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ノールダムにて

「黒狼だ」

「黒狼……」

「黒狼が来た」

「これで楽になる」


教会につぶやきが満ちた。黒狼? 導師を見ると、ファルコに目線をやった。ファルコか! ファルコを見上げると、恐ろしいほどの無表情だ。おっと、そんな場合ではない。


ショウはアルフィと目を合わせると、2人で導師を見た。


「ショウ、アルフィ、人数が思ったより多い。作戦2に変更だ」

「「はい!」」


説明しよう。ショウは導師に誘われた時、魔物が多すぎてけが人が多い時について話し合っていた。


「ノールダムの町がきちんとしていたらいいが、あそこは案外行き当たりばったりだ。良くも悪くも夏の狩りに慣れ過ぎている。もしいつもよりけが人が多かったらどうするか……」

「そしたらあれですね、けが人を重症順に分けないと」

「重症順に?」

「片っぱしから治癒すると効率が悪いから、軽傷者は分けておいて見習いやポーションで。重傷者は導師やちゃんとした治癒師で。そんなふうにすれば、魔力切れになることもないし」

「重症者から優先で治療ができるというわけだ。ショウ、さすがだ」


作戦1は、人数がそれほどでもなく、手当たり次第に治療して大丈夫な時。作戦2は人数が多く、治療に効率が求められる場合。そう決めた。


けが人を並ばせる。まずショウとアルフィが少ない魔力でけがをチェックしていく。


「おいおい、こんな子供たちに……」


といった者たちは無表情のファルコに威圧され、すごすご並んだ。ショウとアルフィが両手を握って魔力を流していく。


「はい、右腕上部、ほぼ完治していますが、やや不足、ポーションの重ねがけをしてください」

「つぎ、背中ですね、打ち身、足のけがが優先されたようで十分治っていません。治癒師のところで背中を治してもらってください」


さすがにみんな治癒はしてもらっているのだが、どこか中途半端で治りきっておらず、そのため帰るに帰れない状態のようだった。人数は多いが、重傷者はいない。どんどん割り振って行く。


「つぎ、あれ、けがは治っていますが……栄養が足りてない。ご飯ちゃんと食べてますか?」

「いや、それどころじゃなくて……」


若い狩人だ。


「そいつらは町ごとに来たやつらじゃねえ。募集に応じて個人で来た狩人だから、狩りに疲れて飯どころじゃないんだろうさ」


年かさの狩人が説明してくれる。


「でもこの栄養状態では活躍できませんよ。ご飯はきちんと食べなきゃ」

「でもなあ、宿屋でもあまりちゃんとご飯が出ないんだよ。ちょっと遅れるともうなくて。町の食料は値上がりしてるし」


ショウは驚いてゲイルを振り返った。


「平原からの食料が少し遅れ気味なんでな」

「じゃあ、薬草は?」

「それも不足気味だ」


あきれた。導師を見ると、あとで、と言っている。


「少し高くてもいいから、必ずご飯をたくさん食べて。ふらついてけがをしたら元も子もないでしょ?」

「うん。そうだな。わかった」

「私たち北の町の治癒師だから。できれば毎日体のチェックに来て」

「え、でも……」

「かまわぬよ。けがをためておくほうが怖い。そもそもどこの治癒師も見てくれるだろうし、夜でも遠慮せずに来るがよい」

「ありがとうございます、あの」

「セインだ」

「セイン様、それに」

「ショウだよ、こっちがアルフィ」

「ショウ、アルフィ」


若い狩人は優しい目をして帰って行った。思ったより早く済んだ。残りはノールダムの治癒師だ。両手を差し出すとびっくりしている。


「はい、うん、疲れですね。ポーションよりも休息が必要、と。いちおう癒しの魔力を流しておきますねー」

「ああ、温かい……ありがとう、少し楽になった」


ノールダムでは治癒師同士の癒しはしないのかな。


「ノールダムには治癒師が3人しかいないの?」

「もう少しいるのだが、みな兼業でね。本業優先と言うわけで。治癒師を連れてくる町も多くないし、今年はちょっといっぱいいっぱいで」

「ふうむ。ゲイル!」


導師がその話を聞いて、ゲイルを呼ぶ。ようすを見ていたゲイルは急いでやってきた。


「はい。導師」

「見ての通りだ。食料も薬草も足りぬ。治癒師は疲れ果て、すでに狩人にけが人も多い。このままでは早晩破たんするぞ」

「こんなことは今までになくて。何もかもうまくまわらず、どうしていいか」

「しっかりしろ! 食料は買いだしと催促だ。平原が遅いのであれば岩洞でも、中央でもいい。複数に買い付けに行け。多めに買ってきてもこの分だと余ることもない。それから年少組を比較的安全なところに出して、薬草をとらせろ。治癒師を全員呼び出して、毎晩狩人の調整にあたらせる。その代わり交代でしっかり休ませるんだ」


導師が矢継ぎ早に指示を飛ばしていく。


「導師、クロイワトカゲは食べられないの?」

「食べられるな、ショウ、いいところに気がついた。ゲイル、買い付けが遅れているならいっそのことノールダムで消費してはどうだ」

「そうですな、もともと今年はトカゲの量も多い。町で消費しても売る分は十分確保できましょうな。よし、宿屋におろしましょう」


そうして明日からの予定を立てると、私たちはやっと野営地に戻ってきた。野営の場所には大きな天幕がいくつも立っており、ゴルドさんのご飯のいいにおいがしている。ファルコも優しい顔に戻っている。


そうして次の日から夏の狩りが始まった。忙しい毎日の中、ファルコは機嫌がとてもいい。


ショウと一緒に早く休むファルコは、ショウより早く目を覚ます。腕の中のショウはぷすぷすと寝息を立てている。そのショウを見るのが好きだ。やがて料理の手伝いにしぶしぶ起き出すショウ。いつもくわっとあくびをして、目をぐしぐしとこするのが癖だ。そのときファルコは寝たふりをしている。どうしてか? ファルコがまだ寝ていると、ショウはファルコにお布団をかけ直して、そっととんとんとしてくれるからだ。そのとき隣のレオンも寝ているとやっぱりお布団をかけなおしてくれるので、時々レオンも寝たふりをしている。周りの奴らが冷たい目で見ても気にしない。


狩りも好きだ。本調子のガイウスとレオンと、先頭を切って戦うのも楽しい。後ろは北の町の仲間が守ってくれている。遠くにはショウも控えて、ファルコの狩りの姿を見てくれているはずだ。


疲れて帰ってくればショウが体調を見てくれる。教会で治癒をするショウを見守り、帰るショウを抱き上げて運んでも疲れはてて文句も言わない。北の森にいる時より、北の町にいる時よりショウと一緒の時間が長いのだ。


「いずれショウが大きくなったら」


レオンが言う。


「立派な治癒師になるだろうから、一緒に旅に出るのもいいな」


ショウと旅か。ショウと並んで馬車に乗る。ショウの作ったおいしいご飯。狩りの時はショウが背中を守る。寝る時も、起きる時も一緒だ。


いい。


「でもそれならレオンはいらねえ」

「それはないだろ!ショウを拾った時一緒だったろ」

「そんな事実はない」

「いや、俺はショウと行く」

「行かせない」


ぱしっと頭を叩かれた。


「「ガイウス……」」

「本人抜きで、バカなことを言うな。まずは嫌われないこった。ほら」


ケンカする2人を、ショウが冷たい目で見ていた。ああ。


「「そんなショウもいい」」


ガイウスは処置なしと肩をすくめるのだった。






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