13
「あれ誰よ」
「しらねぇ」
「転校生じゃね?」
ざわざわと、次の朝の視線をあたしは独り占め。なぜならすっぴんで普通の制服を着てクラスに入ってったから。
心臓がのどから飛び出そうだ。道を歩く間何を言われないかびくびくしてた。
それでも、あたしはこの姿で宣言したかったのだ。
「おお、鈴木」
先生がにんまりあたしを見て笑った。
「地味でいいじゃないか。オレは好きだぞ」
「どうも、今日だけですけどね」
「なっ」
「あえてこの格好できたのは、ある考えのためです」
「考え?」
「ファッションショーです」
「は?」
そう、舞台はもうすぐ始まる文化祭。
あえてすっぴん地味子でまずは舞台に立つ。
それを、ほかの講演が終わるころにそれぞれの好きな格好で現れる。おしゃれ体験ブースもつける。きっと千鶴ちゃんは許可をくれるだろう。
「はっ、馬鹿げてる。所詮子供のショーだろう?」
「どうでしょうね?」
後ろ盾は用意してある。
確かに学業にオシャレはいらないかもしれない。けれども、楽しい学校に通うにはオシャレは大事だと思う。
それは強制するものではなく、自由で、しなくても全然かまわない。
この広い校舎の中にいろいろな個性があふれているのが、きっとこの学園らしい。
「ゲリラだときっと追い出されるでしょうから、変身前の姿で宣言します」
「そんな場所を貸すものか」
「千鶴ちゃんが付いていますから」
「……ショーをしたからと言って何だってんだ」
確かに、その通りかもしれない。
でもあたしの考えはそれだけじゃない。
「見ててください。そのうち自由に服装で登校したがる生徒にこの学校は溢れますから」
自信満々にあたしは言い切った。
すごくすっきり。
きっとハジメや小枝子ちゃんも協力してくれるだろうから、中等部を巻き込んだショーになるだろう。
今から気合を入れなくちゃ。
ファッションショーまであと1か月。
「思い切ったね、夢子さん」
ハジメが感心した目であたしを見る。
「漫画だったら絶対主人公、だと思ってはいたけど……」
「みんなが自分の人生の主人公、だよ!」
だからこそ、青春を好きな格好で過ごたいし、過ごしてほしい。
隣では小枝子ちゃんがデザイン画を眺めていた。すべてあたしが描いたものだ。
「これは?」
「この中から、自分に似合う服を選んでもらおうかなあって、もちろん好きなデザイン持ち込みもOK」
「なるほど」
小枝子ちゃんはそれらをぺらぺらめくる。
「でも先生に目をつけられるようなことしますかね? 最近皆服装地味ですよ」
「小枝子ちゃんは変わらないよね」
「あたしまでは強く言えないんじゃないですか? 理事長につながっちゃうし」
「理事長は?」
「正直面白がってます」
そんな……。小枝子ちゃんも大きなため息をつくけど、あたしだってため息をつきたい気分だ。
「青春はいろいろあるほうが楽しいからって」
「それはたしかにありえるけど……そういえば千鶴ちゃんは?」
「快方に向かってますが、復学は難しいそうです」
「そっかあ」
それはすごく寂しいなあ。
「でも、あの部屋は自由に使っていいって言ってました」
「そっかあ……」
千鶴ちゃんの甘いにおいが残る部屋を使うのはちょっぴり切ないけど、ありがたくショーの準備室に使わせてもらおう。
「千鶴は、自由な学校が好きでした。あの子は体が細いことを気にしてふりふりの服を好んでましたし……それが許される自分の学校だから通えたんだと思います」
千鶴ちゃんがふりふりが好きな理由が、そんな理由だと知り、胸が痛む。
ずっと、深くは知らなかった千鶴ちゃんの体の事情。体が弱くていつも薬飲んでるぐらいにしか思ってなかったけど、そういえば華奢だったなあ。それも、病気のせいだったんだね。
(早く元気になってね)
あたしの大事な親友。
「あたしからの提案なんだけど」
あたしはふたりに、前々から考えてたことを打ち明けた。