第五話 レベルアップ
「で、これからどうしようか。寝床でも探すか?」
と言って歩いているときも、怪しげな果物や、嘘みたいに大きい食虫植物のような何かが少し遠くを通りすぎていく。
「何で、ここら辺にはこんな食べれなさそうなのしか無いんだよ」
てなことを言いながらも、ちゃっかり近くにぶら下がっていた果物をもぎ取って食べてみる。
「ふはっ、はふないっ」
呑気に食べていると、いきなり魔物が襲ってきた。
何か緑の植物っぽいヤツが、噛みついてきたんですけど……。
もぎたてほやほやの桃のようなグレーの果物を食べながら慌てて避ける。
何故か嚙みついてきた植物は、そのまま森の奥の見えないところまで跳んで行ってしまった。
いや、何のために俺を襲ったんだよ。まあいいけど。
今俺が食べている果物はMPを回復する高価な物だったりするのだが、MP0の最弱モンスターたるこの頃の俺には関係のないお話。
「ゴクン。意外と美味しかったな。桃の食感でブドウみたいな味が新鮮だったけど。それにしてもここ危な過ぎだろ、何か食べんのも一苦労だ」
ビュン
その時、一陣の風が俺の髪を靡かせた……。
嘘。自分ゴブリンだから髪無かった。
今度は何だ、と思ったのも束の間、目の前に巨大食虫植物(仮)が現れた。虫とかを籠っぽいのに誘い込んで溶かして栄養を得る感じの。
「グヲオオオオオオオオ」
え、ナニソレ、どこから声出してんのかなー。
現実逃避しているうちに、巨大食虫植物は十数本ある葉っぱ(いや、茎かな?)を振り回して俺に迫ってくる。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!ストップ!美味しくないよー。あ、ゴブリンだし美味しいかも」
何て言っても言うことを聞いてくれるはずもなく、そのまま俺を数本の茎で絡めて捕まえ呑み込もうとする。
「ヤバい。くらえ!筋力1キーック」
ぽす!!
……うん、知ってた。
食虫植物改め食人植物は、俺の渾身の一撃をものともせず足をバタバタさせる俺を呑み込んでしまった。
「わっ、ここまさか植物の中だったりしないよな?」
まあそのまさかなんだが。
中に落ちるとそこは沼の様だった。肩のくらいの高さまで浸かる。
「ううぇ、キモチワル……。何かの骨ぽいのあるし。」
とにかく脱出せねば、と上を見上げると自分の身長の三倍くらいの高さに出口もとい食人植物の口があった。
「どうやってここから出るんだ?」
横の壁を蹴ったり殴ったりしてもブヨブヨ跳ね返るだけだ。
やることが無いのでしばらくブヨブヨしていたその時、ふと声が聞こえた。
«状態異常"麻痺"にかかりました»
「え、マジで。そういえば痺れてきたような」
これってヤバくね、心なしか溶けてきている気がするし、
ゆっくりと体が言うことを聞かなくなっていく。
ヤバいっ、腕の感覚が無くなってきてる。
うっかり足元にあった骨に右足をぶつける。
倒れはしなかったが、その弾みで大切に汚れないよう持っていた毒キノコを落としてしまった。
「あっ、俺のキノコが……(意味深)」
お前のことは一生忘れない、と心に誓ったその時急に食人植物が暴れだした。
沼、もとい食人植物が揺れる。
「何だ何だ。天変地異かばばばば」
俺は溺れそうになり、慌てて近くに浮いていた骨に掴まる。
何が起きたんだ?確か俺が痺れてきて、そのせいでキノコを落と...まさかキノコが!?
攻撃のチャンスは今しかない、キーック、と叫びながら渾身の蹴りを放つ。
今度は流石に効いた様で巨体を震わしたかと思うとゆっくりと身体を傾け衝撃と共に食人植物は地面に突っ伏した。
その衝撃で無様に転がり落ちる。
「うわっ、今から倒れますとか言ってくれよ」
無様にも胃液?まみれになりながら起き上がる。
「薬草も胃液まみれだ……」
と憮然とした顔で薬草を持った左手を見つめる。
まあ、食うけど。
«個体名:ミカゲ=ウスイが全快しました»
«個体名"ミカゲ=ウスイ"がLV2にアップしました»
«能力"毒耐性"がLV2にアップしました»
«能力"麻痺耐性"を取得しました»
「うわっ、何だそれ、ちょっと待て一気に言い過ぎだろ」
急いで確認しようとウインドウを呼び出して見る。
【個体名:ミカゲ=ウスイ
種族:ゴブリン LV2
危険度:G
状態:正常
HP:7/7
MP:0/0
筋力:1 体力:2 スピード:2 瞬発力:2 知力:5386
能力:毒耐性LV2 麻痺耐性LV1】
おお、何か強くなってる。そんなのあったのか。レベルアップだぞ、レベルアップ。スゲー。あんまり強くってないけどスゲー。まあレベルが一つ上がっただけだからな。これから強くなっていくんだよ。なんか身体が軽い気がするし。
と言うか、すんなりレベルアップしたな。一回植物倒しただけだぞ。そんだけ自分が弱いってことなのか(涙)
まあまあ元のステータスの最初の4つ全てが1だったと思うと倍くらいの強さになっているってことだよ。うん絶対それはないけど。それでも多少は強くなってると信じたい。そこはまあいい。
だけど……何故か筋力だけが1のまま……。
「何故なんだー!!」
叫び声が鬱蒼と茂った森の中に響き渡る。
それに驚いたのか、赤と黄色で彩られた鳥が木の隙間を縫うように空向けて一斉に飛び立ったのだった。