくたくさん行って、軽い治癒をできる者をなるべく増やそう。既に昨日だけでも数人素質のあるものを見つけたのだが、もう少し訓練をしておきたいのだ」

「私とハルは、昨日町長に頼んでおいた通り、子どもたちを集めてスライム狩りの訓練と薬草採りの実習をしようと思うの」


 ショウがハルと一緒にそう申し出た。


「俺たちは昨日で町の周りは一通りチェックしたから、ショウとハルと一緒に子どもたちに訓練だな」

「剣を教えたりはしないの?」


 リクは思わず聞いてしまった。自分でも目がきらきらしていたと思う。実際に腰に剣を差している人を見たら、やはり憧れの気持ちは出てしまうものだ。


「五日間程度では、教えても怪我をするのが関の山だな」

「そうかー、残念」


 剣と魔法の世界でも、剣を使わないところでは学びようがないのである。


「ところで、リクだったか」

「はい」


 導師に声をかけられてリクの背がピンと伸びた。


「リクにもサイラスにも試しの儀をやってみたいのだが、今いいか」

「はい、大丈夫です」


 導師はローブの中から水晶を二つ取り出した。


 リクは最初に教会に行った時以来なのでなんとなく緊張した。しかし、サイラスが、


「俺は七〇年くらい前だからもっと緊張する」


 と言ったので、思わず笑ってしまい緊張はすぐに解けた。


「リクは、ほう。ショウに匹敵するな」


 導師が思わず声を上げてしまうくらい水晶は優しい黄色に輝いた。


「魔力は、ほどほどと」


 魔力の量はほどほどらしい。


「サイラスは、うむ」


 癒しの力がわずかに輝いた。


「俺には癒しの力はなかったはずですが」

「どうやら、家族に怪我をしがちなものがいると、無意識に治癒の素質が発動するようなのだ。心当たりは」

「……あります」


 リクには心当たりがないということは、つまりその前ということなんだろう。


「魔物のいないはずのところで、なんで母さんは怪我をしたんだ」


 誰もが遠慮して聞かないでいたのに、ファルコがあっさりと疑問を口にした。


「その、ライラは案外不器用で、料理をするときとか」

「「ライラが料理?」」


 ファルコとショウが同時に声を上げた。


「決して上手ではなかったが、時々作ってくれたぞ」

「母さんが料理しているところは見たことがなかった」


 本当は料理など嫌いだったのだろう。それでもサイラスのためには料理していたというライラの若いころの秘密を知ってしまったショウのほうが照れているようだった。


「ポーションも常備しておく癖がついたのはそのあたりからだな」


 それはよいことではある。


「さて、サイラスの魔力のほうは平原の標準よりは上、と。日常的に魔法は?」

「使っています。荒れ地にはスライムが出ることもあるし、火を使うこともあるから」


 そういう結果になった。


「よし、サイラスは今日は私の手伝いをしつつ、癒しについて学ぶこと。リクはショウについて行って、なんでもいいからショウから学べ。そのほうがいろいろ早かろう」


 てきぱきと今日のリクとサイラスの予定を勝手に決めてしまうと、導師はさっそく立ち上がった。


「さ、行動開始だ」


 つられて皆立ち上がった。


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筆者の他の作品「転生幼女はあきらめない」2巻、7月中旬発売予定です!

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