第九話 vs植物
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ありがたい!
えっ、何が起こったんだ?
棒が元通りに……。
目の先には完全に直っている木の棒が落ちてある。
は?どういうことだ?
まだ何か起きやしないかと、じっと待っていたが木の棒はもう動こうとしない。
いやいやいや、あり得ないだろ。
確かにボロボロになってたよな。
怖いって。
ビクビクしながらそーっと取ってみる。
木の棒に別段おかしなところは無い。
拾ったときと同じように扱いやすい大きさで傷一つ無く俺の手のひらに収まっている。
別に何も無いよな。
まあいっかなー。
新しい棒的なものを探す手間が省けたとでも思っとこう。
「はー、本当に直ってるな」
さっき倒した植物っぽいのをぺしぺし棒で叩いて感触を確かめたが、特に違和感は無い。
よし、棒は問題無く使えそうだしその話は置いておこう。
「あー、腹減ったなー」
今日はまだ何も食べてないからな、いい加減倒れそうだ。
あっ、そうだ。今倒したヤツ食べようか。
紫色の液体が出ているグロテスクな植物っぽいヤツを手に取る。
「ううぇぇ、気持ち悪っ」
これ食べんの?
無理だろ。
棒を粉々にしたヤツだぞ。
いや、直ったけどさ。
マジで食うか?
ムリムリムリ。
あっ、そういやこの魔物って初めて自力で倒せたヤツじゃね。(でっかい食人植物っぽいヤツは我らが偉大なる毒キノコ様のお陰だし)
おー。いや、だから何?って感じだけど。
で、絶対毒か何かあるだろうこのグロいのを食うのか。
下手したら死にそうな予感。
うん。やめとこう。
薬草も持ってねえしな。
貴重な食料を投げ捨て、移動し出す。
でも、結局何かを食べないといけないことにはかわりないし。
どうしよっかなー。
てか、普通に植物っぽいヤツ触ってたけど、こいつって棒を粉々にしたんだよな。
俺粉々になってたかもしれんじゃん。
迂闊に何かすると、ヤバいな。
気を付けないと。
てなことを考えていたら、さっき見た――というか倒した、植物っぽいのと同じ感じの魔物が十数匹(匹でいいのか?)群れで現れた。
え、マジで。
初めの一匹が飛びかかってくる。
おい嘘だろ。休む暇ねえのかよ。
狙いを定めて、あまりためずに棒を振る。
と、丁度そいつに当たる。
魔物の潰れる生々しい感触が伝わる。
一匹目は飛んでいく。
だが、それには目もくれず、間髪入れずに棒を横に振って二匹目を弾く。
その植物が木にぶつかって原形を止めない程ひしゃげているのを目の端で捉える。
«個体名"ミカゲ=ウスイ"がLV4にアップしました»
«能力"痛覚耐性"がLV2にアップしました»
あっ。よし、いけるぞ。
一瞬――そう一瞬だけ天の声に気をとられる。
しかし、その一瞬が命取りとなった。
気が緩んでいた間に三匹目の魔物が懐に潜り混む。
急いでなんとか棒を植物と自分との間に滑り込ませるが、植物はその勢いのまま棒に噛み付く。
――くはっ。
変な体制で受けたせいで倒れそうになるが持ちこたえる。
が、前に起こったときと同じように棒はまた嚙みつかれたところから灰のように崩れ落ちる。
棒の成れの果てと共に植物も落ちる。
それがまた起き上がり襲ってくる前に裸足の右足を魔物目掛けて振り抜く。
飛んでいった魔物とは反対に灰はあの時のように棒の回りに集まってきて、崩れた部分に収束していく。
クソッ、もう次の来んのかよ。
まだ完全に直っていない棒でその植物を叩き飛ばそうとしたが距離感が狂い空振りをしてしまう。
植物は勢いのまま左肩に飛びかかり噛み付く。
くっ、いてえ。
傷口から毒が入ってくるような(比喩じゃなくてそのまんまかもしれんが)痛みだ。
慌てて引き剥がすが、痛みは一向に減らない。むしろ増しているかのようだ。
休む暇もなく引き剥がした魔物を半分程直った棒で殴り飛ばした後、次の植物を迎え撃つ。
植物は二匹同時に飛び込んでくる。
右から来た方を打とうとしている間に左から植物が襲い掛かってくる。
慌てて左手で弾き飛ばそうとする。
しかし。
嘘だろ、左腕が動かねえ。
見てみると左肩が黒っぽく変色していた。
苦し紛れに棒で左から来ていた方の植物を飛ばすが、右腕をもう一匹の植物に噛み付かれる。
«能力"腐蝕耐性"を取得しました»
「腐蝕だと? ぐああぁああああ゛、っざけんな!」
痛みを我慢し気合いで腕ごと木に当てて植物を潰す。
次の植物が飛んできたのですぐさま構えようとするが、両腕が動かせない。
慌てて体をそらして避けようとしたが上手く動かせずに、脇腹に噛み付かれる。
重さに堪えきれず倒れる。
痛い痛い痛い
不意に痛みが襲ってくる。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
«能力"痛覚耐性"がLV3にアップしました»
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛覚耐性のスキルは上がったが痛みは一向に治まらず、それと共に体が黒ずんでいく。
俺は痛みで悶え狂う。
魔物がまだ数匹向かってきているのが見える。
倒したと思っていた植物も二体程こっちに飛び掛かってくる。
だが、痛みのせいで立ち上がれない。
動けないまま次の魔物、また次の魔物と噛み付かれてゆく。
視界がぼやけていく。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い――――
«能力"腐蝕耐性"がLV2にアップしました»
その声も、もはや俺には届かない。
感覚が薄れていく。遂に痛さすらも感じなくなる。
風の音も耳に入らず、魔物の姿も目に入らない。
俺は……今どうなってるんだ……。
「 」
何か聴こえてくる。
痛みは感じない。
意識も薄れてくる。
このまま俺は死んでしまうのか……。
「 」
いや、もう天国かどこかに居るのかもな……。
転生何て馬鹿げたこともあったわけだし。
「 」
もうどうでもいいや。
なるようになるよな。
……疲れたな。
そう思ったのを最後に俺は意識を失った。