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「平良ペンタ……と」
あたしは学校の近くのカフェでスマホに文字を打ち込む。もしかしたら何かが分かると思ったから、ハジメたちと別れてこっそり検索してみたのだ。
すると、びっくりする結果が出た。
「平良ペンタ盗作検証サイト……?」
眉間にしわが寄る。なにこれ。
(盗作、したの?)
平良ペンタの漫画のあらすじが、とある漫画家の作品に激似だという、そんなサイトだった。
「……あり得ない」
掲示板にはその漫画家のファンの苦情が書かれている。中学生当時の彼の原稿は、やっぱり完成度が高った。
デビューは行かないまでも賞を取ってネットに掲載されたらしい、それは今でも読める。
その作品はとてもありがちな話だった。
「パクリ、なの?」
けれどもものすごくそっくりであった。
セリフなどは違うものの、展開はほとんど同じ。
「……これは、ひどく言われるわけだよ……」
盗作が本当なら、あたしは幻滅する。
ハジメのモデルもやりたくない。
でも、あたしはそれをすんなりは信じられないでいたんだ――。
(ハジメは、漫画が大好きなんだもん)
そんな簡単に、盗作なんてしないよ。
大好きなものを自分で作りたいって言ってたもん。
それでも、完全には疑いは消えなくて……。
すごくもやもやする。本人に聞きたい。
そう思ったらあたし初めに電話をかけていたんだ。
『ハジメッ』
『……なんでしょう? もうおうちで?』
『まだ帰宅中! 近くのカフェ』
『おしゃれだね~、さすが』
のんびりとした声が、電話越しに聞こえる。きっとハジメは自宅だろう。
『そんなことはどうでもいいのっ! ハジメって盗作したの!?』
『えっどこでそれを……ああ、検索したんだね、きっと』
『そう』
『してないよ、僕は。漫画の神に誓ってやってない』
冷静な声だった。
動揺するそぶりも見せずに彼は言い切った。
『信じてもいいの?』
『信じてほしい。あれは偶然の一致なんだ。僕の想像力のなさから、よくある話しか描けなかった……』
淡々と、ハジメは語る。
『そしてそっくりな作品ほど、面白くも消化できなかった。ありきたりな話でも実力があれば面白く調理できるものなのにね』
はあ、と電話越しにため息が聞こえる。
『情けないよ。オリジナリティのない僕の作品』
『ハジメ……』
『だから、個性的なロリィタにあこがれたのかもしれない。パワーがあって可愛くて。僕は没個性だから』
ハジメは確かに平凡だ。だけど、非凡な才能があるとあたしは思う。
『でもそれが、ロリィタである必要はきっとあるんだと思うよ。個性的なファッションはほかにもある。でもハジメはロリィタに魅力を感じた』
『奇抜なら何でもいいわけじゃないしね』
ハジメの口調が砕けていく。
『お姫様のようで、とても強い彼女たちがかっこよく思えたんだ。見た目で何を言われても、好きなもののためには負けない。僕もそうでありたい』
確かにロリィタは、周りの冷やかしや罵声の対象になりやすい。だから、繊細に見えて強い心が大切だったりする。
世の中、目立つ者には容赦ない。普通に笑うし馬鹿にする。
(好きな滑降して誰に迷惑かけてるってーの。不快だとしても、地味な格好が嫌いな人だっているし、流行りの服が嫌いな人だっているんだから、自由だしっ)
どんな笑い声にも、あたしは負けない。
だってロリィタが好きだから。
それは、ハジメと同じ気持ちだと思う。
好きなものは、決して誰にも譲りたくないのだ。
『強くてかっこいいお姫様のようなヒロインを、描いて見せるよ』
『楽しみにしてるよ』
きっと彼なら、素敵な作品をつってくれる。
そう、信じてみよう。
『隠しててごめん。言いにくくて……』
『たしかに、言いにくいことだと思う。本当は言ってほしかったな』
ハジメのその口で。
『ごめん……』
『ううん、いいんだ。きっと次の作品ですべてが分かるはずだから』
『今度こそかぶらないような作品を作ってみせるよ』
『頑張って』
思わずあたしもにっこり。
『それじゃあ、また今度ご馳走するからキャラデザインみてよ』
『わあい』
『一緒にカチューシャも買いに行こう』
正直、今はそういうのなしでも取材受けてもいいんだけど……まあ、もらえるものはもらっとけ!