輝く魂のひとつに
2018年11月12日、アリアンローズさんから書籍化します!
深森への道のりはどんなに楽しかったことだろう。
「いい、こうして棒でつつくと……」
「わ、毒が出た!」
「これを二回繰り返すと、三回目には……」
「毒が出なくなるのか」
「そこをこう」
ショウはスライムを切り裂いて見せた。
「これをよく洗ってと、はい500ギル」
「おやつ代だ!」
こうして二人の子どもが並んでしゃがみ込み、頭を寄せ合ってスライムを狩っている。大人組はそれを眺めるために、狩りを何日か休んだほどだ。
「何よりの癒しだな」
「かわいいわね」
ドレッドとライラも珍しくのんびりしている。意外そうに見ているファルコに、ライラは
「なによ」
と不満そうに言った。
「いや、ライラならさっさと狩ればいいのにって言うかと思ってた」
「私だって思ってるわよ。剣でしゅっとやればいいのにってね。ハルだって、魔法を使えば一発じゃない?」
「ならなんで言わない?」
「だって、もたもたしてるのがかわいいんじゃない。それにね」
ライラは得意そうにこう言った。
「言わなくていいことは、言わなくていいのよ」
ファルコは肩をすくめた。きっとまた、なにか言わなくていいことを言い出すに決まってる。それでも、ライラは確かに変わった。
「ファルコー」
ショウが手を振っている。見てて? 何をだ?
ショウはすっと立ち上がると、剣をしゅっと振った。水魔法を使って、すぐにスライムの魔石を取り出し、得意そうにファルコに見せた。スライムの魔石を濁らせずに狩れるようになったら、もう狩人も見習いとして認められる。ファルコは誇りに胸を膨らませる。
「レオンー」
今度はハルだ。レオンがにこにこと眺めていると、ハルはしゅっと炎の魔法を撃つと、魔石を洗って掲げて見せた。よくわからないレオンに、
「魔術師の大人でもできないやつもいる。すご腕ってことだ」
とドレッドが解説する。レオンもやっぱりハルを誇りに思う。
最初野外の料理に戸惑っていたハルも、すぐに慣れてショウと一緒に上手に料理をする。本人の言うとおり、確かに家事はできるようだ。
各町で魔石を売っておやつを買いに走るショウとハル。トカゲをびくびくさばくハルに、真剣に教えるショウ。あまり魔法に興味のなかったショウに、丁寧に魔法を教えるハル。それを見て、驚いた顔で参加するドレッド。子どもがいるだけでこんなに面白い。レオンは魔術院の奴らを気の毒にさえ思うのだった。
やがて旅の後半は狩人たちは狩りに戻り、導師だけの至福の時間もあったりして、北の町にたどりついた。
「ショウだ!」
「導師だ!」
馬車を見つけると町の子どもたちが仲間に知らせに走る。やがて馬車が止まると、子どもばかりでなく町の大人たちも、新しい子供を一目見ようと集まってきていた。
「うーん、馬車から出にくいな」
「ショウ、どうしたの?」
「ん、ハルはいいや、そのままで」
人の気配に何にも気が付いていないハルに、無理に緊張させることもあるまいと、ショウはあえて何も言わなかった。
「ショウ、ハル、先に降りろ」
「わかった」
「はい」
二人が馬車から出ると、どよめきが起こった。
「ショウが二人?」
「ショウ?」
「そっくり!」
などと声がする。そっくりなわけもないのだが、色が同じというのはそういうものなのだろう。
「いや、髪がまっすぐだぞ」
「きれいね!」
「ショウは巻き毛だしね」
いちいち比べなくてもいいだろうと思うのだが。ハルは驚いて固まっている。固まっているハルの横で、ショウが腕を組んで冷たい目をしている。そうやって比べてみると、確かに違う。
「目が大きくて、こぼれ落ちそう」
「なに、あのびっくりしたリスみたいな感じ」
「「かわいい」」
図らずもハルのかわいらしさが際立つことになった。別にいいけどね。ショウはふーと大きく息を吐くと、
「湖沼から来たハルだよ! 仲良くしてね!」
と大きい声で言った。ハルはぺこりと頭を下げた。それに年少組はわっと声を上げた。ショウとおんなじだ。ショウも最初のころそんな風に頭を下げていた。たちまち子どもたちが集まってきた。ショウはにこにこし、ハルはあわあわしている。
