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依頼

「魔力を放出させ、魔物をひきつける。大量に集まった魔物を一気にたたくと言うわけです。その魔法によって跳ね飛ばされ、このように怪我をしたのです。傷跡から見ても何度もあったことでしょう」

「子どもをおとりにするなど、国の民を魔物から守る魔術師としての役割はどうした!」

「平原の捨てられた子だからと」

「それが知られたら大きな問題だぞ!」

「そんなことにも気づかぬのです。今の魔術院長とその周りの魔術師たちは」


ドレッドはハルを見ながら考えた。


「連れていった方が早くはないか」

「残念ながら、馬車の揺れは怪我に響くかと」

「わかった。ライラ」


ドレッドは決意したように言った。


「わかってるわ。ファルコがまた来たのかっていやな顔をするわね」


ライラはそれでもくすくすと笑った。


「怪我は」

「右鎖骨と肩の骨折です。ポーションでくっついていますが、元通りに動くかどうか」

「確か片側なら何とかなるはずだ。この状況を聞いたらショウが黙ってはいまい。あの落ち着いた子どもがどう出るか、見ものではあるな」

「戻ってきたばかりなのに、すみません」

「いや、よく呼んでくれた。確かに導師に伝え、治療できるものを連れてこよう。ちょうどよい。そろそろ深森に行こうと思っていたのだ」

「お願いします。この子どもはもう魔術院には戻しません」


治癒師ははっきりと言い切った。ドレッドとライラは、すぐに深森へ旅だった。


☆ ☆ ☆


「ファルコー」

「げ、ライラ」


湖沼の魔術院のある町から深森の北の町まで、馬車で2週間だ。今年は冬をどうするか決める時期に、ライラとドレッドはやってきた。ファルコはおののいた。勝手に愛を叫んで旅だった母親が帰ってきたのだ。


「今年も泊めてね」

「ええ、いいですよ、ライラ」

「お前、ショウ、何勝手に決めてるんだ」


にこやかに笑顔を交わす二人に、ファルコは思わずそう言った。


「え、だめなの」


ショウが驚いて下からファルコを見上げる。確かに正直、ライラ達が来たときはとても大変だった。しかし、一年に一度くらい滞在したっていいのではないか。そう思ってファルコを見上げたショウは、おととしからずいぶん背が伸びたが、それでもまだファルコの胸にも届かない。明るい茶色の瞳が少しかげり、眉が少し下がっている。お菓子の買いすぎではないかといってもこんな顔はしたことがない。ファルコは見とれた。


かわいい。がっかりした顔も。ファルコはそう思った。このまま家に連れて帰って膝に乗せて慰めるとかどうだろうか。心配するなって頭をなでて、あ、そもそも俺が困らせてんのか。まあショウがそうしたいと言うんであれば、仕方ない。


「だ、だめではない」


ショウの顔がぱあっと明るくなった。


うん。かわいい。それを眺めていたライラがショウにこう言った。


「今のはわかったわ、ショウ、ファルコは何にも言わないけど、そのにやけきった顔、ショウがかわいくて仕方がないって顔ね!」

「ライラ、うん。言わなくてもわかるようになったんだね」

「そうよ、成長したのよ」


ライラは得意げだ。ショウはちょっと苦笑いしてこう返した。


「でもね、言わないことは言わないままでいいこともあるんだよ」

「そうなの。難しいわね」

「難しいね」


2年たってもマイペースなライラだった。そこにドレッドが声をかけた。


「ライラ、それより依頼だ」

「そうだったわ。導師にもすぐお会いできるかしら」


依頼? ショウとファルコは顔を見合わせて首をかしげた。何の事だかわからないが、急いでいるならすぐ動かなきゃ。


「それなら、荷物だけ置いて直接教会に行った方が早いよ、行こう!」


みんなで家に急ぎ、荷物を置いて教会に向かう。導師はライラとドレッドを見て片眉を上げたが、依頼ということで小部屋に向かった。3人を見送って、ショウとファルコは帰ろうとしたが、


「待って。ショウにも関係あることだから、一緒に」


とライラに声をかけられ、首をかしげながらついていくことになる。ファルコは? 自動でついてくる。


その小部屋は簡素ながらも、ゆっくり話ができるよう、低いテーブルをはさんでソファが三面におかれている。導師がまずゆったりと一人で座り、ショウに向かって手を広げた。


「いや、膝にはもう乗りませんよ。13歳ですから」


悲しい顔をしてもだめですよ、とショウはあきれて導師を見た。毎日のように繰り返される儀式のようなものだ。それになんでファルコの手がお腹に回っているのかな? もう。


「さ、お茶をいれているので、話を進めていてください」


ショウはソファに座らずに、部屋の片隅でお湯を沸かし始めた。


「ほんとにここは子どもを大切にしているな」


ドレッドがぽつりとそう言った。大切にしすぎるくらいだよ、とショウは思う。


「話とは、湖沼で怪我をした少女がいて、それを導師に見てほしいというものだ」

「湖沼か。往復ひと月はかかるだろうな。連れてはこれなかったか」

「怪我をしたばかりでな。怪我に響くからと。それに栄養状態もよくない。治療を始めるまでに、少しはよくなっているといいが」

「ふむ。けがの状態は」

「詳しくは手紙を預かってきている。これだ」


導師は手紙を受け取り、すぐに目を走らせている。片側だけの怪我なら私じゃなくても、ここの治癒師ならだれでもできるんだけどな、と思いながら、ショウは入れたお茶をみんなに配る。


「ありがとう。ショウのお茶は美味しいから」

「ショウの作るものは何でもうまい」


ファルコの一言はみんなスルーだ。導師はすぐに手紙を読み終わると、ドレッドに話しかけた。


「この手紙の通りなら、この教会の者ならだれでも治せるだろう。わざわざ私を指定したのはなぜだ」

「まずは、深森の多くの治癒師がその治療を体得したということが湖沼では知られていないから。そしてその子どもには養い親がいなくて、預かり先が魔術院だから」


そう答えるドレッドに、導師はふむとあごに手を当てた。


「発言力のある者が来てくれたら嬉しいということだな。しかし、孤児だとて養い親がいないとは。湖沼はそのような国だったか」

「違うと思っていたよ」


ドレッドは憂鬱そうに言った。


「はっきり言おう。その怪我をした子どもとはハルだ」


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