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魂の形は

導師はまず一つ目の水晶をショウの目の前に置き、


「さあ、これに魔力を注いでごらん。少しでいいから」


と言った。トイレくらいの力かな? おお! あわい緑がぼんやり灯った。


「ふむ。適性あり、と」


女神ちゃんとしてた!ショウは疑っていたことを心の中でわびた。ファルコはうれしいようなそうでもないような複雑な表情だった。


「次にこれ」


似たような水晶玉だ。おお! 柔らかいクリーム色に灯った。


「魔力量十分にあり。適性の偏りなし。訓練すれば魔法師もいけるぞ」


それはなりたくない。ショウは首を左右に振った。


「ショウ、魔法師になるなら、湖沼に行って学園に学ぶ道を選ぶものも多い。治癒師になるならここ深森で学ぶのがよい。試しの儀が済んだばかり。ゆっくり決めていい」

「狩人でもいいんだぞ」


ショウに進路を説明する導師に割り込んでファルコが言った。


「ファルコ」

「導師、選択の自由はある」

「まあ、ファルコの言う通りだ。治癒師や狩人だけでなく、商人も、書類の仕事をする人もいる。しかし、癒しの適性があるのならば、ほかの仕事をしていても治癒に呼び出される事もあるから、訓練はしておかなければいけないよ。しかしな、訓練をするにしても春まで町には来られないのだろう。ファルコ、とりあえずショウを一週間ほど私に預けないか?」

「ダメだ。まだ拾って一週間だ。ショウの気持ちが落ち着いていない」


導師は片付いている小屋をゆっくり眺めた。


「十分に落ち着いているように思えるが。ファルコ、むしろお前ではないのか、不安なのは」

「そんなことはない!」


ファルコは導師が苦手なのかな。さっきから導師に振り回されてばかりだ。ショウは導師に声をかけた。


「導師、セイン様」

「ああ、いいな、セイン様と呼んでおくれ」


導師はファルコに向けていた厳しい顔を和らげてショウに向き直った。


「セイン様。訓練は早く始めないといけないものですか」

「そんなこともないよ。親のいないものは教会で早くから訓練することも多いが、たいていは12歳くらいからだ」

「なら、春からでいいです」

「ふむ」

「ショウ……」

「だって、ファルコの面倒を見ないと」


「くっ、ははは!」

「レオン!」

「だってよ、ファルコ、お前」

「俺は! 何でもいい、ショウがいてくれるなら」

「仕方がない、ショウのしたいようにするがいい」


導師は優しくそう言った。


「では、治癒の初歩を習っておこうか」

「今から?」

「魂の話を聞かせたろう。魂と体は切り離せないもの。体の傷は魂の傷。魂の形を直せば、体も自然と治るのだよ」


エネルギーってことかな。


「そう、治癒は、魔力を使って、ケガで欠けた魂のエネルギーを、女神のもとから補う行為だ」


つまり、燃料タンクが女神で、癒しの力とはそのタンクと魂を繋げるパイプと言うことか。


「さあ、私の手を取って魂の形を見てみようか」


導師はショウの手をとると、軽く魔力を流した。二人の間を魔力が行き交う。魂の形と言うと日本だと人魂だし、イメージは丸い。しかし、ここではつまり、身体の形だ。肉体に重なるようにそれはある。導師の魂には欠けたところはなく、美しく輝いていた。


