1
「鈴木里美!」
「花籠夢子です!」
学校にての、毎朝のやり取り。
生活指導の先生ってば諦めてくれないの。
将来改名するために、今から皆に夢子って呼ばせなきゃなのに。
「そのふざけた頭のでかいリボンをとれ!」
「いやですっ。あたしのトレードマーク!」
「制服まで改造してっセーラーが台無しに……」
「千鶴ちゃんがいいっていうんだからいいじゃないですか」
「理事長の息子まで丸め込んで!」
「丸め込んでません。気が合っただけです」
千鶴ちゃんというのは、この学園花野学園の理事長の息子だ。彼の一存で、あたしの改造制服は許されている。
かわいい深緑のセーラーに、あたしはふんだんにレースやリボンをつけている。
「ああ……そのせいでこの学校は金髪につけまつげにやりたい放題の子供であふれかえってるよ!」
ヒステリックに叫ぶ先生。古風な考えを持つこの先生は、黒髪のあたしを褒めてくれないのが不思議。姫カットなだけで、染めてませんよ~??
「朝のティータイムを、千鶴ちゃんのお部屋でしてきますね」
「鈴木ぃいいいいいい」
「花籠ですっ」
先生の声なんて無視!
あたしは高等部の保健室の右隣の部屋を開ける。白いレースがいっぱいの姫部屋。
「今日アップルティーだぞ」
迎えに出るのはさらさらとした黒髪を伸ばした、細身の男の娘。ふりふりひらひらな服を着た、美少女のような美少年。
理事長の息子で高校1年生なんだけど、病弱だから保健室の隣で授業を受けているんだ。
あたしとは服の趣味が一緒で、中等部のころからずっと仲良し。千鶴ちゃんは普通の授業には出られないから、よくお茶会と称して彼の部屋に遊びに行くんだ。
「今日も元気だな、夢子」
見た目に反して古風な男言葉の千鶴ちゃんがにっこり笑う。まさに天使。
「うんっ、千鶴ちゃんの調子は?」
「今日はいいな。そうだ夢子。今日は夢子のクラスに転校生が来るらしいぞ」
「本当? 男? 女?」
「確か、男子だ」
「ふぅん」
まあ、いいけど。どうせあたしと関係ないし。かわいいロリィタちゃんなら別だけど?
「夢子は他人に興味ないよな」
「だって、理解してくれるのはほんの一部だけだもの」
「夢子は夢子の道を行く、もんな」
「そうそう」
ふりふりひらひららんららるんっ
これがあたしのポリシー。
かわいくてきれいなものしか受け付けないの。
パニエできれいに広がったセーラー服のスカート。二つのリボンで結ったツインテール。レースのついたニーソックス。
それが、あたしだから。
「俺はそれでいいと思う」
「千鶴ちゃんが女の子だったらね」
「俺は別に性別に困ってないがな」
「スカートは履かないじゃない。メイクもしない。それでも女の子に見えるけど」
「ふりふりが着れるならばそれでいい」
と、言いながら周りがせがめば千鶴ちゃんは女装してくれるんだけどね。
去年の文化祭なんか千鶴ちゃんin女装喫茶ちゃんで、ほとんどの客がクラスの男子じゃなく千鶴ちゃんに行っちゃったもん。
まあ、仕方がないよねかわいいし。
サラサラのロングヘアからはいつもいいにおいがするし。
「ふりふりは、気持ちを上げてくれるもんね」
「……そうだな」
ゆっくりはにかむ千鶴ちゃんに、あたしは入れてもらったアップルティーを急いで飲み干す。しゃべっていたらもう始業時間だ。
「またねっ、千鶴ちゃんっ」
「ああ、いってらっしゃいだ」
白いレースの部屋を後にして、あたしは教室へとゆっくり向かった。遅刻することより、はしたなくスカートが乱れるほうが問題なのだ。