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第七話 精霊

 カタッ コトッ



 静かな暗黒の空間でただ振り子時計の音だけが響く。



 カタッ コトッ



 ――ここは……どこだ?



 カタッ コトッ



 ――何故こんなとこにいるんだ?



 カタッ コトッ



 不意に真っ暗な空間に無音の光の渦が巻き起こる。

 その渦に身を任せていると周りの風景が切り替わる。


 セピア色に映るその場所は見覚えのあるところだった。

 そこはまだ幼い頃、よく遊んでいた公園。

 風で枯れ葉が巻き上がる公園に数人の幼い子供たちが入ってきた。



「     」



 子供の内の一人が何かを言う。

 だが何故かその声は俺の耳には届かない。

 それどころか、物音一つしなかった。


 子供たちはしばらく集まって何かをしていたが、かくれんぼをし始めたのか一人を残して皆蜘蛛の子のように散らばっていった。


 数を数えているのだろうか、残った子供が木に顔を向け何かを呟いている。

 しかし、勝手に動く俺の視界は別の一人の男の子を追うように映す。

 その男の子はどんどん進み何故か公園の外に出る。


 何か頭に引っ掛かるなと思ってる間に、男の子は公園の奥の裏山に入る。

 しばらく周りを見渡しながら歩く。

 ふと公園が見えるか見えないかと言うくらいのところで立ち止まり、近くに生えていた木に登り始めた。

 男の子はせっせと登っていく。


 ――アッ、危ない!


 木のてっぺんまで登りきりそうだった時、踏み台にしていた枝にヒビが入り勢いよく折れる。

 男の子が落ちる。


 その時、


 『■■■■■――――』


 声そのものは耳に届いたが不思議なことに脳が理解を拒むように音を掴めない、そんな声が聞こえてきた。


 すると何故か枝にあちこちをぶつけていたその男の子が突如光に包まれる。


 急に視界により鮮明な光の渦が巻き起こったかと思うと見ていた景色が白く染まっていく。

 狭まってゆく視界が少女のようなものが光に包まれたあの男の子のところに歩いていっているのを捉えた気がした。


 ――あっ、思い出した。あれは……




 はっ、

 急に目を冷ます。

 何か夢を見ていた気がするが、それも大事な……。

 まあ別に大したことじゃないだろう。

 所詮は夢だしな。


「ようやくお目覚めですか」


 声に驚き顔を上げると、目の前にピエロのような格好をした少年がいた。

 正確に言えば赤のシルクハットに赤と青のブカブカの上と下の繋がっていて手や足の先のところがヒラヒラしている服装をしていた。


「わっ、誰だ?」

「まだ名乗っていませんでしたね。ワタシの名前はアフレイドです。以後お見知りおきを」

 まだ幼さの残る声に見た目とは相反して成熟した口調で、帽子を取って腰を深く折りながらそう名乗った。


「は、はあ、どうも」

 森の中で寝起きにピエロの格好の少年に丁寧に挨拶をされるという何かスゴいシチュエーションのため、生返事になる。


「いやいやそれにしても、あなた様は数奇な運命をたどっていらっしゃる」


「はあ?急に何言ってんだ、変な格好したガキが」


「少しばかりあなた様の過去を覗かせていただいたのです」


「なんだそれ、見れるのか? と言うより人の過去を勝手に見るなよ、てか、連れは居ないのか? 普通の人ではなさそうだけど、ここ危険だし子供一人で来んなよ、魔物に襲われんぞ」


 って、俺が魔物だったー!

 見られたにしても数奇って言われるほど特別な経験をした覚えはないのだが……。

 転生したことはめちゃくちゃ数奇だと思うけどな。


「あなた様は昔に十分特別な経験をしていましたよ。そんなことより早く本題に入りましょう」

 この少年は俺の心を読んだかのようにそう言うと、唐突に宙に浮いて話し出す。

 おい、俺の忠告無視すんなよ。


「急にそんなことを言われても信じられないかもしれませんがワタシはこの木の精霊です。厳密に言えば守護霊みたいなものですけど。ついでに言えばあなた様が思っているより長生きしてると思いますよ。これでも、上位精霊ですから」


 これまでにもう何回か信じられないことがあったからな、何があっても大抵のことでは驚かないさ。

 てか、さらっと浮くんじゃねーよ!早速驚くわ。


 って、精霊?

 長生き?

 マジで?

 ワオ。

 いやもー、ほんとすみません。

 今までのご無礼、許してくださいませ。


「そして、この木にはアンダフレイド・ワールドという精霊の世界に繋がる扉の役割があるのです」


 おい、なにあっさりと精霊の世界と言ってんですか。

 ってことは、ここ以外にも色んな世界が在るのですか?


