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「小枝子~小枝子ってピアス片耳だけ付けてるよな。ハートのビーズの奴」
「あ、うん。昔仲良かった女の子にブレスレットをもらったんだけど……壊れちゃって自分でアレンジしてピアスにしたの。ビーズ高そうだったし」
「それはパワーストーンだ」
にっこりと千鶴が言う。
「ピンクトルマリンと、オパールと、ピンクオパールと……まあ、子供だったからとりあえずピンク系中心にそろえたんだよな、あのときは」
「あのとき?」
「ああ、コレ作ったのオレだからな」
さも当然とばかりに、千鶴。
(ちょっとまってよ)
昔一緒に遊んだ黒髪ロングの女の子。車いすに乗って、いつもお花を見ていた。弟のいる病院に、居た……あの子は。
「あれ、あの子千鶴?」
「今まで気がついてなかったのか? まあ姉さんは初対面だと思ってたみたいだけどな。いう必要もないと思ったからな~でもちゅーして怒られた時にいえばよかったか? 初対面じゃない、って」
初対面じゃなくても怒られてたと思うけど。
平然と語る千鶴に対して、小枝子はぽかーんとした顔で千鶴を見ていた。
――小枝子ちゃん、ちぃね、ビーズで遊んでみたの。
そう言って、彼女は嬉しそうに小枝子にくれた。
それがまさかパワーストーン……宝石だとは。そんな高価なもの、当時10も行かない子供が遊び感覚で使っていたというのは、やっぱり金持ちだからだろう。小枝子なんて、100均のビーズしか使ったことがないというのに。
(格差やばい……)
「小枝子とまた会えて、嬉しい」
千鶴の言葉に、急に思い出がよみがえるあれは、小枝子が8歳の夏のことだった。
* (千鶴side)
物心ついたころには、白い壁がいつも見えていた。
薬の匂いが当たり前すぎて、外へ出たときにいつもの匂いがしないことにお泥おいたのを覚えている。
酸素ボンベの曇っていく様子を眺めながら、機械音を聞きながら、輸血のチューブを眺めた。それ以外する事がなかった。
自分と家族と病院に出入りする人たち。それが千鶴の世界の登場人物のすべてだった。
時間はいつも長くて無限のように感じた。
吐いて、刺して、切って、縫って、つなぐ。同じような日々。
ある日母が泣きながらこう言った。
「ごめんね、千鶴。もうあなたを生かしておくお金がないの」
その日から、千鶴は津野田千鶴となった。千鶴は、お金持ちの家に養子に出されたのだった。それからだ、ほのかという使用人兼、医者が傍にいることになったのは。
「千鶴さん、ほのかです、はじめまして」
「ちぃの、お手伝いさん?」
車いすに乗りながら、千鶴は尋ねた。当時千鶴は7歳であったが、会話をする機会が極端に少なかったため口調が幼かった。髪の毛も伸び切っており、前髪だけが申し訳ない程度に切りそろえられていた。
「ええ、そうですよ」
「新しいママは?」
「いずれ会えますよ。忙しい方ですから」
新しい母親が、千鶴を引き取ることに決めたのは、もともとボランティアに力を入れているからでもあったが、千鶴のはかなげな容姿を見て傍に置きたいと思ったらしかった。
千鶴は、可憐な少女のような容姿をしていた。双子の弟がいたが、全く似ておらず、彼は少年らしい面立ちであった。もちろん一卵生である。
活発な彼を見ていると、千鶴は悔しくて、切なくなった。
――自分も走り回れればいいのに。
そう、思うのを周りも悟って、彼を病院に来させないように配慮した。