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狩人ギルド

次の日、ファルコはショウを連れてギルドへ向かった。見習い狩人に登録するためだ。


見習いに登録することで口座も開けるし、ポーチとベルトももらえる。ショウはうきうきしてギルドに向かった。


「なあ、ショウ」

「なに、ファルコ」

「それ、持っていくのか」

「だってすぐポーチに入れてみたいんだもん」


ショウはスライムの棒どころか、桶を持って箸まで身に着けていた。もちろん、冬の間に魔法は一通り学んでいた。だから、桶がなくたってスライムの魔石を水で洗うことはできる。しかし、一日30回水魔法を使うより、桶に三回水をためるほうが楽ではないか。


「まあ、ショウがいいならいいけどよ」


ファルコは仕方ないなあと言う顔をした。町の中央にある大きな建物がギルドだ。重く見える両開きの木の扉を開けると、中の狩人たちがちらりとこちらを見た後、え、と言う顔をして一斉にショウたちをもう一度見直した。


「釣り?」

「釣り人?」

「釣りに行くのか?」

「なんでギルドに?」

「ファルコ?」


ファルコはそれを無視して受付に向かう。


「アリス、こいつ、見習いに登録してくれ」

「ファルコ、北の森ご苦労さま! これが噂の養い児ね。よろしく。アリスよ」

「ショウです。見習い登録に来ました」

「まあ、ちゃんとしてるわね。じゃあ、ここのガラス板にちょっと血を落として?」


血を! ショウはファルコを見上げた。


「しかたねえんだ。これでギルドカードとポーチに本人の認証をするんだよ」


それならしかたない。アリスの差し出す針でえいっと薬指に傷をつけて、血を絞り出した。痛い。


「治せるだろ?」


そうだった。自分は見習い治癒師でもある。自分の体に意識を向けて癒す。ショウはめったにけがをしないので自分を癒すのは少し苦手だ。


「まあ、ショウは治癒ができるのね。ありがたいわ」


アリスは喜んだ。


「導師は知ってるの?」

「もちろんだ。直々に指導を受けてる」

「そう、よかった。さあ、これが支給のポーチとベルトよ。ベルトには剣とポーションがさせるようになってるの。ポーションは最初の2個は支給で、見習いの間は1ヶ月に一度無料で交換できるけど、それ以上使ったら自分で買い直しよ。けがばかりするのは、ダメな狩人の証拠。無理はしないでね」

「はい!」

「あとはファルコに聞いたほうが早いかしら」

「そうだな、話しとく。それから口座はもう開けてるよな? アリス」

「ええ」

「ショウ、今週の魔石を出せ」

「はい」


今週もノルマのスライム180個と、トカゲの魔石10個、薬草10袋だ。


「あら、まあ、これ、レオンが持ってきてたのって……」

「正真正銘、こいつの手柄だ。こうやって鑑定してもらって口座にお金を入れてもらうんだ。わかったらちょっとあっちで待ってろ」

「うん」


ファルコは冬の間のショウの収入をきっちりとショウの口座に移した。


その間にショウは、隅のベンチの側でポーチとベルトに取り組んでいた。ポーチも気になるが、ベルトのきれいなこと。真新しい鮮やかな緑だ。狩人の色なんだそうだ。何より面白いのは、ポーションを差し込むところが付いていることだ。ポーションの瓶は細長く試験管のような形をしている。小さくて、コルクのような栓がしてある。つまり、薬莢みたいで、それを差し込むベルトそのものがガンベルトのようなおしゃれな作りなのだ。


それを腰に巻いて、ポーションを外したり入れたりしてみる。次に箸を2本そろえて入れてみる。行ける!


ショウがぱあっと顔を輝かせてファルコを見ると,ファルコは片手で目を隠してそっぽを向いていた。でもわかる。口の端が上を向いてるし、腹筋が小刻みに震えてるよ。ふと周りを見ると、狩人たちは全員があちこち向いていた。しゃがみこんでおなかを押さえている者もいる。なんでだよ。新しいものは面白いものでしょ? ショウは冷たい目でみんなを見た。そして言った。


「我慢してないで、笑えば?」


爆笑が起きた。ほんとに笑うか、普通。ショウはやさぐれた。いいんだ、もう。それよりポーチポーチと。手のひらサイズで、ふたが付いている。それをめくってと。桶なんて入るだろうか。桶をポーチにあてるとスッと入った。おお! ショウが顔を上げると、狩人たちがかたずをのんで見守っている。ショウが冷たい目をすると、まるで見ていなかったような顔をする。もう。


