第四話 ステータス
――いや、やっぱ信じられねえって。おかしいだろ。
何回も同じところをぐるぐる回って気持ちを落ち着かせてから見てみたり、回りすぎて酔ったりしながら水面に映る怪物を見るが、やはり映るのは少し前に見た怪物と同じものだ。
そこに映っている怪物は頭が大きめで角っぽいのが頭に二本あり、いびつな格好をしている。でも、それを除けば人間の様でもある。
肌は暗い緑色で当たり前だが服は何も着ていない(見た目が人じゃないからかあまり恥ずかしさはない)。あと髪は無い。
とか思いつつも、まだ見た物を信じられず俺は繰り返し水面を覗き見る。
「目を冷ましたら夢だった、みたいに思いたいけどな。でも、こんなに意識がはっきりしている夢なんてないだろうし。水に映る獣は自分と同じように動くしな。やっぱり本当に俺がこの怪物なんだろうな。と言うより、転生って人間じゃねーのかよ!ビビるわ。いやまあゲームの広告には種族が沢山あるって書いてたけどさ。
とにかく、今は生き抜くことを最優先に考えよう。もし(いやこんな状況じゃ確実だろう)、こんな怪物に転生したんだとすると強いかもしれないぞ?こんなモンスターがいるし異世界だろうから魔法とか使えたりな」
と、ポジティブ――現実逃避ぎみ、に考えてみる。
いい加減疲れたので湖の水を飲んだ後、限界近くまで稼働していた足を休めようとその辺にあった丁度良い木陰にもたれ掛かる
「こんなにファンタジーな世界なら何かステータスみたいなものとかがあればいいのになー」
ぐったりとして空を見上げながら、まあさすがにそんなものは無いか、と呟く。
すると、急に目の前に白い半透明の板のようなものが現れた。
【個体名:ミカゲ=ウスイ
種族:ゴブリン LV1
危険度:G
状態:正常
HP:3/5
MP:0/0
筋力:1 体力:1 スピード:1 瞬発力:1 知力:5368
能力:無し】
「……、なんじゃこりゃー!」
思わず叫んでしまう。
「つっこみたいことが、沢山ありすぎて何も言えね-」
異世界だからか知らんけど名前が反対って何?なおさら影が薄いみたいになってるんですが。おちょくってんのか?
種族がゴブリン?まあ言われてみればそう思えてきたけど、ラノベとかゲームで定番の雑魚モンスター(この世界じゃどのくらいの強さか知らんが)に何故俺がなってんだよ。今更すぎるけど夢オチであることを切に願っちゃうよ。
で、この世界での俺の強さなんだがHPが5ってなんだよ、すぐ0になるだろ。後、何ですでにHPがすでに2減ってるんだよ。何、あれか、命削って走ってたのか。
MPが0て、このMPてやつが自分の思ってる通りの魔力的なものなら、俺魔法使えねーじゃん。少しでも期待した自分がばからしなってきたわ。
知力以外の4つが全て1とか終わってるだろ。そのわりには走れたけど……。あー、命削ってたのか。1が平均だと信じたいけどそうすると知力の5368が神になるわ。別段賢くなったとも思わんし。多分、魔物の中では賢い方ってことだろう。要するに俺、多分最弱じゃね。
なんも言えねー、とか言ったわりには心のなかで大量に呟いた。
てか、危険度って何だ?何かSとかAとかがあって下にいくほど危険じゃ無くなるって言う感じのやつか?
そう考えていると突然ステータスが書いてあった板の上に重なる様にもう一枚板が現れた。
【危険度:魔物単体のステータスを比較し、対象の魔物の強さをSSSからGまでに上にいくほど強くなるように区分して表したもの。
SSS:魔神級 世界の真理を知りうる程の力を持つ
SS:魔帝級 一般の人間一億人分に匹敵する力を持つ
S:魔王級 一般の人間一千万人分に匹敵する力を持つ
AAA:大公級 一般の人間百万人分に匹敵する力を持つ
AA:公爵級 一般の人間十万人分に匹敵する力を持つ
A:侯爵級 一般の人間一万人分に匹敵する力を持つ
B:伯爵級 一般の人間千人分に匹敵する力を持つ
C:子爵級 一般の人間百人分に匹敵する力を持つ
D:男爵級 一般の人間十人分に匹敵する力を持つ
E:準男爵級 一般の人間一人分と同等の力を持つ
F:騎士級 戦闘を生業としない者と同程度の力を持つ
G:平民級 魔物を名乗るのが恥ずかしい程の力を持つ】
「おっ、板が増えた。お、おう。何かスゲーな。世界の真理って何だよ。そんなことより一億人分に匹敵する力って国を滅ぼすレベルだろ。こんな魔物がうじゃうじゃいたら直ぐ人類滅ぶじゃねーかよ。魔物怖っ……。て、俺魔物だったわ。なのに一番危険度低いとか……もうこの人生詰んだ……。それにGの説明文にさらっと悪意が込められている気がするのだが。やっぱおちょくってんだろ」
いやこれ普通に詰みでは??
もうこれ詰みでは?!?!
詰んだのでは!?!?!?!?
