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スライムは欠かせないよね

「ショウをつれて一回町に行きたいが、ここでの契約もあるし」


ファルコは町に帰るレオンにそう話しかけた。


「だな。また一週間後にだな」

「とりあえず、子どもの着替え一式と、食料多目に」

「わかった。あとギルド長と、教会にも連絡はしておくな」

「よろしく頼む」


レオンはショウに向き直ると、


「ほんとは養い親に預けたいところだが、ファルコがわがまま言うから仕方ねえ、冬の間はここで暮らしてな」


と言って頭をなでた。今は11月だそうだ。頭を撫でられるなんて20年ぶり?


「はい」

「いい子だ」


なごりおしそうに去っていった。ホントに子どもが大切にされてるんだな。


「さて、ショウ、俺はここで冬の間北の森の番人をしている」

「番人?」


ファルコは狩人って言ってた。


「お前は、北の森も狩人も知らねえな?」

「はい」

「あー」


ファルコはこめかみを右の手でトン、トンと叩くと、簡単に説明した。冬の間北の森では魔物が増える。森の入り口のこの小屋に強い狩人がいることで、町に出る魔物が減る。更に狩人が魔物を減らす。狩人は滞在するだけで報酬が貰えるし、とった魔物を売って更に報酬が上乗せされる。腕に覚えがあれば、すごくいい仕事で、この何年か冬の定番の仕事なのだと。


「いつもはもう2組くらい一緒だから、交代で町に出れるんだが、今年は俺だけでな」


だから面白い子どもを独り占めなんだがな、とファルコは心の中で続けた。


「とりあえず、昼は狩りだから、ショウは1人なんだが、退屈だろうからスライムでもやっつけとくか」

「スライム! 水色の?」

「知ってるのか? いろんな色があるが、酸を吐くから気をつけろよ」


と、ポーションと短剣を渡して、スライムの倒し方を教えてくれた。思わず受け取ってしまった。つついて、酸を吐かせて、すきを見て切る。そして、


「じゃあ、夕方には帰るからな!」


と、爽やかに去っていったファルコを、ショウは呆然と見送ったのだった。え、私戦いたくないって、あ、女神様にしか言ってない? いや、ファルコにも剣はやらないって言ったよね? なんで私、剣を持っているんだろう。


とりあえず、魔石の使い方を教わったから、水を出して、お茶碗を洗って、お掃除して、お昼を食べて、そして、テーブルの上に置いておいた短剣を見た。


そしてファルコの言ったことを思い出す。スライムは草むらにいて、子どもにケガをさせたりする侮れない魔物だって。できるだけ減らした方がいいこと、そして、


「こいつの魔石、一つ500ギルだぞ?」


と言っていた。500ギルって?


「このパンが5つ買える」


ショウはパンの硬さを思い出して、少し嫌な顔をした。


「食べ物は大事だぞ。じゃあな、その魔石4つでギルドの宿屋に一泊できる。朝、夜付きでな」


宿屋! ショウの目が輝いた。


「じゃあ、一ヶ月9万ギルあれば暮らせる?」

「ああ、最低限だがな」

「一日3000ギルか。スライム6匹? むりむり」

「お前……計算早いな。6匹くらい簡単だがな。そのうち子どもが小遣いを稼ぐやり方教えてやるから。薬草とかな」

「薬草!」


そういうのがやりたかった! でも、現実にはスライムの倒し方しか教わっていない。仕方ない、とりあえず観察してみよう。


ショウは体より長い木の枝を用意して、スライムを探した。


この山小屋には敷地内に強い結界石が四方に置いてあって、強い魔物は入れないようになっている。逆に、スライムやトカゲなどの弱い魔物は入れると言っていた。だからスライムは結構いる。


ショウは棒を使って、スライムが酸を吐く様子を観察した。スライムが警戒して酸を吐くのは、直接触った時か、警戒態勢にいる時に、近くに寄った時だけ。吐く酸の距離は、およそショウの大股で2歩くらい。酸は2回は全力で吐くが、3回目は出ない。しばらくするとまた吐くようになる。


1日目はスライムをつつきまくり、観察で終わって、ファルコに1匹も取れなかったとあきれられた。2日めは1日めの検証だ。何回繰り返しても、同じ。


つまり、遠くから2回つついて酸を吐き出させたら、切る。魔石は水魔法で洗うんだと言われたが、まだ魔法は使えない。枝を削って箸を作り、水を張った桶ですすげばそれで大丈夫だろう。


2日めも何も取れなかったショウを少し温かい目で見たファルコに、イラッとしたのは否定出来ない事実だ。ファルコはできないショウに手取り足取り教えたいから、できないことが嬉しいのだ。


「来週から剣の訓練も始めるぞ」


とうきうきしているファルコをどうしてやろうか。一緒に寝ない?


そう、1日目に自分で別の部屋を用意したショウに、ファルコは激しく抵抗した。何組も泊まるだけあって、こじんまりとしているとはいえ小屋にはいくつか部屋があったのだった。自立の大切さをとくショウと、子どもの情緒の安定をとくファルコ。しまいには何のために引き取ったのかと嘆くファルコにショウが負けた。まあ、温かいし。


一方、ファルコは毎日が楽しい。布団は温かいし、ご飯は楽しい。パンをクルクル回すのが見たくて、わざと大きなパンを渡しているのに、最近は自分で薄く切って食べるようになって残念で仕方がない。


剣はやらないといいながら、預けると素直に受け取って鼻の上にシワを作っているショウ。スライムを見て目を輝かせ、害獣だと知ってがっかりするショウ。スライムを遠くからつついてみているショウ。宿屋に泊まりたくてキラキラしているショウ。


子どもと暮らすのがこんなに面白いとは知らなかった。50年生きていて、今が一番楽しいかもしれない。


しかし、2日目の夜、ショウが言った。


「レオンが持ってきたスープがなくなりそう。これからどうするの?」

「あー、パンと干し肉食ってる。普段は」

「え、あと4日も?」

「ん、まあ」


まずかったか? 狩人なんてそんなものだが。そういえばショウはいいとこの子か。来週からは食材が増えるが、今週はどうする、俺。こんな事で子ども育てられんのか。


焦るファルコを尻目に、ショウは食料庫をかき回して、いろいろ集めていた。最初に支給された根菜類。ねぎ。長持ちする果物。干しキノコ。干し果実。小麦粉。干し肉いっぱい。


次の日の朝、腕の中にいないショウに焦って起きだすと、カマドの前でスープを作っているショウがいた。パンも薄く切られて温められている。


パンも薄く切って温めると難なく食べられるんだな。クルクル回さなくても、小さい口でモグモグしているショウのかわいいことと言ったら。


ぼんやり見ていたら早く準備をしろと怒られた。怒られるのも悪くない。思わずにやけると、ショウが冷たい目で見た。冷たい目も、悪くない。むしろ、いい。


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