迷惑な二人
ライラは人柄はともかく優秀な狩人だし、美しい容姿をしているので、北の町でも知り合いもファンも多い。食事が終わるとすぐに宿屋のみんなから酒に誘われ、ドレッドと一緒に楽しそうに加わっていた。レオンは残ったので、ショウはファルコと2人で手をつないで帰った。ファルコは無口だったが、その日ずっとショウを離そうとしなかった。
次の日、ドレッドがパーティでの狩りのようすを見たがったため、嫌そうな顔をするファルコをものともせず、ライラは狩りについていった。
「まったく、ファルコにとっての疫病神だよ、ライラは」
ジーナはぶつぶつ言う。ショウは何も言わずに隣でジャガイモをむく。ゴルドがなだめる。
「まあ、親子なんだし、狩りについていくのも、泊まるのも普通だろ」
「普通は逆なんだよ! ライラが家を持って息子を泊めてあげるべきで、息子を狩りに連れて行くべきで、息子の心配をしてまずファルコのようすを聞くべきなんだよ!」
「ライラに母親らしさを期待しても無駄だろ。そんなことできるなら、はなから15の子を無一文で置き去りにしたりしないさ」
「ああ、ほんとに腹の立つ」
15の子を無一文でって言った?
「ねえ、ジーナ、私たち年少組でも、ギルドに口座を持って、スライムのお金を貯金してるよ? ファルコが無一文だったってどういうこと?」
「ショウ、私ったら余計なことを……。ファルコとライラはいつも一緒に旅をしていたから、狩りも一緒で、わざわざ口座を分ける必要を感じなかったらしいね。年少組にも入ってなかったし。そのことを忘れて、ファルコの稼いだ分も全部持ってさっさと旅に出てしまったのさ、ライラは。そんなこと知らなかったから、町のみんなも腫れものを扱うようにファルコに接してさ。気がついたら、ファルコは飢えで倒れてたってわけ。焦ったね、あの時は」
「そんな……」
ジーナがいつもライラにとげとげしいのはそのせいなのか。
「そのあと、見習い組に入ってね。けど、ファルコは強いのなんのって。どうしても同世代とは合わなくてね。いつもどこ見てるんだかわからないガラスのような目をしてさ。なかなか大変だったのさ」
「そうなんだ」
「それなのにライラったら、しれっと戻ってきて、生きてるんだからいいじゃないって言い放ったんだよ! 確かにライラのおかげで優秀な狩人に育ったのかもしれないけどね」
ジーナはふうっとため息をついた。
「ジーナ、あまり話してやるな、いつかファルコが話したければ自分で話すだろ」
「そうだねあんた、ショウ、ごめんね。重たい話だったろ」
「ううん。いろいろわかってよかった」
「ほんとはあのわがままをあんたんちに泊めたくはないんだけど、あれでも親子だからね。ファルコは何も言えないだろうから、嫌なことがあったら私に言うんだよ」
「ありがとう、ジーナ」
そうしてお手伝いしている間に、みんなが戻ってきた。行きと違って、みんな興奮していた。
「やあ、魔術師と組んだのなんて湖沼以来だが、結構可能性あるな」
「む、しかしやはり剣のほうがまだ効率よく魔物を倒せる。魔法だけではやはり大量発生を制するのは難しいか……」
レオンとドレッドが話しながらこちらに来る。ファルコは相変わらず無表情で、ライラは機嫌が良さそうだ。
「おかえりなさい」
「「ただいま、ショウ」」
ファルコがほっとした顔をした。
まだ話している4人と一緒に食卓につく。レオンと、ドレッドはまだ興奮して話している。炎の大きい範囲魔法では、5匹ほどをいっぺんに焼くのがせいぜいで、その間に剣ならもっと数多く倒せるとか、魔術師と肩を並べて戦うこととかを話している。
ショウは今日ももくもくとご飯を食べながら話を聞いて思った。ん? 肩を並べて? 魔術師って後方支援じゃなかった? それに範囲魔法って言ってたけど、よほど敵が密集してるのでない限り、単体で倒した方が魔力効率がいいんじゃないのかな。よほど魔力量が多いんだな。
私ならどうするか。後ろの方から風の魔法を魔物の足元に打ち込んで、ひっくり返す。それでファルコたちにとどめをさしてもらう。
「ショウ」
炎より水かな。冷水をまいて、動きを鈍くさせる。
「ショウ!」
「ん、なに?」
「スプーンが止まってたぞ」
「あ、ごめんね、ありがとう」
「どうした、考え事か」
ファルコが聞いてくれる。
「うん、私が魔法を使うならどうするかって考えてたの」
ドレッドはちらりと私の黄帯に目をやって、
「治癒師だろう。まず治癒の技を覚えることだな」
と言った。まあね。プライド高そ。余計なことを言わず、ほっとこう。
「ああ、もしかしてあなたたちが、黒狼と小さな治癒師なの?」
ライラが突然言った。は?
「ショウ、もう二つ名がついてんのか」
レオンは既に笑いころげている。
「黒狼と聞いて、ファルコかとは思ったけど、治癒師の心当たりがないから違う人かと思ってたの。へえ、あなたが、心まで癒すと評判のね」
ライラがへえって顔でこちらを見た。心なんか癒せないよ。何言ってるんだろ。噂って怖い。
「まあショウ、何を考えてたか言ってみろよ」
レオンがそう促した。うーん、言ってみるだけなら。
「まず前提として、魔術師は1人では戦わない、自衛出来ないから」
「まあ、そうだ」
「近接攻撃ではないから、後方支援として戦うのがよい」
「ありきたりだな」
「炎は効率が悪い。風を魔物の足元に叩き込み、ひっくり返す」
みんながえっという顔をした。
「それを狩人にとどめをさしてもらう」
宿屋がしん、とした。
「それか冷水か冷風の魔法で魔物を冷やし、動きを鈍くする」
冷水も冷風もこの夏、ショウが工夫し、北の町で大はやりだった魔法だ。冷やした飲み物という発想がなかったみんなに大ウケし、多くの人が使えるようになった。
「で、狩人に」
「結局狩人かよ」
レオンが突っ込んでくれて、笑いが起きた。
「んー、でも、魔術師が活躍できるのって集団戦でしょ。今年の夏の狩りのように、どうしたら集団の中で効率よく戦えるか考えたらいいと思う」
ショウは無表情のドレッドを横目で見た。なんか怖い。
「限界を極めたいなら、1人でどれだけできるのかがんばればいいけど、私ならどう大きく魔法を展開するかより、どう小さく圧縮するかを考える」
再びしん、とした。
「荷物を取ってくる」
ドレッドはそう言うと、席を立った。ライラも続く。いつの間にか食事は終わっていた。もう、レオンが余計なこと話させるから! レオンを見ると、ニヤニヤしていた。生意気な子どもだと思われちゃうでしょ。
ファルコはというと、優しい目をしてショウを見ていた。あああ、こっちはこっちで「俺のショウが賢くてかわいくて以下繰り返し」とか思っててめんどくさい。
あの2人、早く帰らないかな。