気を取り直して。
「で、どうすりゃいいんだ?死ぬ気しかしないんだが」
板が邪魔で前が見えねーな、と思いつつ喋っていると急に板が消える。
わっ、ビックリした。急に消えんなし。自分が雑魚だと証明されたのは良いとして――全然良くないけど(雑魚の状態で森に独りでサバイバルとか、どんな無理ゲーだよ)、今から何をすれば良いんだ?別にいく宛もないし。
何を食べればいいんだろうか?そう言えば、腹減ってきたな。
これ詰んでるだろ、と思いつつ、とりあえずと休めていたまだ若干疲れの残っている足を立ち上がらせ歩き出す。
とはいえ、どうやって食べたりして、暮らすんだ?料理スキル皆無だし、材料があるかどうかさえ分からないのに。モンスターの丸焼きみたいなのとかを食べるのか。
てゆーか、火のつけ方すら知らないんですけど。生で食べんの……。いやいやいや、全体無理だろ。あっ、そもそもゴブリンて何を食べるんだろう。
そう思った瞬間、消えていた半透明の板―ようわからんしこれからウィンドウと呼ぼう、がまた出てきた。
【ゴブリン:主に森で生活する魔物。ステータスは最弱といわれる。
だが、魔物の中では弱いが、子供くらいの力を持ち、
集団で襲ってくることが多いので、注意は必要。
基本的に雑食。たまに村を襲うことがある。
強さに個体差があり、進化間近なら危険度F程度の個体もいる。
危険度:G~F】
「わぉ、何か出てきたし。出てこいって思ったら出てくんのかな」
ふーん、思ったよりは強いかも、と思いかけた。
が、
「俺って、今独りだよね……。子供くらいの力?やっぱ雑魚だな」
それにしても雑食か、と呟きつつ周りを見回すも、湖と草木、土が有るくらいで食べられそうなものはあまり無い。
草食べるのは嫌だしな、だからといってモンスターとかは絶対食べたくないし、あっ、というかまず捕まえれなかったわ。
仕方なくそこらに生えている草を取る。
食べれるのかな、と思いながら草をちぎって少し試しに口にふくんでみる。
「おぇっ、不味っ」
と言って、思わず草を吐く。
その草はミントと青汁を混ぜたような味をしていた。
いや、混ぜてみた事は無いのだが。
あれだ、苦くてスースーする感じ。
その時、何処からか
«個体名"ミカゲ=ウスイ"が全快しました»
という声が聞こえてきた。
「うわっ、何これ」
あっ、と思いつつウインドウを見ると、確かに、HPが5になっている。
「まさかこれって薬草か?マジか。言われてみれば、何か楽になった気がするな」
スゲーな、持ってこう。
両手いっぱいに薬草を持ち、歩き出した。
少し歩くと、キノコのような物が眼に映った。
「これ絶対、毒有るだろ」
巨大な100メートル位有りそうな樹木の下の方にひっそりと生えているキノコは赤と青が混ざったような色をして、自己主張をしていた。
ていうか普通に紫だけど。
「やっぱ不味いよな、これ」
でも腹が減ってるし少し食べてみるか、と両手に持っていた薬草を置きキノコをちぎって食べた。
「ううぇええ。クッソ不味っ、頭がガンガンすんだけど」
«状態異常"毒"にかかりました»
――ナニソレヤバクネ。めっちゃ頭痛いんですけど。
頭痛を我慢しウインドウを覗くと、状態の欄の表記が毒に変わり、HPが3に減っていた。
「は、マジかよ。死ぬって」
うがぁぁぁ、頭がぁあ。俺はここで死ぬような男じゃない。立ち上がるんだー(物理的に)。
と言って地べたを転がり回っているうちに、HPが2となる。
そんな時、天の声が聴こえてきた。
«能力"毒耐性"を取得しました»
「ん? おっ、何か凄そうなものゲットしたぞ。まだ痛いものの、痛みも耐えれる位になったし。ハッハッハー、毒など私の敵ではない。」
すぐさまふらつきつつも立ち上がり、悪役みたいなことを言う。
余裕綽々でウインドウのステータス画面的なものを出てこいと念じて覗くと、
「あれっ、毒が消えていないんだが」
茫然自失している間に、HPが1になってしまう。
「おいおいおい、もう死ぬだろ、ヤバイって」
どうすればいいんだよ、ナンマンダブナンマンダブ。
その時、俺は薬草を持ってきていたことに気がつく。
「あ、これ食べればよくね」
急げ急げと、薬草を掴み右手ごと薬草を口に押し込む。
モグモグ、ゴックン
「プハー、不味かった」
«個体名"ミカゲ=ウスイ"が全快しました»
ウインドウを見てみると、HPは5に戻っていて、状態のところに毒がなくなっていた。
「よかったぁ」
ホッと一息する。
それどころじゃなかったが、思ったよりHPの減りが遅かったな。まあどうせ意外と毒が弱かったみたいなことだろう。それで死にそうになる俺って……。まあ取り敢えず何か食べれたし、毒耐性とやらもゲットしたし、そんなことはどうでもいっか。
そして歩き出した。左手に薬草を持ち、空いた右手に巨大な樹木に這えていた残りのあの恐怖の毒キノコを持って。