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異世界でのんびり癒し手はじめます~毒にも薬にもならないから転生したお話  作者: カヤ
ショウとハル編

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34/142

ハルの落ちた所

完結にしていましたが、ショウと合流するところまで続けることにしました。ちっとも壮大になりませんでしたが、よければ読んでみてください。

今年も星迎えの祭りに行けなかった。


ハルはため息をついた。


そりゃあ前世から合わせたらもう30年も生きているのだから、今更お祭りなんて楽しみにするほうがおかしいのかもしれない。でも学院の子はみんな行ってる。ランプを持って丘に登る。素敵だな。


みんなっていう言い方は嘘だった。小学生じゃないんだから。魔力が多く、課題に忙しい生徒は基本行っていない。彼らは星迎えなんて子供っぽい祭り、もう行かなくてもいいのだ。


でも私は1度も行ったことがない。せっかく違う世界に来たのにな。


ハルは女神にみんなを守る力を望んだ。だから魔法を学べる国に落としてくれた。


ハルは決して頭は悪くないと思っている。ただゆっくり考えて動くので、行動は遅いように他の人には思われてしまう。それでいじめられたとかではなく、むしろ助けてくれる人ばかりだったのだ。日本では。


みんなとご飯を食べに行ってなかなかメニューが決められず困っていた時も、好きなものを知っている友だちが代わりに注文してくれる。課題が間に合いそうもない時一緒に手伝ってくれる。


頼んでくれたものが本当は食べたいものでなかった時も、みんなと足並みをそろえることのほうが大切だとありがたく思ったし、先生に怒られてもいいからじっくり考えたかった課題も、補習をやることそのものが先生に迷惑だと言われて、やるしかなかった。そうやって助けてもらいながら、周りに合わせる大切さを少しずつ身につけて行った。


さすがに大学を卒業して社会人になった時は、がんばろうと思った。事務は期日を守り、他のみなさんをスムーズに活動させるための仕事だ。


「美晴の性格なら、研究者が向いてると思うんだけど」


家族はそう言ってくれるが、ハルは理系は苦手だったし、かといって文学や物語に至っては、他の人と感性が違いすぎた。浮気する話が古典の名作ってどういうこと? 友だちが目を輝かせて語る情緒や禁断の愛などは深すぎてわかりにくい。好きってそんなに難しいことなんだと思う。


そのため数字はあまり得意ではなかったが、がんばって経済学部に入り、みごと一般事務職として社会人になったのだった。ハルは自分をほめた。


そのあとはがんばった。お察しの通り、最初は仕事が遅くて怒られたが、同期や先輩にはハルを助けてくれる人がやっぱりいた。それでも学生のころと違って、助けてもらってその場をごまかしても次の仕事をする力はつかない。怒られながらも、納得するまでがんばって、少しずつ実力を付け、社会人五年目の年は新人指導も任されるようになった。同期に比べると遅かったかもしれないけど。同時に、


「もう俺の助けはいらないね」


と言って、ふられた年でもあった。優しくて面倒見のいい彼に迷惑をかけたくなくて、一生懸命頑張った結果だ。


「入ったばかりの美晴がかわいかったな」

「どんくさい美晴よ、もどれ」


て同期も言うけれど、どんくさいのは今でも変わらない。かわいいかどうかは自分ではわからない。


助けてって言わないからかわいくないのかな。守られてないとダメなんだろうか。


そんな憂鬱な飲み会の帰り、事故にあったのだった。


転生って何? 家族はどうなるの? 死んだと言われてもわからない。焦っているうちに、もう一人のしっかりした女性が望みを言った。癒しの力。そんな魔法の力があるのなら。


「私は! 今まで守られてばかりだったから! 魔法の力を! そして健康で丈夫な体と、自立するまで助けてくれる人」


そう望んだのだ。


魔法の力はあった。ハルはため息をついた。ハルの望んだ力は、結界を作ったり、バリアを張ったりする力だった。あまりファンタジーは興味はなかったけれど、弟のやっていたゲームは見ていた。素早く動く力、生命力を回復する力、攻撃力を上げる力。白魔術師と言う役割はそんな人を守る力。


そんな魔法を勉強したいと言ったハルに、学院の人たちはあきれた目を向けた。


「火、水、風、灯り。これをしっかり学んで、いかに強く大きく展開させるかが魔術師の学び。おまえの言うような力などはない。それにけがを治すのは治癒師の仕事」


と。転生した経緯を正直に言っても信用されなかった。今まで創世の女神に会った人などいない。現に詳しい顔かたちを思い出せず口ごもるハルに、先生方は冷たい目を向けた。電車も、ケータイも、最初こそ興味をもたれたが、仕組みを説明できないのでは空想としか思われない。


それに容姿だって平原によくあるものではないか。真っ直ぐな黒髪こそ珍しいかもしれないが。


結局、学院の門の前に落とされたハルは、美晴とは発音できないみんなにハルと呼ばれるようになった。そして魔力と妄想が大きすぎて扱いかねた平原の人に捨てられたのだろうと判断された。10歳ということで養い親を付けなければならないが、学院の関係者はそんな面倒くさいことはしたくなかった。しかしハルの魔力の大きさは、教会に行かせるには確かに惜しい。


学院長預かりで、学院の寮に入れて衣食住の面倒を見れば、卒業後は研究員として確保できるし、問題ない。


ハルの10歳はこうして始まったのだった。



平日更新の予定です。

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