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彼女は千鶴の骨っぽい体系を隠せるように、ふわふわした洋服をあつらえてくれた。
そしてとんでもないことを言い出した。
「千鶴さんはこれからは女の子らしく暮らしましょうね」
「……ちぃは男の子だよ?」
「こんなに愛らしいのですから、女の子の恰好をして、女の子らしく生きましょう。そのほうがあっていますよ」
「そうなの?」
そう言って、彼に少女漫画や少女小説を与え、刺繍だとか、ぬいぐるみやおままごとを教えた。そうすることで、外への興味を削ぐ事が目的であったのだけれど、千鶴は素直に聞き入れて、自然とそれらを好きになった。何よりも本質的に少女趣味な性格だったのかもしれない。
ほのかの事を「姉さん」と呼び慕い始めたのも、すぐだった。美味しいご飯に、楽しい話。ほのかが作る薬を飲めば、それだけで寝たきりになる事はなくなった。
「姉さんって、魔法使いみたい」
「魔女と、周りには呼ばれておりますから」
「まほうつかい?」
「ええ」
「じゃあ、ちぃを元気な男の子にしてくれる?」
「……ええ」
ほのかのあいまいな受け答えは、千鶴がそれを悟るのには十分すぎた。
――自分は、一生健康な身体には恵まれないのだと。
ピンクにフリルに華がらにレース。ひらひらとした服を着て、くるりと鏡の前で笑う。自分にはこれが似合うのだ。身体は男で心も男でも、この格好でかわいらしいものに囲まれて幸せそうにしていれば、皆も満足するのだ。
自分だってそれが好きなのだから、それでいいのだ。
多くは、望んではいけないのだ。ただ命あるだけで、贅沢なのだから。
もうあの白い箱には、戻りたくないから。
10歳になった頃、頻繁にほのかと公園に行くようになった。
そこで、ある少女に出会い、千鶴は自分で作ったブレスレットをプレゼントした。そしてある事件に巻き込まれ、数カ月外出を禁止された。
けれどもすぐに、問題の種は解決され、千鶴は元の生活に戻った。
千鶴が11を数えたときには、すでにその生活が当たり前にしみついて、疑問に思う事もなくなった。変わった事と言えば口調か。少女漫画に感化されて一人称はオレになり、少し小難しいようなしゃべり方になった。
「姉さん、話があるんだが」
「何ですか千鶴さん」
「手芸糸が切れた、買ってきてくれないか? 赤いやつ……」
「ええ、かまいませんよ。今は何を作られているんですか?」
「ポーチを作ろうと……母さまに差し上げたくて」
「母の日が近いですしね。きっと喜びますよ」
ほのかの言葉に千鶴も笑った。あれから養母とも養父とも会い、義理の弟にもあった。皆が優しく、千鶴も彼らが大好きだった。特におとうはうんと年が離れているものの、利口で優しく、たまに遊びに来ては千鶴の話し相手になってくれた。博識な彼は、千鶴に色々な刺激を与えてくれた。
美術館に足を運んだり、一緒に料理もした。
千鶴の身体も肉付きは多少よくなり、血行もよくなりつつある。
明るい日差しの中でピクニックもした。千鶴の部屋は思い出の写真でいっぱいになった。
あたり前の日常が、数年前とはけた違いに幸せなものになっていた。
そして、しばらくして外出の頻度が上がり、ほのかが少し離れていても遊ぶことを許可されるようになった。携帯も買ってもらったし、何より千鶴の関心はすでに運動にはなかったからだ。外へ出ても、花や蝶に反応するようになっていた。
長い黒髪をたまに二つに結って、まるで女の子のように生きるのが当たり前になった。