そのころのファルコとレオン4
【注意!】
ここからお話はクライマックスに向かいます。しかし、魔物、けがなど、「のんびり」とは言い難いつらいシーンもたくさん出てきます。そういうのがつらい人は、一か月待って、まとめて読んでくださると助かります。今回から週二回更新、金曜日と火曜日になります。
もはや狩人だけでは止められない量に増えた魔物は、まるで川のような流れになり、草原に移動を始めていた。
狩人と魔術師が組んだ先行隊は、すでに街道と途中の町に派遣されており、魔物の群れが街道沿いの町に引き付けられないよう、群れの流れを調整するように配置済みだ。
その頃には、急いで北の町に帰れば、星迎えの祭りに間に合うかもしれないという時期になっていた。
「よし、今年のノールダムでの狩りは終わりだ。町の防衛は、もともとの町の狩人に任せて、俺たちは群れの最後を追うように南に下るぞ!」
ガイウスの声に、おお、と声を上げるのは北の町の狩人だ。
魔物の群れは、最後になるほど強くなる。北の町の強い狩人たちは、その後始末のため最後に残っていた。
「面倒くさいが、平原まで行けばショウとハルと合流できるかもな」
そうファルコとレオンをからかうのは、いつもよりずっと早く狩人を引き連れてやってきていたガイウスだ。いざとなれば判断を間違えない男なのだ。
「待て、ガイウス。岩山のほうが騒がしいぞ」
「なんだ」
すでに出立の準備も終わり、出るばかりになっていた一行の一人が、異変に気付いた。岩山から降りてくるクロイワトカゲは今年はもう狩らない。町に寄り付かないように、追い払うだけだから、もう問題はないはずなのだが。
「まさか。そんなはずない。そんなはず」
そうつぶやくと、狩人が一歩、二歩と下がる。入れ替わるように前に出たファルコとレオンは息を飲んだ。
「アカバネザウルス……」
ファルコにとっても、北の町にとっても因縁の魔物である。遠く離れているはずなのに、その姿ははっきりと見えた。それもそのはずだ。家一軒分の大きさがある。
「一、二、三。なんであいつら、出るときはいつも三頭なんだよ」
レオンがうんざりしたようにつぶやいた。
「くくく、ハハハ!」
ガイウスは嬉しそうに笑うと、すらりと剣を抜いた。
「ガイウス……」
「俺の三〇年を奪った報い、受けてもらうぞ!」
「やめろ! そんな場合か!」
発生したての魔物は強い。北の町に出たアカバネサウルスは、もう少し弱っていたとレオンは思い出した。
ガイウスが我を忘れたことで、北の町の狩人は逆に冷静になった。
「幸い、あいつらの意識は群れの先のほうに向いているようだ。ノールダムの町には興味を示してはいない。ガイウス、俺たちのやるべきことはここでアカバネザウルスを倒すことじゃない」
「倒さない? なぜだ」
レオンはアカバネザウルスから目を離さず、そっとため息をついた。ガイウスはまだ冷静になっていない。
「でかいアカバネザウルスでも、町を襲わなければ荒野を行くただの魔物だ。俺たちのやるべきことは、アカバネザウルスが途中の町や村を襲わないように牽制しながら、弱るのを待つことだ」
「倒さないのか」
「倒す。ただし、もっと弱ってからだ。今、発生したての元気なあいつらと戦えば、俺らは半数、あるいは全員がやられる。それは無意味な犠牲だ」
アカバネザウルスをにらんでいたガイウスの目が、北の町の仲間のもとに戻ってきた。
「そう、確かにそうだな。幸いと言ってはなんだが、俺たちが命を賭してまで守るものはここにはない。オーフ!」
「ああ」
ドレッドとライラは、未熟な魔術師を支えるため、先行隊に入っている。最後を見極めるために北の町の狩人と共に残ったのは、元魔術院院長、オーフだ。
「飛ぶ前に方向を変えさせることは剣士でもできる。しかし、万が一飛んでいるときにあいつらが方向を変えるようなら、それを止めることができるのは魔術師だけだ」
「わかっている。私と、そして」
「俺もいますよ」
「アルフィ。ほんとに北の町の子どもたちは頼りになるな」
「ショウとハルに負けるのは悔しいですからね」
アルフィは、治癒師兼魔術師として一行に加わっている。
