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ジーナの宿屋

ファルコはショウを抱えたままジーナの宿屋へ向かった。木の扉の前でショウを下ろし、扉を開けるとすぐ、カウンターのある酒場になっていた。木造りの、趣のある店内だ。


「ショウ、ファルコ、いらっしゃい」


ジーナがカウンターの奥から明るく挨拶してくれる。


「ジーナ、よろしくお願いします」

「ショウ、いい子ね」


ジーナはうれしそうに微笑んでショウを見つめると、視線を上げてファルコにこう言った。


「言われた通り居間付きのダブルを用意しておいたよ」

「ああ、いずれ家を探すが、しばらくよろしく頼む。ショウが手伝いをしたがっていたから、よかったら使ってやってくれ」

「まあ、ショウならいつでも大歓迎さ。けど導師のとこも行かなくちゃいけないんだろ?」


ショウが首をひねった。


「導師にはまだ何も言われてない。カインにはまた明日って言われた」

「そうかい、もう子どものグループに認められたのかい。なんでだかショウは人見知りって思ってたよ」

「ショウはあんまりしゃべんねえからな。けど、そう言えば人見知りしたことはないなあ」


家具の販売の仕事だった。本当は社交的なタイプではないけれど、仕事柄きちんと人と向き合うくせはついていた。


「とりあえず明日ギルドに行って見習い登録だな」

「見習い登録したらポーチがもらえるからね、その長い棒もしまえるんじゃないかい?」


ポーチ?


「ショウ、ギルドに登録するとな、ベルトとポーチがもらえるんだが、ベルトにはポーションが付けられるようになっていて、ポーチは拡張収納になってるんだよ。初心者用だから、あー、その棒がゆったり縦横入るくらいの分量だ」


あー、聞いたことある。ゲームで。99個入るやつ。そう言えば、女の子も男の子もきれいな色のポーチ付きベルトでチュニックを押さえていた。


「99個? なんだいそりゃ。そうじゃなくて、体積さ。見習いの狩るのなんて岩トカゲくらいだから、そんなもんだよ」

「じゃあファルコのは?」

「すげー入るぜ。アカバネサウルスがまるごとだな」


そんなのわかんないよとショウは思った。


「よう、ファルコ」


その時酒場のすみから声がかかった。


「ジェネ、ビバル! 帰ってたのか!フロッグはどうなった」

「今年は発生数が多かったらしいが、結構狩人も多くてな。案外早く終わったのさ」

「ならよかったが。途中からでも小屋に来てくれればよかったのに」

「途中からなんてギルドも発注してなかっただろ」

「ああ、まあな、ギルドも柔軟にしてくれればなあ」


そこにジーナさんが声をかけた。


「やれやれ、こいつらのせいで小屋暮らしが一人になったって言うのにさ、ファルコ、ちょっとは怒りなよ」

「狩人がどこで狩るかは狩人が決めることさ」

「だからって息子が困ることするかね、ほんとにライラは」

「母さんの中では俺も行く予定だったからな、別に困らせる気はなかったんだろうよ」

「この町が大弱りだよ、まったく」


おや。少しややこしい話をしている。ほんとは北の森の小屋で働くはずだった狩人を、ファルコの母さんが連れてっちゃったってこと?


「まあ、北の森行ってたら面倒な子どもを拾ってたかもしれないしな。聞いたぜ、ファルコ。俺たちは沼地で正解だったさ」

「子連れじゃあちこち行けないからな」


面倒な子どもはここですよ。ショウは心の中ではい、と手を上げた。しかしファルコがむっとして言い返そうとしている。俺のショウに何を言う? 面倒どころかかわいい? お前ら損をした? だめだめ、何を言っても笑われるだけ。


ショウはファルコが話しだす前にとことこと2人の前に歩いて行って目を合わせた。


「お、なんだ」

「ちっこいな」


やはり明るい金髪に碧の目をしている。レオンと同じ? 少し年上くらいだろうか。


「ショウです」

「お、おう。ジェネと言う」

「ビバルだ」

「ファルコにお世話になってます」


そしてちょっとニコっとした。二人は固まってしまった。ジーナさんが笑っている。よし、挨拶したからいいだろう。ショウが振り返ると、


「ま、待て、ショウ」


呼びとめられた。二人は何だかごそごそしている。


「ほれ。湖沼で売ってる、ぶどう飴だ」

「こっちは平原の干し果物」


わあ! 甘いものだ。ショウはパアっと顔を明るくしてそれらを受け取ると、高く掲げてファルコに見せた。ファルコもこうなると怒ってはいられなかった。


「よかったな、ショウ」

「うん、ジェネ、ビバル、ありがとう!」

「「おお」」

「すまないな」

「いずれどっかの大きい女の子に行く分さ。ちっさい子にやったっていいだろ」


ショウは今度はジーナに見せている。ご飯の前だから食べちゃだめだよと言われていた。


「いいな」

「いい」

「だろ。面倒なんかじゃないんだよ」


ジェネとビバルはちょっとばつの悪そうな顔をした。


「すまん。なあ、またなんか持ってきてやっていいか」

「餌付けか。まあいいさ。じゃ、またな」

「「ああ」」


結局、収穫物を手に入れて、2人はご機嫌で部屋に行った。ドアを開けると4人用のテーブルといす、ソファがある。奥のドアが寝室だった。ベッドは一つ。大きい奴だ。うん、何も言うまい。もうひとつのドアはトイレと洗面所。お風呂は外に出て一階の奥だ。小屋に比べたら狭いけれど、2人で過ごすには十分だ。お高い部屋なんだろうけど、


「稼いでるから全然平気」


だそうだ。頼もしい。明日から北の町の生活が始まる。期待に胸を膨らませ、ぽつ、ぽつとベッドでおしゃべりしながら、いつの間にか眠りについていたショウとファルコだった。



「なあ、ファルコにさ、ライラが新しい彼氏と湖沼の別の町に行ったって言わなくてよかったか?」

「よせよ、母親の恋愛事情なんか聞きたくないだろうよ」

「それもそうか、一緒に湖沼に行かなくてかえってよかったな」

「ジェネ、ビバル、その話もうちょっと詳しく聞かせておくれ」

「なんだジーナ、あんたライラのこと嫌いだろうに」

「あたしがどうとかじゃないよ、ショウのためさ」

「いつまたこの町に来るかわかんねえしな、ライラは。確かにファルコに子どもができたって気を使うお人じゃあねえもんな」

「でも大した話じゃねえよ、フロッグの狩りで出会ったってだけの話さあ」


ジーナの酒場の夜はまだ続く。



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