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北の森の異変

11月12日、アリアンローズさんより「毒にも薬にも」1巻が発売になります!

記念に、番外編ではなく、本編を何話か先に出します。毎週金曜日、3話くらいですが、味見程度にお楽しみください。本に合わせて(ハルのつらい時期を減らしたかった)、ショウとハルの年齢を一歳低くしてあり、設定がここから変わります。よろしくお願いします!

 ショウがハルと一緒に暮らすようになって、一年とちょっとがたっていた。


 星迎えの祭りを迎え、共に13になったショウとハルは、冬を迎え今は北の森にいる。もちろん、レオンとファルコも一緒だ。


 冬になると魔物が活性化する北の森で、魔物を狩るのは北の町ではとても大切な仕事だ。森に魔物が増えすぎれば、魔物は町へと向かう。30年ほど前だが、北の町は実際に大きな魔物の被害に遭っている。


 ここ数年、あちこちで魔物が活性化しているようで、優秀な北の町の狩人は引く手あまただ。そんな中、ファルコだけはここ数年冬の間は北の森に留まっている。町の人はファルコに感謝しているが、実は移動が面倒なだけだとショウは知っている。狩りの腕は確かだが、ファルコは何かをやりたい、と切実に思うことはないようなのだ。


 例えば陽気で一見お気楽にみえるレオンは、狩りのことになると目の色が変わる。それは町の代表のガイウスも同じだし、ファルコの母親のライラも同じで、いくつになっても狩人としての腕を磨くのに余念がない。湖沼の魔術師のドレッドも、自分の魔術が向上するためならどこにでも行くだろう。もっとも、最近は冬になると北の町に入り浸っているけどねとショウはちょっとうんざりした。


「新しい魔法はないのか」

「え、ええ?」


 とうるさいからだ。ちなみに、まともに取り合ってあわあわしているのはショウではなく、ハルである。


「今年はないかなあ」


 などとショウみたいにサラっとかわしていればいいのに、


「え、えっと、ドライヤーの魔法を使って、洗濯を早く乾くようにしたら、町の人がとても喜んで」

「そうではなく、狩りに使えるものはないのか」

「身を守るために、自分の前に風の盾を作るとか」

「それだ! それを教わるまでしばらくどこにも行かない」

「え、ええ?」


 と、どこかで見たような光景になっている。二年前だったかなと、ショウは遠い目をした。そしてドレッドは、結局ドライヤーを便利にした魔法もちゃっかりと身に着けていくのである。


 そんなドレッドとライラも、今年は北の森の依頼を受けていて、ファルコとレオン、ジェネとビバルというおなじみの面々と共に、北の森の山小屋に泊まり込んで狩りをしている。山小屋はこじんまりとしているとはいえ、ある程度の人数は収容できるので、ショウとハルを合わせて八人という人数でも平気だ。


 しかし、狩人が六人というのは結構な人数だ。去年はハルが北の森の生活に慣れなかったから、ハルはいわばおまけのようなものだったけれど、今年は違う。


「狩人六人の生活の面倒を一人で見るのは大変です。ハルも同じ条件で雇ってください。ハルは魔術師だし、何より仕事が丁寧だから上等な薬草がたくさん手に入りますよ」

「一生懸命頑張ります!」


 ショウはハルと共にギルドにそう訴えて、二人で大人一人分の住み込みのお手伝いの契約をもぎ取ってきた。当初、ハルの頼りなさそうな外見を見て心配していた北の町の住人達も、おっとりした見た目のわりに堅実で、きちんと家事もできるハルをこの一年見てきて、安心してレオンを任せられると太鼓判を押すほどだ。


 もっともレオンが養い親になると主張した時は、ファルコとは比にならないほど反対があった。社会的な信頼度はレオンのほうが上だが、親としての適性はファルコ以上に疑われたからだ。


「女を取っかえひっかえの、独身男が子どもを? 無理無理」


 とファルコに言ったレオンの言葉はそのままレオンに返ってきた。女はともかく、経済力以外の生活力がないことは皆知っていたからだ。それに、ショウと同じ故郷で、親がおらず、捨てられた先でつらい思いをしたというハルの噂はあっという間に広まって、自分のところで大切に育てたいという問い合わせが殺到した。


