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トカゲのターン

ファルコとショウのもとに訪れたのは導師だけではなかった。


一人は料理屋のジーナさんだ。いつも鍋ごとスープを作ってくれている、さすがのお料理上手の人だ。


「ショウのスープだって負けてないぞ」


ファルコが持ち上げるけど、別においしいものはおいしいから勝ったとか負けたとかない。それより、この世界初の女性というのと、料理の相談をしたくて心待ちにしていたショウだった。


「ショウ!」


レオンのいつもの抱っこを、右の眉を上げて面白そうに見ている人がジーナだ。事前情報によると、推定年齢100歳ほどの女ざかりだという。


「正確な年は知らないが、そんなもんだろ」


とはファルコの話。ジーナはがんばって料理しているというファルコの養い児を見たくて来たのだ。ショウはジーナを見てぽかんと口をあけた。少し濃いめの金髪に薄いみどりの瞳の、それはもうたわわな、そう大人の女性だった。


「あらかわいい子。お姉さんにもおいで」


と言われてやっぱりふらふら歩いていったのは仕方あるまい。さすがに抱きあげられはしなかったが、ぎゅっと抱きしめてくれた。残念、顔はおなかのあたりだ。いいにおいがする。


「ショウも小さくてもやっぱ男だな。ジーナに参らないやつなんていないもんな」


とレオンがからかった。はあ? 何言ってんの?


「違うし!」

「まあまあ、恥ずかしがることないって、なあ、ジーナ、俺にもハグしてくれていいんだぜ」

「この子くらいかわいげがあったらねえ?」

「だから違うって!ファルコ!」


ファルコは笑い転げている。ああ、もう!


「さ、ショウ、バカどもはほっといて、さっそくだけど台所に行かないかい? 料理で聞きたいことあるんだって?」

「はい、ジーナさん、食材と調味料のことで」

「ジーナでいいよ。じゃあ実際に見てみようか」

「はい!」


そこからは夢中だった。調味料の話、新鮮な肉の料理の仕方、冬でも使える野菜の話。剣の訓練をしつつ、時々つまらなそうに見に来るファルコをいなしながら、楽しくお話した。ジーナはショウが女の子だとわかっていて、


「養い児が女だって言うとあれこれ言うやつもいるから、ばれるまでだまっといたらどうだい? いずれ町に来ればばれるんだろうし。そこまでに離されないようにファルコと絆を作っておきな。って、大丈夫そうだね」


うろうろしているファルコを見てそう言った。


「さ、じゃあ、外にある食べられる草とトカゲの料理を教えてあげるよ」

「トカゲって、あのじっとしているやつ?」

「まだファルコに教わってないのかい? 外でじっとしているといつの間にか何匹もたかってきて、体温を奪っていく厄介な魔物なのさ。薬草、スライムと並んで子どもの小遣い稼ぎになってるよ。食べられる部分は少しだけど、あっさりしていて結構おいしいんだよ」


スライムより見かけないけど、時々ひなたにいてじっとしている。大きさは大人の手のひら二枚分くらいだ。普通にトカゲだから最初は驚いたけど、ファルコも何も言わないし動かないしで、今はまったく気にしていなかった。


「ファルコ、なんでトカゲを狩らせないのさ」

「ショウは剣を持つのいやがったし、スライムと違って、その、殺すって感じだから……」

「あきれた。どんなおとなしい女の子だってトカゲくらい狩って料理できなきゃ、嫁にも出せないだろう。スライムが狩れるんなら大丈夫だね?」

「やってみる」


いやでないと言ったらうそになるけど、食べるものは別だ。それでも、ファルコの気遣いがうれしかったショウは、嫁とか早すぎるだろとぶつぶつ言うファルコに向かって、ありがとうって意味を込めてニコッと笑った。


ファルコは驚いた。ショウは自分では毎日面白おかしく暮らしていたが、あまりしゃべらなかったし表情も変わらない。そんなショウがなんでだかニコッと笑ってくれた。その威力は半端なかった。もうこれは記念に抱きしめるしかないだろう。ふらふらショウに寄っていくと、ジーナにそんな場合じゃないと追い払われた。なんでだ。


トカゲは基本じっとしているので、真上から剣で貫くだけのお仕事だ。町の周りにはそれほどいないので、子どもにとっては簡単だが見つけるまでが大変な魔物でもある。だからと言って油断していると、見ていない隙に素早く動き、たかられているというわけだ。小屋の周りには結構いるので、教えておくべきだったかもしれない。というか、ショウには何でも自分が教えないと。


しかしファルコがそんなことを考えている間に、ショウはジーナにトカゲの狩り方を教わっていた。


「そうそう、ショウ。あんたうまいね。なに? あっちにもいる? お待ちよ、ああ、もうやっつけてるよ、うん、とりあえず6匹ね。いっぱいいるねここには。さあ、さばくよ?」


トカゲの食べられる部分は、後ろ足のももとしっぽだ。一人分の食事に二匹あれば十分だ。簡単に切り取り、つるっと皮をはがし、魔石を回収しておく。魔石もスライムと同じ値段で売れる。


トカゲを収穫して意気揚々と台所に向かう。ささみのような淡白な味だ。干し肉中心の食生活に飽きていたショウにはとてもうれしい知識だった。とりあえず酒蒸しして手で割いてサラダにする。濃い味付けにしてパンにのせて食べてもいい。生のまま叩いて団子にしてつくねにしてもいい。夢中になってジーナに話していると、


「ショウ、あんた初めての食材をこんなにうまく使いこなして……町に来たらうちの店で修業したらどうだい?」


と言ってもらえた。それもいい。ファルコは渋い顔をしたが、ショウにはやれそうなことがいっぱいあるのはうれしかった。


「全部いっぺんにやるつもりはないよ、ファルコ。何年もかけて、少しずついろんなことをやりたいの。今と同じ。ファルコが仕事をしている間、私はいろいろなことをがんばる。そしてファルコと同じ家に帰ってくる。ずっとファルコと一緒だよ」

「そ、そうだな。ショウは俺を放りだしたりしないよな」

「もちろんだよ! むしろ迷惑かけてるのは私だし」

「迷惑なんかかけてない! ショウを拾ってからいいことばっかりだ」


そう? ショウはへへっと笑った。ファルコもへへっと笑う。


「やれやれ、仲のいいことだよ」

「大人になっても、小さいころの傷は残るんだな。心の傷はポーションでは治せねえしな」

「ライラのことかい」

「ああ、あれはちょっとな」

「生粋の狩人だったからね、ライラは。悪いことをしたわけじゃないんだよ。母親に向いてなかっただけで。子を持つなとは言えないしね」

「ショウが癒してくれるといいが」

「とにかく、あたしはショウを大事にするよ。町に来るのが楽しみだ」

「ほんとにな」


ジーナとレオンは仲のいい2人を見ながら、ショウとファルコが町に下りる春を楽しみに思い描いた。

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