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「うわああ、ここのマカロン大好きぃ」
土曜日、ハジメと洋菓子屋さんに来た。
中にはマカロンにタルト、甘いにおいを漂わせたカラフルな洋菓子が売られている。
カフェが中にあって、そこで直接食べれもするのだ。
「今日のロリィタ服も可愛いね」
「うんっクマちゃんたちのお茶会ってシリーズなのっ。茶色で統一してかわいいでしょ?」
「すごく」
うふ、とあたしは笑う。
「好きなの食べていいよ」
ハジメがお菓子ショーウィンドウのほうを指さす。
「いいの?」
「僕この後アシスタントだから。僕のアシスタント先売れっ子だから、収入いいんだよね」
「そうなんだ?」
いいなあ。あたしのメイドアルバイトは、薄給だよ。ビラ配って、接客して、料理もして。でも可愛い格好ができるから、いいんだ。
「まあ、先生が気前いいだけなんだけど」
「なんて先生?」
「田中メロンって先生」
その名前を聞いた瞬間あたしは固まった。
「少女漫画家さんだ!?」
「そうだね。めちゃくちゃ掛け持ち連載してる作家さんだね」
「あたし、大好きっ」
単行本全部持ってるよぉ! デビュー当時からのファンだもんっ!!
ファンレターも出して返事もらって、めちゃくちゃ大事にとってある!
興奮で鼻息が荒くなる。はしたないとわかっていても抑えられない。
「先生に、会ってみる?」
ハジメがにっこりと言った。
「いいの?」
「締め切りに追われてないときなら……そうだね、明後日とか」
「会いたい会いたいっ」
憧れのメロン先生に会いたいよぉ!!
どんな格好で行こうかな? 少女漫画のヒロインチックな白いドレスで行こう! ああ、でもインクが付くかな? じゃあ黒いロリィタで!
うーん、想像するだけでドキドキする!
「メールしたら、今日でもいいって」
「えっ」
突然すぎて、あたしのドキドキはさらに早まる。
「ただし見てるだけ、みたい。話すのは休憩時間」
「そんな、急だよぉ」
今日のコーデも自信はあるけど!
いつだって、ばっちりかわいい夢子だもんっ!
「マカロン、あたし差し入れに買ってく!」
「先生喜ぶと思うよ」
わかってる! だってメロン先生の大好物だもんっ。大ファンのあたしは覚えてる!
好きなものはマカロン、嫌いなものはぶろっこりー、東京出身の東京在住のO型。デビュー作は10年前の『ウキウキるんるん』で、ドラマ化アニメ化多数! なんとデビューは高校生時代! だからメロン先生はまだ若いの! あたしのあこがれの漫画家さんっ!!
「ピンクとラベンダー、先生の好きな色っ」
るんたったるんたった。かわいいものを選ぶのは楽しい。自分の分もちゃっかり買ってもらって、ハジメと席に座る。
「キャラデザみーせてっ」
両手をハジメに差し出して、あたし。
そこにハジメのスケッチブックが載る。それおもむろにめくる。
「わあ、絵が増えてるっ」
「毎日描いてるからね」
「……キャラデザ、これ?」
「うん」
それはただの似顔絵だった。
「……これは夢子だよ」
「……モデルだから」
「そのまんまじゃ、だめだよ」
「たとえばどんな髪型がいいかな?」
「それは自分で決めようよ」
あたしはマカロンを口に頬る。
「うう……」
項垂れながら頭を抱えるハジメは、正直想像力がかけているのかもしれない。
画力はずば抜けているのに、オリジナリティがないのだ。
「夢子そのものでも、別にいいんだけど少しは漫画らしくしてよ。これじゃあたしをデッサンしただけだよ」
「簡略化……でも、夢子さんはそのままが一番素敵だから……」
そう言って、ハジメは顔を赤らめる。
あたしも恥ずかしくなって視線を泳がす。
何? ハジメはあたしが好きなの?
「自分の中で咀嚼して、消化して作品にしなきゃ」
「ごもっとも」
「あたしも同じシリーズのお洋服ばっかじゃなく色々なものと合わせてオリジナリティ出してるよ! それと一緒だよ!」
「そうだね」
「誰でも考えられる奴じゃつまらないよ。シリーズでそろえるのも可愛いけどね」
見本通りじゃ、だめなんだと思う。特に新人作家ならインパクトがなくちゃ。
「よしっ、アレンジ加えてみるよ」
「がんばれっ」
「じゃあメロン先生の所に行こうか」
「わあっ」
テンションが上がりすぎて、思わずテーブルをガタンとあたしは動かした。
テーブルの周りに注目が集まって、恥ずかしい。
「楽しみ?」
くすくす、とハジメが笑う。
「うんっ」
あたしたちは、そのままメロン先生の家に向かった。