北の町の温かな日
振り返ったショウにつられて、子どもたちもファルコのほうに向きなおった。
「成人したからって、調子に乗ってるのよ」
子どもたちの間から声がする。だれ?
「私アウラって言うの。いじめっ子のカインをやっつけてくれてスッとしたわ」
「ショウだよ」
「よろしくね」
今度は少し大きい女の子が寄ってきた。ちょっと嬉しい。
「ファルコって、付き合った子には優しいし、気前もいいでしょ? 女の子には人気なのよ」
「そうなんだ」
「だけど、あの人たち、成人したとたんに私たちのこと子どもだからって馬鹿にするし、うるさいし、私は嫌いなの」
おう。はっきりした子だ。嫌いじゃないな。
でもどうしようか。ファルコもずっと子どもの世話で疲れただろうし、久しぶりの町だし、ここは私が聞きわけのいい子になって一人で戻るべきか。うん。ジーナさんもいるしね。
そうショウが考えていると、
「悪いな、ちょっと養い児の面倒をみなけりゃなんねえから、今日はな」
とファルコがこっちに来ようとした。お? お邪魔はしませんよ?
「ねえファルコ、その子もう10歳でしょ。一人でも平気よ」
「そうそう、見てたけど、棒を持って追いかけっこするくらい元気なら、ついててやることないんじゃない? 大人なんてかえって邪魔かもしれないわ」
自分で遠慮するのはいい。でも遠慮してあげる相手が遠慮する価値がないなら別だ。ショウはちょっとムッとした。そのすきにファルコはまた女の子たちに取り巻かれている。
「なあ、あんたら」
うんざりしたようにファルコがいうが女の子たちは話を聞いていない。もういいや。先に行こう。ショウが帰ろうとすると、ファルコがすがるように見てきた。
女の子の扱いなんか慣れてるだろうに。でも、ファルコの目が不安に揺れていた。ショウはファルコのこの目が苦手だ。何が不安なの。ショウは首をかしげた。いやなら断ればいいし、行きたければ行けばいい。何を待ってそこにいるの?
そうしてショウはちょっとだけため息をついた。もう。保護者ならね、そんなこと迷わないの。子どものために、ちゃんと家に帰るものなの。それなのに手を伸ばしていいかまた悩んでる。仕方ないなあ。
ショウは手を広げて、ファルコを呼んだ。
「ファルコ」
「ショウ!」
ファルコはあっという間に女の人たちを振り切ってショウを抱き上げた。10歳は抱きあげないはずでしょ。でも仕方ない。
「ファルコ、耳を貸して?」
「ん、なんだ?」
ファルコはショウに耳を寄せた。
「一人じゃさみしいから、一緒に帰ろ?」
ファルコはふにゃっと笑うと、ショウをいっそう強く抱きしめた。
甘え方を知らないこの人は、抱きしめることでしか愛を表現できない。ならば私が甘えて、抱きしめさせてあげる。だから不安に目を揺らさないで。
時が止まったようなその瞬間、
「ショウ、これ」
二人の前に棒が突き出された。スライム棒だ。
「カイン、ありがと」
ショウは棒を片手で持つと、カインにニッコリ笑った。ファルコはちょっと憮然としている。
「お、おう。また明日な!」
「うん、また明日」
アウラにも、他の子にも手を振る。
「歩いて帰ろう」
「いや、すぐだからこのままで」
「そっか」
歩いて帰るファルコと、楽しそうに抱っこされるショウを子どもたちが見送っている。面白い子が来た。それに……いいなあ。
「導師、私も抱っこしてください」
「私も!」
「おやおや、いいとも」
「私、家に帰る。お母さんに抱っこしてもらう!」
「おれも……帰るかな」
「用事を思い出したし」
若い女の子たちはちょっとぷんぷんして帰ったけれど、北の町はその日はなんだか温かい一日だったのだった。