迎えに行こう
「え?」
ファルコの隣に落ち着いていたショウがけげんそうな声を上げた。
「ハル? だってドレッド、ハルは魔術院で勉強してるって言ってたよね」
「勉強はしていた。衣食住も賄われていた。しかし、養い親もおらず、誰も気にかけてやらなかったらしい。挙句の果てに、魔力量が多くて魔物を引きつけられるからと、狩りでおとりにしていたというんだ。その時の魔術師の魔法に巻き込まれて、怪我をしたらしい」
その話は余りにもひどすぎて、誰も何から追求していいかわからないほどだった。
「養い親すらいねえってそれは……。ショウのときだって何人もやりたがって大変だったのに」
「そうだったの?」
「そうだ。俺が勝ちとった」
得意そうなファルコに、導師が憐れむように言った。
「ショウがファルコの面倒を見られそうだから決まったのだ」
「なっ」
焦るファルコを横目で見ながら、ショウは続けた。
「だけどハルも私と同じ年だから、年少組だよ? 実戦は後方支援のみでしょ」
「おとりだ。つまり、最前線で魔物を集める役割だったそうだ。本来ならありえないことだ。しかし、そうなってしまっていた」
「ノーと言えない、か」
おとなしそうな女性だった。守られてばかりだったから、守りたいのだと言っていた。
「世話してくれる所に送るって言ってたのに……」
「ショウ、お前が送られた場所を覚えてるか」
つぶやいたショウにファルコが言った。
「そうだ、真冬の森。ファルコが通ったのは本当に偶然だった!」
はっと気付いたショウに、導師もこう言った。
「よき人を選んで送るなどとそんなことはどんな魔術師でもできまい。それに」
導師は眉を曇らせた。
「もしハルとやらがショウと同じように強い力を持っていたら、それは人を狂わせることになるかもしれない」
そう、隠してはいるが、欠けた体を再生できる可能性がショウにはある。ハルにもそのような力があったら?
「でも、それはハルの責任じゃないよ!」
ショウは大きな声でそう言った。
「その通りだ。幸い、今年の冬はまだ何の計画も立てていなかった。治癒の訓練に来るものはこの街の教会の治癒師で十分に指導ができる」
「では導師」
ドレッドが導師を見た。
「依頼を受ける」
「ありがたい」
ほっとするドレッドに、ライラがふふっと笑った。
「寝ているところしか見なかったけれど、まるでショウかと思うほど似ていたわ。髪が違ったかしら。まっすぐでね」
さらさらのストレートか! ショウは自分の巻き毛が好きではなくて、ストレートに憧れていたのだ。うらやましい。
「ショウは元気に走り回っているのに、この子はと思ったらいてもたってもいられなくてな」
ドレッドが照れくさそうに言った。
「では、準備に一日。あさって出発でよいか」
「そんなに早く。ありがたい」
「護衛は募るか……」
「もちろん、私とライラも行く」
「着いたばかりだろうに」
「連れていくまでが依頼だ」
「助かる」
決まっていく話を聞きながら、ショウはファルコを見た。ファルコは、
「いいよ」
と言った。
「いいの?」
「レオンにも聞いてからだが、あいつは面白いことが好きだから、大丈夫だろ」
「できれば連れて帰りたい」
「わかってるって。深森で養い親を探そうな」
「ファルコ……、ありがとう」
ショウはファルコにギュッと抱きついた。ファルコはショウの背中をポンポンとたたいた。
「導師、あれはいい場面に見えるけれど、こんなことでショウが抱きついて来てくれるなら、俺は何でもするぜって思ってる、ちょっと間抜けな息子ってことなのかしら」
「ライラ、言わなくていいこともあるんだ」
「難しいわね」
「そうだな」
ショウとファルコは、ライラとドレッドを連れてまずジーナの宿屋に行った。きっとそこにレオンもいる。ジーナは、
「やれやれ、また来たのかい?」
と相変わらずだ。
「ジーナったら。今回は依頼よ」
「依頼だって?」
「湖沼でけが人よ。導師の手を借りたいらしくて」
「ふん。それならしかたがないね。今年もクロイワトカゲがたくさん入ってるよ」
「それでお願い」
なんだかんだ言ってジーナは親切なのだった。
「湖沼か。あまりよその国に頼らないはずだが、よほどなのかねえ」
レオンがエールを頼みながらそう言った。ファルコがこう答えた。
「子どもらしくてな。なあ、レオン」
「なんだ?」
「導師の護衛として行きたいんだが」
「そりゃあ面白い事なら何でも構わないが、ショウはどうする」
レオンは難しい顔をしてそう言った。養い親であっても親は親。成人するまでは自分より子どもを大切にしないとな。しかしショウがあっさりと言う。
「私も行くよ」
「子どもに旅はまだ危険だ」
「でも岩洞には三回も行ったよ」
「それは、町ぐるみの狩人の移動だからだ」
レオンが意外と頑固だった。ショウはちょっと考えた。
「ねえ、ドレッドとライラ、ファルコとレオン、そして導師がいるんだよ。これ以上安全な旅ってないんじゃないの?」
「それは……」
ぐっと詰まるレオンをファルコは面白そうに眺めるし、
「レオンの負けだな」
「ファルコがショウを残していけるわけないだろ」
「むしろお前らが面倒を見てもらうことになるんじゃないのか」
と周りは騒がしい。
「わかったよ。その代わり、ショウはちゃんと言うことを聞くこと。ファルコは甘えないこと」
「わかった!」
「なんで俺まで……」
こうして、かなりの戦力を抱えて湖沼へと旅立つことになったのだった。
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