「ショウとファルコと一緒に住む」


 と主張するレオンに、


「そんな人任せな」


 とあきれる町の人達だったが、ショウと一緒にいて落ち着いているハルを見て、仕方なくレオンに養い親を任せる事を納得したという経緯がある。


 それが一年たって、レオンはちゃんと親としてまっとうな生活ができることを証明し、ハルは半人前として、家政婦の仕事をもぎ取るくらいまで信頼を得たということだ。


「行ってらっしゃい」

「気を付けて」


 そう小屋の入り口から送り出すショウとハルに顔を緩めながら、今日も狩人たちは北の森に散っていく。


「さ、お仕事だ!」

「うん!」


 人数が増えると仕事も増える。二人で手分けしてお茶碗を洗い、簡単な掃除をし、洗濯をし、乾かしていく。


「いやー、ハルの考えたこの乾燥のやり方、ほんとにいいね」

「人数が多いと、ほんとに役にたつね」


 方法は二つだ。桶に洗った洗濯物を入れたら、もう一つ桶を少しずらして重ね、隙間から温風の魔法を流し込み、洗濯物を躍らせながら乾かす方法が一つ。洗濯ものが少ない時に便利だ。もう一つは、ショウとハルならではのやり方だが、狭い部屋にたくさんの洗濯ものを干し、ちょっと窓とドアを開けたうえで二人がかりで温風の魔法を注ぎ込む。魔力が多くないとできないやり方なのだ。


「私たち、洗濯屋もいけそう」

「いけるいける。将来の選択肢の一つだね」

「洗濯だけにね」

「ないわー」


 笑いながら八人分の洗濯をこなしていく。もっとも、湖沼の人たちが見たら魔力がもったいないと青くなっただろうと笑うくらいには、ハルも元気にはなった。


 家ではまだファルコと一緒に寝ていて、そろそろ何とか一人の部屋をもらおうと画策しているショウだが、山小屋はそのいい機会だった。


「ハルと一緒に二人部屋にする」


 と宣言したショウをファルコは絶望したように見た。しかし、


「そろそろ子離れしねえと嫌われるぜ」

「そもそもレオンはハルと別々に寝てるだろうが」


 ジェネとビバルの後押しにより、ショウとハルは一緒の部屋になり、ちょっと修学旅行のようで毎日が楽しいのである。


「さ、お昼を食べようよ!」

「うん。先にお茶をいれるね」


 この気の合いようだ。そして午後からはスライムを倒して薬草を取るのである。スライムはお小遣いのため、薬草はギルドからの依頼による。


 治癒師は素質もあるから、数を増やすのは難しい。しかし薬草を取ってポーションにすれば、治癒師のいないところでも怪我を治すことができる。このところ魔物が増え、怪我をする狩人が増えてきているので、ショウとハルには北の森の品質のいい薬草を採る緊急要請が出ているのだ。


 二人はもうスライム棒は使っていない。それは年少組に受け継がれ、子どもたちのいい小遣い稼ぎになっている。もっとも桶と箸はそのまま使っている。だって、スライムの核を手でつかむのはなんか嫌ではないか。ショウは剣で、ハルは魔法で、てきぱきとスライムを倒していく。


「さて、薬草を採ろうか」


 薬草を採るのが大好きなハルの声が弾む。初めての薬草採りの時、目を輝かせるハルを見てショウは、やっぱりねと思ったものだ。異世界に来たら薬草採り、これは絶対にはずせないもの。しかし、ハルと同じでいつもなら喜んで採り始めるショウは、ふと何か違和感を覚え立ちつくしたまま森のほうを見た。


「待って。森の方でいつもと違う気配がする。魔物は結界で近寄らないかもしれないけど、一応小屋の近くまで戻ろう」

「う、うん。わかった」


 ハルにはその気配はわからなかったが、ショウがそう言うのならそうなのだろうと思った。ショウはハルを先に行かせ、小屋のすぐ前でドアを半分空けたまま森から目を離さなかった。


 がさがさという音がハルにも聞こえてきたのと同時に、人の声も聞こえてきた。


「魔物じゃない。でも、みんながこんな時間に帰ってくるなんて」


 ショウの声にはまだ警戒の気配がする。がさっと、道とは違うところから出てきたのはドレッドで、そのすぐ後に、レオンとファルコが誰かを抱えている。長い金髪がはらりと揺れた。


「ショウ! ライラが魔物にやられた!」

「中に運んで!」


 すかさずハルが全開にしたドアを、ライラを抱えたレオンとファルコが通り過ぎた。ちぎれた服と赤い色が目に入る。二階に運んでいる余裕はない。


「床にそっと寝かせて!」


 今年の冬は、厳しい始まりになりそうだ。


土、日は「この手の中を、守りたい」、月、木は「転生幼女」水曜日は「ぶらり旅」を更新しています。これらが少し落ち着いたら、「毒にも薬にも」再スタートしますので、少しお待ちください!


【宣伝】

異世界でのんびり癒し手はじめます~毒にも薬にもならないから転生したお話~1巻

この手の中を、守りたい3巻~憧れの冒険者生活、始まります

2巻とも11月12日発売!アリアンローズさんより。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前話では 今年の星迎えの日、ショウとハルは14歳になる となっているのに 今話で 星迎えの祭りを迎え、共に13になったショウとハル となっているのはなぜですか?
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