入れた桶はと、手を入れて桶と考えると、あ、これだ。スッと桶が出てくる。おお! 周りからほっとした気配がする。次に棒だ。こんな長いの入るだろうか。ドキドキしながら近づけると、これもスッと入った。おお! 感動する! 他に入れるものは何か、そう何かないか、周りを見ていると、


「ショウ、な、あとは、くっ、ふっ、家に帰ってからな?」


ファルコがつっかえながらそう言った。


「笑えば?」


みんながまた爆笑してる間に、新しい狩人がやってきた。顔に大きな傷が付いている。導師よりは年下、レオンよりは年上、めずらしい砂色の髪と曇り空のような目の色をしたがっしりした人だ。その人はまっすぐ受付に行くと、


「今日はにぎわってるな」


と言った。


「ええ、見習いの登録よ。もう、初々しくってね。噂のファルコの養い児よ。癒しの力もある、期待の、ぷっ、たぶん期待の、新人よ」

「ぷってお前、さすがにそれは」


失礼だろ、と続けようとして、その人はショウを見た。ふむ、ファルコの。治癒の力持ちか。試してみるか。


うんざりしているショウの側にゆっくり歩み寄ると、ショウを見下ろした。と、気づいたショウが見上げる。しっかりと視線が合う。ほう、強い、いい目をしている。


「お前、癒し人だってな。俺の調子を見てもらえるか」

「ガイウス! いきなりなんだ」

「ファルコはだまれ。俺はこの子どもに話している」


ファルコがだまらされた。誰だろう、この人。でも、これが治癒人の仕事だ。


「はい」


ショウが差し出した両手に、一瞬ためらいながらその人は手を預けてきた。しっかりと手をつなぎ、目を閉じて魔力を流す。力強い、魂の輝き。でもまるでライトが点滅するように傷だらけだ。一番ひどいのは右のひざだ。さて、どこから治すべきか。ファルコ相手に修業をしてきたとはいえ、すべてを治したらたぶん魔力切れになる。


なら、ひざだ。幸い、左のひざは健康だ。魂の記憶をコピーして、反転。うん、うまくいった。まだ魔力が少し残っているから、比較的新しい肩のけがも。よし。


目を開けると、その人はどこか優しい目をしてショウを見ていた。


「お前の癒しは温かいな」

「膝と肩を治しておきました。あとは魔力がたりなくて」

「膝はともかく、肩が一番気になっていたんだ」


その人は肩をまわすと、


「うん、小さくても優秀だな」


と笑った。そして、


「俺はガイウス。ショウと言ったな、ようこそ、狩人ギルドへ」


といった。あれ?


「あの、もしかして、狩人以外のギルドがあるんですか、ガイウス」

「もちろん。商人ギルドなんかも人気だな」


ショウはファルコをきっとにらんだ。ファルコの目が泳いでいる。もう! 


「ファルコ?」

「さ、じゃあ次は導師のとこだ」

「ファルコ!」

「邪魔したな! さあ」


怒ったショウをファルコが抱えてギルドを出て行った。


「面白い子だわ。久しぶりに楽しかった」

「癒しの力も優秀だな。久しぶりに肩が楽になった。ひざにも気が付いてくれたようだが」

「さすがにね。もう30年にもなるもの。アカバネザウルスからみんなを守った英雄の証よ」

「はっ。使えねえ狩人になっても他にやれることもねえ」

「ガイウス、ちょっと来てくれ」

「レオン?」

「いいから」


ガイウスはレオンにギルドの裏手に連れて行かれた。


「何だレオン」

「ひざ。曲げてみろ」

「は? 曲がんねえって、知ってるだろ」

「曲げてみろ」

「しょうがねえ、ほらよ、え」


ガイウスはスッとしゃがみこんでいた。


「曲がって、る?」

「ショウだ。うっかり治しやがって。ガイウス。騒がれたくない。ショウがやったって黙っててくれ。俺も足首が治ってんだよ」

「え?」


ガイウスは呆然としている。


「念のためあとで導師に見てもらってくれ」

「あ、ああ。わかった」

「まったく、あの二人はうっかり者だから」


レオンはぶつぶつ言いながら去っていた。


「治った? また一線に立てる、のか?」


ショウ、北の町に来てまだ2日目である。










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