「ああ、ショウの魔力は暖かいね」

「セイン様はキレイ」

「ありがとう。さあ、次にファルコの手を握って、どこのエネルギーが欠けているか調べてごらん」

「はい」

「いや、俺はケガなんかしてない」

「してないなら困らないだろう」


嫌がるファルコの手をとると、ちょっと嬉しそうになった。魔力を流す。熱い、明るい魂だ。しかし、


「ファルコ、左の肩……」

「っ、何でもない」


手をひこうとするファルコの手をぎゅっと握ってそれをとどめると、ショウは導師を見た。


「そこを元の形に戻すのだ」

「はい」


きれいな人型に戻るように、エネルギーを足していく。あの女神の元から引っ張ってくる。うん、できる。


「暖かい……あれ」


ファルコは肩を回した。


「治ってる……」

「それが治癒だ、ショウ」

「なんとなくわかりました」

「疲れはしなかったか」

「うん、大丈夫」

「そうか、では」


導師はレオンを見た。


「レオン」

「仕方ないな」


レオンが椅子から立ち上がった。


「ショウ、レオンの片足がうまく動かないのは知っているね」

「……はい」

「レオンには悪いが、ショウには厳しい現実を知ってもらう」


導師は厳しい顔になってショウを見た。


「治癒は万能ではない。レオンは狩人だったが、ケガをしてあまりに治癒まで時間がかかってしまったため、完治しなかったのだ」

「でも」

「時間がたつと、魂はすぐ欠けた身体の形を忘れてしまう。それを戻すことはできないのだよ」

「……はい」

「レオンのエネルギーを見て、どのように欠けているのか見せてもらいなさい」

「ほら、ショウ」

「レオン……」

「慣れてる。これもみんなのためだから、ほら」


少しさみしそうに笑うレオンの手とつなぎ合い、魂のエネルギーを見る。左、足首の所の輝きが足りない。


「ポーションもあったんだが、ケガの量に対して足りなくてな。助けが来るまでに2日以上、これでも外側の形はちゃんと治ったんだ」


それは苦しかっただろう。でも、とショウは思った。身体の形を忘れているなら、右足の記憶をコピーして、反転させて張り付ければ……。


「レオン、治癒してみていい?」

「いいぜ、悪くなることはないからな」

「うん」


コピーして、反転。この形に沿って魂のエネルギーを補充していけるか、いけた!


「ショウ、暖かいな、お前の治癒は」

「どう?」

「調子がよいような気がする、おい!」


ショウはガクッと力が抜けた。ああ、これ、山歩きのエネルギー切れに似てる。疲れてあまり食べないまま歩き続けて、動けなくなった時の。


「魔力切れだ。いきなり無茶をする。しかし、人目のある時でよかった。パンを食べて、少しすれば戻るから」


あわあわするファルコに導師が指示を出した。


パンをお茶に浸してかじり、しばらくするとだるいのも治った。


「あとは経験だ。幸い、と言ってはなんだがファルコは狩人で無茶をしがちだ。毎日きちんと見てやり、ケガがあったら治してやるとよい。町に出るまではそれで十分だ」


導師はそう話すと、レオンと共に名残惜しそうに帰っていった。挨拶だと言って抱き上げるのは忘れなかった。もういいや、それで。



「導師、よかったですね。町の子は怖がって抱かせてくれないから」

「レオンもだろう」

「はは。ファルコも俺たちがショウを抱くのは嫌なんだろうけど、ショウにバレるのが怖くて黙ってるしね」

「別人のようだったな。よい傾向だ」


標準ではなかったようだ。


「ショウが癒しの道に進みたいと言った時は半信半疑だったけれど、適性があってよかったです」

「そうだなレオン。深森では治癒師はいくらいても足りないくらいだから、ありがたい話だ。しかしな」


馬車の御者席に並んで座りながら2人は語り合っていた。


「しかしって、かわいい以外に何か問題でも? 確かに10歳にしちゃあしっかりしているし、身元も怪しいが、本人はとてもいい子だし」

「それも気になるが、そうではない。レオン、ちょっと馬車から降りてみろ」

「はあ?」

「降りてみろ」

「ん?はい、降りましたよ。導師、どうしました」

「足だ」

「足? あ」


レオンはその場で軽く飛んでみた。左足に力をかけてもみた。


「普通に動く……治ってる……なんで……ショウか!」

「気がついたか。ショウもファルコも、お前すら気づいていなかったから黙っていたが、ショウの治癒は普通ではなさそうだ」


導師は困ったようにそう言った。


「でも、これでまた俺は狩人に戻れる! 戻れる奴らが何人もいる!」

「ほら、それだよ」

「導師! ショウは希望だ!」

「だから狩られたんじゃないのか」

「……あ……」

「この事が知られたら、誰もがショウを欲しがるだろう。それにショウを巻き込みたいのか」

「いや、それは……すみません」

「お前の足も、少しずつ治っていたということにしよう。春まで偽装して、春から狩人に戻るとよい。訓練は欠かしていないのだろう」

「はい。俺、いつか、いつか狩人に戻りたかった。前線ではなくても」

「お前の事だ。このままでもいつかは狩人として戻れただろう。今はショウを与えてくれた女神にただ感謝を捧げよう」

「はい、導師、はい……」


女神は意図せず更に深い信仰を得たのだった。




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