そのすべてを、アウラはしっかり観察していた。よさそうな子だ。湖沼の重たい服を着ているけれど、せっかくだから深森の軽いチュニックを着せたいわ。かわいいショウとおそろいがいいかしら。
そして、楽しそうにショウを見ているファルコに近寄った。
「ファルコ」
「な、なんだ」
ファルコは少しアウラが苦手だ。というかショウ以外の年少組の女子は苦手だ。もうアウラは年少組ではないけれども。
「いい仕事したじゃない」
「お、おう、まあな」
珍しく褒められた。
「でもね、ほら、見てみて」
「何をだ」
「今までショウに興味がなかった若者も、ハルとの組み合わせでその愛らしさに気が付いたに違いないわ」
「まさか」
そう思ってみると、確かに若者がショウを見ている気がする。
「ライバルが増えるわね」
一言言ってアウラもショウとハルのそばに移動した。
ライバルって、まったく何を言っているんだか。頭を振るファルコだったが、あっという間に深森に受け入れられたハルに温かい気持ちになった。ショウがいるから。ショウがいるから、温かいんだ。ファルコはそっと胸を押さえた。
今年は魔物も多そうだということで、ギルドからの依頼を受けてファルコとレオンはショウとハルを連れて北の森に合流し、ハルはそこで落ち着いて深森の暮らしを学び、春になって町に戻ってくる頃には、簡単な治癒も覚え、すぐに年少組になじんだ。
北の町が去年と違うことは、黒髪の子どもが一人増え、心配症の養い親が一人増えたことだけ。年少組は走り回り、見習いは背伸びし、そうして大人になっていく。
「ショウは今年は暖色にしようよ」
そういうアウラに、ショウは難しい顔する。
「それなら黄緑がいい」
「仕方ないわね、ハルはこの橙色にしよう」
「似合うかな」
「似合うわよ、私の見立てよ」
今年の星迎えの日、ショウとハルは14歳になる。ショウの持ってきた湖沼のおみやげの刺繍は、北の町の女の子に大流行で、今年はチュニックのすそや胸の部分には何かしらの刺繍がしてあってかわいらしい。
「ほら、ファルコとレオンが来たわよ」
二人はアウラに押されて、照れくさそうにファルコとレオンのもとに歩み寄った。
「もうくるくるする年じゃねえか?」
恐る恐る聞くファルコとは、今年も少し目線が近くなった。
「隣でくるくるしてるけど?」
「あ、レオン、俺がショウに気を使って我慢してるのに、え?」
「はい、くるくるして」
「いいのか、ほら!」
もうすぐしてもらえなくなるんだから。子どもとして大事にしてもらえる時期を楽しまなくちゃ。ショウとハルの明るい笑い声がはじけた。もっとも、大人になってもくるくるされることを今はまだショウは知らない。
「ほら」
「わあ」
ショウとハルにひとつずつランプが手渡される。さあ、手をつないで岩場に行こう。そして静かに夜を待つのだ。
暗闇にランプが光る。夜よ戻っておいで。地上にも星はたくさんあるから。
「これが星迎えの祭り……」
なんと美しく、神秘的な祭りだろう。そして今日、一つ年を取る。やっと。そうやっと、星迎えの祭りに来ることができた。私もこの世界で輝く魂の一つに、やっとなれたんだ。
「夜は冷えるから」
レオンがそっとハルを抱え込む。背中が温かい。隣でファルコに抱え込まれて冷たい目をしているショウと、目が合った。しょうがないね、と肩をすくめるショウをみて、思わず吹き出してしまう。
「そうやって、笑ってろよ」
そうやって優しい目で見るこの人たちとともに。生きていこう。この世界で。
ショウとハル編、終了です。恋愛……遠い……。
ここまで書いたので、完結にせず続けようと思うのですが。
ただ、このお話、書くのに時間がかかる……だいぶ先になるかと思います。次は平原の少年編か……需要なさそう(笑)それでもよければ、おつき合いください!
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