「詳しくは教えれませんがそんな感じです」


 絶対俺の心を読んでるでしょ。


「まあまあそんなことは置いといて、あなた様は魔物ですが人並みの知性をお持ちです。それに我が樹木の聖域に入ってこれる」


 うん、心読んでたね。今更だけど俺が魔物なのに普通に接していたのか。まああなたも人間じゃないかもしれないけど。 

 心読むのはいいとして。

「なんかすごいのでしょうか?それは」



 彼――アフレイドだったっけ、は俺には届かないほどに小さく独り言を呟いたのちに声を大きくして言った。

「つまりあなた様はあの方と同じような才覚を持っているかもしれない。そこでです。あなた様の魔力(マナ)の属性を確かめようと言うことでして」


 何がつまりだよ。はっ、ついタメ口が。あの方とは誰なんでしょう?

 それにマナ?何だか話についていけないんですが。


「方法は簡単です。あなた様は一番楽な姿勢で座っていてください。ワタシがあなた様の頭に手を当てます。それだけです」

 少年は俺の心の声を無視して喋る。って普通なら聞こえるはず無いんだけど。


「さあ準備は良いですか?」



「ちょっ、ちょっと待てくれ」

 俺は今上半身を肘で支えるっていう地面ですると意外と痛い状態なんだよ。


 体勢を立て直して、木の幹にもたれかかる。

「ふう、ではどうぞ……?」


 では、とピエロの格好をした少年は近づいて俺の頭に手を当てる。

 と同時に体の中を洗われるような変な気分に陥る。

 すると、何か頭の方で白いモヤモヤとしたものが浮き出てきた。


 なんだなんだ。


「うーん、少しばかり光属性が秀でていますが、まあ基本無属性ですね」


 それは喜んでいいのか?でも光属性だぞ、高等魔術的なものじゃないのか?何属性があるのか知らんけど。そもそも俺、今のところ魔法使えんし。


「魔物になってすぐでしょうし、そんなものです。属性は火水土風闇光とあって光属性は魔物にしては珍しいですね。光竜とかしかいないですから。まあ正確に言えばあれなんですけどね」


 あれって何だ?

 それは置いておくとして、魔法の属性とか何か異世界っぽくてなんかノってくる。こう言うのを求めてたんだ。

 てか何故この精霊は俺が魔物になったばっかって知ってるんだ。


「精霊ですから。まあここにあなた様が来たのも何かの縁です。ここら一帯はワタシのテリトリー、とでも言っておきましょうか」


 何かこいつの話を聞いてると無性にイラついてしまうのは何故だ。


「結局、あなたが来たのは俺がちょっと特殊なただの雑魚い魔物だって確かめに来たってだけなのか?」


「ああ、忘れてました」


 そんな簡単に忘れないでくださいよ。あんた精霊でしょ。


「精霊だって忘れることくらいありますよ。これはスピリットクリスタル。精霊が入る結晶です」

 と言って、手で空を掴むような仕草をした。すると、何処から出てきたのか気付くと手に結晶が握られていた。


 安易なネーミングだな。

 と言うかどっから出してきたんだ。


「今から精霊を呼びます。あなた様を気に入る精霊がいたら近づいてくると思うのでこの結晶の中に入れて下さい」


 どうやってだよ。

 うわっ、貴重そうなもんを投げんなって……投げないでくださると助かります、はい。


 そんな俺を無視してピエロの少年は結晶を投げてから目を瞑り手を胸の前で合わせる。(こいつ本人もこのスピリットクリスタルとやらに入れれたり?)。

 すると、木の上の部分が虹色がかってくる。

 空に切れ目が走り、赤、青、緑、黄、茶、白、黒と一斉に光の本流が巨木を取り囲むように溢れ出す。

 それは顔くらいの大きさから小石くらいまでの様々な光の集合体だった。

 個々が意思を持っているかのように空にグラデーションを描きながら縦横無尽に飛び回る。


 わっ、キレーだな。


 自分の周りを飛び交う光の球に圧倒される。

 その情景は宵闇を彩る蛍の群れの美しさにも勝るとも劣らない。

 優雅に、そして活発に巨木、少年、俺をからかうように囲って飛び続ける。

 俺は夢中になって四方に動き回る赤や青の精霊を眼で追い続けた。


 小さき精霊たちはしばらく飛んでいたが少しずつ虹の裂け目を通って戻っていった。



 あれ?何も残らなかったぞ。


「まあ最初はこんなものです。結構精霊たちもあなた様のことが気になっている様子したが、あなた様は魔物ですからね」


 マジでございますか、あんまりそうは見えなかったけど。


「じゃあクリスタルはとりあえず貰っときますね」

 少年がそう言うや否や右手にあった重みは消え、俺の方に向けられた少年の手にあの結晶が載っていた。


「じゃあ、ワタシのしたかったことはこれだけですので。また夜かどうか知りませんがあなた様が戻って来れたら会いましょう。よい一日を」



 ちょっ、待ってください、また独りで一日過ごせと?そんな唐突に言われても……。



 戻って来れたらって怖いこと言わないでくださいよと叫ぶ俺をよそに、ピエロは帽子を軽く上げて"幸運を"と微笑を浮かべると空気に溶けるようにして居なくなっていった。 

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