相変わらずの大人二人
スライムよりずっと立派な魔石が手に入ってほくほくしているショウは、料理の下準備が終わるとまたスライム狩りに戻った。導師はそれとなく、もっと馬車の近くで狩るように言っておく。
やがて日も暮れかけた頃、四人の狩人が満足げに帰ってきた。収納袋に入っているのでわかりにくいが、十分に狩れたのだろう。
「ショウ、今晩の飯に何を使う? いろいろとってきたぞ」
レオンがショウに尋ねた。ショウは、
「ん、今日はハネオオトカゲを狩ったからそれを使うよ」
というと、下準備して焼くばかりになっているたくさんの串を見せた。
「ハネオオトカゲって、導師がか?」
「ん? 私」
「私って、ショウ、お前……」
「んー、もし鳥を狩っているなら、それは明日使いたいかな」
「鳥も狩ってあるが……」
レオンが困惑してショウを見ていると、ファルコが導師の元から戻ってきた。レオンはほっとしたようにファルコに、
「ショウがハネオオトカゲを狩ったっていうんだが」
と言った。
「ああ、導師から聞いた。いくら草原だからといって、だいぶ近くに来るまで、トカゲに気づかなかったと聞いたぞ」
「え、気づいてたよ?」
ショウの目が泳ぐ。
「ショウ」
「ごめんなさい。久しぶりにたくさんのスライムがいて、夢中になってました」
ショウはしゅんとして下を向いている。
「お前がハネオオトカゲくらいにやられないのはわかってるが、狩人には慎重さが大切だぞ」
「狩人じゃないし」
「なんだ」
「別に」
ショウはちょっとブツブツ言い返したが、慎重さには素直にうなずいていた。それを見るとファルコは、
「ショウの初めての大物だなあ。食べるのが楽しみだ」
とショウの頭をぽんぽんと軽く叩いた。そうか、とレオンは思った。あんなにショウを大事にしているファルコだから、きっと心配して怒るに違いないと思っていたが、この二人にはこんなにも信頼関係がある。ショウの力に不安があったなら、そもそも導師と二人で残したりしなかっただろう。
いつの間にか、二人とも成長していたのだ。レオンが胸を温かくしていると、
「ショウもずいぶん大きくなって、もう抱き上げることもできないほどだったなあ」
と導師がのんびりと言った。
「抱き上げる?」
ファルコは導師を見た。ショウがさっと横を向いた。
「ん? 抱き上げてないぞ。抱き上げようとしたら重くてなあ。そっと抱きしめただけだ。ははは」
はははじゃないよ、セイン様! ショウは天を仰いだ。
「ショウは最近俺にだってそう抱かせてくれないのに! ショウ!」
「そろそろ肉が焼きあがったかなっと」
「ショウ!」
「わあ!」
ファルコはショウをさっと抱き上げた。
「俺には大きくも重くもない」
「ファルコ」
ショウは縦抱きにされたまま、ちょっとため息をついた。
「ハネオオトカゲを狩れるような年の子が抱っこはおかしいでしょ」
「おかしくない」
しょうがない。ショウはすねているファルコの頭をそっと抱きしめた。ショウのお腹に顔を埋めるファルコの巻き毛をそっと指に通す。巻き毛もファルコのものなら好きなのにな。
「さ、お肉を食べよ?」
「もう少し」
「はいはい」
ファルコの機嫌が直るころには、ハネオオトカゲの肉はいい具合に焼けていた。
大人になったのはショウだけか。レオンは下を向いてにやにやを隠していたが、それはライラもドレッドも同じで、それを見たショウの機嫌がちょっと悪かったのも仕方がない。
ただ導師とファルコだけが機嫌よく火を囲んでいるのだった。