「物資は任せて」
アウラまでいる。ショウとハルを引き合いに出されたら、ついていくという子どもたちを止めることなどできなかったのだ。
「さ、警戒しながら出発だ!」
今度こそ北の町の一行は出発した。
☆そのころのショウとハル
「お土産も買ったし。買い忘れはないかな」
ショウとハルは、宿のベッドの上に買ったものを並べている。湖沼にハルを迎えに行ったときも、こうしてお土産を並べたなあと思い出しながら。
「薄くてきれいな生地が多かったから、アウラが喜ぶね。みんなには柄の違うハンカチ。男子には、牛の角の柄のナイフ」
「みんなしっかりした短剣を持ってるくせに、こういうの欲しがるよね」
ハルが並べた小さな鞘付きのナイフを眺めながらショウはくすくすと笑った。
「まあね。でも、確実に喜んでもらえるってわかっているのもすごく楽だよ」
「確かにね」
そしてジーナには特別に大きいスカーフだ。これを頭に巻いたジーナはきっときれいだろう。
「やっと帰れるね」
「最後は楽しかったね」
カナンの町の大半の人は、今も、これからも変わらない生活を続けていくだろう。
それでも確かに、薬師ギルドは動き出したし、治療できる治癒師も増えた。これだけでも導師に来た依頼は十分に達成できたと言える。
「その上に、カナンの外の農場にも、最低限だけれどポーションが行き渡って、スライムの害があってもすぐに治療することができるようになったし」
「教会に来ている子どもたちも、スライムを狩れるようになった子が多いしね」
「薬草採取も、薬師が採取に回らなくて済むくらい集まるようになったみたいだし」
それでも初心を忘れないように、時々は薬草を採取するよと、薬師ギルドの人たちは約束してくれた。
「それから、麦類、と」
麦にもいろいろな種類があるとかで、これはゴルドへの土産になる。
「自分でパンを焼くのは面倒くさいから、ゴルドにやってもらうのが一番だもの」
「ちゃっかりしてる」
「じゃあ、ハルがやる?」
「やらなーい」
二人とも家事はやるが、ハルは料理があまり好きではなく、ショウは掃除があまり好きではない。
そういうものである。
「あとはビスケットたくさん。それから、魚の干物。うひひ」
「うひひって、ショウ」
ハルにあきれた顔をされた。
「いやだって、もちろん深森にだって運ばれてくるけど、そもそも北の町では肉が主じゃない。魚は人気がないから運ばれてこないんだってゴルドが言ってたし」
「そうだよねえ。収納袋があるから、干物でも何でも本当は運んでこられるはずなのにね」
「ファルコもレオンも、魚が出てきても、肉も食べたいって顔をするもんね」
まあ、魔物の肉が取れるのだから肉を食べて悪いことは何もないのだが。
「あとはベル商会から預かったアウラのとこ用のポーチと、こんなものかな」
往復で三か月近く、思ったより長くなったが、これで帰れると思うとほっとする二人である。
「ファルコとレオン、戻ってこなかったねえ」
「馬車も戻ってこないから、定期便で帰る羽目になったけど、それはそれで楽しいかも」
正確には、カナンの町が北の町まで馬車を出してくれると言ったのだが、導師が断ったのだ。
カナンからはあちこちに定期便が出ているから、アンファの町までは困らない。次に、アンファの町から深森への定期便へ乗り換えて、と、まるで普通の旅のようだ。
「父親と二人の娘の旅のようだな」
大喜びしている導師に、エドガーは突っ込むのを忘れない。
「兄もいることを忘れないでくださいよ」
エドガーはある意味、今回一番苦労した人だから、導師もショウもハルも頭が上がらない。
「明日の朝出発、と」
野外用の料理器具と食材の確認も済んでいる。
と、その時、トントン、とドアを叩く音がした。
「ショウ、ハル」
エドガーだ。近くにいたハルがドアを開けた。
「どうしたの? こんな遅くに」
「緊急事態だ。すぐ下に来てくれ」
「異世界でのんびり癒し手はじめます」4巻、6月12日頃発売です。
ここまでの話と、ここから先の話、そしておまけの話も入っています。
相変わらず挿絵も素敵ですよ!




