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スライム再び登場

さっそくショウの朝練が始まった。といっても、北の森にいた時と同じ、素振りと時々ファルコへの打ちこみだ。隣でファルコも素振りをする。


そうして朝から温泉で軽く汗を流して、朝食のしたくを手伝う。ジーナさんは料理が好きだから宿屋を開いたのだが、おもに料理をする静かな旦那さんがいる。昔同じ冒険者のグループだったんだって。その旦那さんのお手伝いをして、ちまちまと野菜をむいたり運んだりするショウを見に少し早起きするお客さんもいる。ファルコだって必要のない防具の手入れなんかをしながら、お茶を飲んで食堂の片隅でショウを見守っている。


それから朝食をとると、ファルコに教会まで送ってもらい、そこでファルコに行ってらっしゃいをする。ファルコは名残惜しそうに出かけて行く。


さて、ショウは年少組に入ったわけだが、年少組にはショウも入れて20人ほどの子どもがいた。男女半々だ。ショウはアウラを見つけて、さっそくアウラのほうに行こうとしたら、ぐいっと腕をつかまれた。


「待てよ、ショウ、おまえはこっちだろ」

「あ、カイン、おはよ。え?」


ええ? 男の子組に連れて行かれた。


「やあ、ショウ、おはよう」


今日もさわやかな彼は、カインのストッパーのアルフィだ。アルフィも黄帯をかけている。治癒見習いの先輩だ。他にヨゼフ、フアンとアルフィから順に14、13、11、11歳の現在4人グループだそうだ。


「今日から5人グループになる」

「ちぇ、こっちは最初から5人グループだしな、仕方ない」


もう1つのグループが不満そうだったが、人数だからしょうがないらしい。


「午前中はあちこちに別れてスライムを狩ったり薬草をとったりしてるんだけど、ショウ、スライム狩るのうまいんだって?」


フアンとヨゼフがきらきらして聞いてくる。


「比べたことないけど、北の森はスライムすごく多かったから、結構とったよ」

「やって見せてよ」

「いいけど……」

「じゃ、俺たち今日は岩場に行きます!」


教会の大人に報告すると、10人で岩場に向かった。岩場とは町の北はずれにある岩がちな丘だ。


アウラたちは薬草取りらしく、岩場の下に陣取って思い思いに薬草を摘んでいる。おしゃべりしながら、時には早春の花なんかも摘んでいるようだ。いいなあ。ショウはちょっと後ろ髪を引かれたが、スライムも大事だ。道もついているが、みんな道じゃないところをアスレチックのように登っていく。アルフィとショウは道をゆっくり登っていく。


「途中にもスライムがいたりするから、気をつけて登るんだ」


親切なアルフィに教えてもらう。岩場にも結構薬草が生えているのが見えた。帰りに取ろう。


「わあ」


登りきったところは、広い台地になっていた。振り返ると町がすぐそこのはずなのに小さく見え、空が近い気がした。隣でアルフィが一緒に空を見る。


「空が近いだろ」

「うん」

「夏になって、一番昼の長い日が来たら、夜ここに集まって星迎えの祭りをするんだ」

「ほしむかえ?」

「ショウの生まれた所にはなかったのかい? またちゃんと長い夜が訪れますようにって、町のみんながランプを持って集まる祭りだよ。地上にも星はあるから、夜よ、戻っておいでって意味なんだって」

「うわ、素敵なお祭りだね」

「ショウも10歳になったから参加できるよ」

「うん、ファルコに連れてきてもらう」


そんな話をしていたら、岩場を登っていたみんながやってきた。


「今日は初日だからショウは免除だけど、明日からはショウも岩場登りな。訓練だぞ」

「ええ?」


体力づくりなんだって。


「ショウ、こっちこっち!」


ヨゼフがさっそくスライムを見つけている。ショウはポーチから棒を出し、桶を出し、桶に水を入れ、箸を用意した。みんな興味しんしんだ。ちょん。シュッ。ちょん。シュッ。さくっ。ひょい。ぽちゃん。


どう?


「……」


ん?


「お前……それ……魔石、見せてみろ」


いいよ。ショウは桶から箸でつまんで見せた。


「きれいな水色だ……」

「水色じゃないの? 山のスライムの魔石はみんな水色だったよ?」

「見せてやる」


カインは別のスライムを見つけると、ようすをうかがって一気にスライムを切り裂いた。ジュッと音がしてスライムが形をなくしていく。おお! かっこいいぞ。ショウはぱちぱち手を叩いた。カインは水魔法で魔石を洗うと、それを拾ってショウに見せてくれた。うん、水色だ、けど、


「少しグレーがかってる?」

「そう。俺たちが狩るとこんなんだよ。一応買い取ってくれるけど、ほんとは水色なんだって言われる」

「なんでかな」


うーん。ジュって音がしてたけど、酸で変色しちゃった?


「カイン、この棒でね、先に酸を吐かせるの。2回で吐かなくなるから、そのあと倒してみて?」

「わかった」


カインは面白そうな顔でスライムをつついて、やっぱりかっこよく切り裂いた。石は?


「きれいな水色だ……」

「酸がスライムに残ってたから変色してたのか……」


それからみんなでかわるがわるショウの棒でスライムをつついてみたけど、やはり酸を吐かせるときれいな水色になった。


「これはいい。安全だし、質の高い魔石がとれる。かっこ悪いけど」


かっこ悪いは余計だ! カインはまじめな顔でショウに話しかけた。


「ショウ、これ、俺たちもおんなじように狩っていいか?」

「え、いいよ」

「うん。ありがとう」


そう言うと、にかって笑った。くっ、何から何までかっこいいぞ、この少年は。


「よーし、みんなも聞いたか。今日は一回町に下りて、西の森でショウの持ってるような棒を集めるぞ。そしたら、ほんとに二回しか酸を吐かないのか、ショウの言ってることをみんなで実験だ」

「わかったー」


2グループみんなが返事をして、アルフィがうなずきながらにこにこ見守っている。年上はアルフィだけど、リーダーはカインだった。やんちゃで意地悪なだけかと思っていたら、慎重で統率力もある。それをアルフィが支えている。グループ同士でのいさかいもない。尊敬の目で見ていたら、カインに、


「何だよ」


と言われた。


「かっこいいね、みんな」


とショウが素直に言ったら、


「ばか、お前、別に俺は……さ、棒をとりに行くぞ!」


赤くなって行ってしまった。アルフィと顔を合わせて、ショウはくすくす笑いながらついて行った。


それから子どもたちの取るスライムの魔石は量も質も上がり、スライムの被害が減ったうえにみんなのお小遣いも増えた。つまりショウはあっという間にみんなに受け入れられ、たまにお休みのファルコが見に行くと、みんなに交じって岩場を登っていたりするのだった。


一方アウラとも仲良しになり、岩場に登っていないときは女の子に交じって薬草や花も摘んだ。アウラの家は大きな衣料品のお店をやっていて、アウラはよく染物用の草もとっていた。それを手伝うのもショウの楽しみだった。カインはいつでもショウを引っ張って行きたがったが、いろいろなこともショウの勉強だよと言ってアルフィが止めてくれるのだった。


そうして、春になり、夏の気配もし、少しずつ星迎えの祭りが近付いてくる。楽しみにしているショウとは逆に、ファルコは考え込み沈む日が増えてきた。どうしたんだろう。そんな2人を、ジーナやレオンは心配そうに見ているのだった。






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