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「なんで夢子に付きまといますか」
「だって隣の席だし」
笑顔でハジメは言った。
ハジメは校舎案内を委員長にしてもらってからずっとあたしの隣の席にいる。
結構な数声をかけれているのに、席からは動かないで対応を続けている。
「新しい友達作りに移動しましょうよ」
「話しかけてくれた子とはメアド交換したよ、僕」
そうじゃなくて。休み時間の間話しかけられていない間はずっと、ハジメはあたしを観察物のように眺めている。
正直気味が悪い。
「ほんと、お姫様みたいだね」
「……夢子ですから」
そう言われて、思わず頬が緩む。褒められてうれしくなくはないけど。
「そういえば、漫画描いてるんだっけ?」
「うん、そうだよ」
「どんな絵を描くの?」
「ちょっとまってね」
彼はカバンの中から分厚いスケッチブックを取り出す。
「うわあ」
中には繊細なタッチのイラストが並んでいた。デッサンやスケッチもある。中には有名な芸能人の似顔絵までも。
「すごい~」
「なんだ? おー転校生がすごいの見せてるぜ! きてみろよっ山田」
クラスの男子がスケッチブックに目をつけて、騒ぎだす。
「うわっ、うめぇ!!」
呼ばれた男子のリアクションを皮切りに、ハジメの机の周りに人だかりができる。
「プロみたい~」
「あたしの似顔絵も描いてよ~」
「美術の先生とバトれるんじゃね?」
その言葉たちに、ハジメは嬉しそうに笑う。
「よかったら、見てやってください」
ハジメがスケッチブックをクラスメイトに渡すと、そこにまた人だかりが移動する。
(すごいじゃん)
「漫画はどんなのを描くの?」
「それが……浮かばなくて」
「ふぅん」
「でも、夢子さん見てたらなにか思いつきそうな気がして……」
「夢子の絵,描いてみてよ。あたしの似顔絵。
お姫様みたいな絵で」
「え、あ、いいですよ?」
そう言って、さらさらとハジメは筆を走らせる。数分後にはきれいなレトロ少女漫画絵に描かれたあたしが紙の上に出来上がっていた。
「描くの早いね」
「週刊連載したいから、いろいろ練習してて……」
「週刊連載? すっごー。賞とかとったことあるの?」
あたしは似顔絵をもらい、手帳に挟む。
思わず表情が緩む。
「よかった、喜んでもらえて」
「……だって、上手だったから……」
「ありがとう。賞はね、一度だけ中学生の頃投稿してその時に担当さんが付いてる。今はアシスタントやってるよ」
「PN教えてよ!」
「いつかね」
「ぶぅ……教えてくれないとモデルやんないし」
「やってくれるの?」
ハジメが目を輝かしてあたしを見る。
あたしは思わずたじろぐ。
「僕お金はアシスタントでためてるし、お洋服ぐらいなら買ってあげるけど……」
「やる」
「本当に!?」
「でも高いよ? ロリィタ服」
だからこそ、即答したんだけど。
でも、ハジメの絵に魅力を感じたのは本当だ。
「知ってる、カタログ買ってみたし」
そりゃそうか。あたしもメイドのアルバイトしてるけど、それだけじゃ欲しいシリーズ買えないからいいアルバイトになりそう。
「僕が女の子なら、着てたかもね」
「あら、男の子でも着れてよ?」
「えっ?」
「……千鶴ちゃんを紹介しなくちゃね」
そう言って、あたしは放課後に彼を千鶴ちゃんの部屋に案内することにした。