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3ふりふりひらひら大ピンチ!

 暖かな日差し。ぬくぬくお布団。まだまだ二度寝できそうなそんな朝。

 あたしは仕方なしに目覚める。すると、携帯の着信履歴に千鶴ちゃん。

(どうしたんだろう?)

 かけ直してみると、なかなかつながらない。

 仕方が泣くあたしは学校の支度を始める。

 髪を解いていたらクシが引っ掛かって折れた。すごく不吉。

「いってきま……す?」

 家で元気にでようとしたら派手な金髪(久住さんより明るい)をアップにした巨乳の美少女がそこに立っていた。

「あたし、千鶴の彼女の小枝子だけど」

「……はあ、こんにちは。はじめまして」

 目つきの鋭い少女だった、ジッとあたしを見つめ口先を細める。

「千鶴が倒れたから」

「えっ」

「それだけ」

 そう言って彼女は踵を返そうとする。

 慌ててあたしは彼女の襟を引っ張った。

「なにするの」

「元気なの?」

「そんなはずないじゃない、倒れたのだから」

 淡々と、無表情に彼女は続ける。

「しばらくは療養。あたしは今日彼の荷物を引き取りに行くから、あとで教えて」

「教えて、って別の高校の子?」

 そう言えば、見かけた記憶はないけれど。

 こんな印象的なルックスの子、同じ学校なら絶対覚えている。

「中等部2年生」

「え」

「中学生だよ、あたし」

「ええええええ!?」

 このスタイルで!? グラビアモデルみたいな、爆乳で!? うらやましすぎる。

 お化粧は確かにしてないし、制服だってよく見ればうちの中等部のものだ。

「最近転校してきたから、知らなくて普通」

 小枝子という彼女には表情がなかった。じっと見つめてみれば、目元がうるんでいるのが分かる。ああ、彼女は感情をこらええているのだ。だからこうも事務的な対応をしているのだ。

「千鶴は死なないから、絶対」

 小枝子ちゃんはそう言って鼻を鳴らした。

「そうだね」

「あなたよりあたしのほうが大事だから、千鶴は」

「そうだね」

「学校の部屋を今まで黙ってたのも、普通の男子の振りしたかっただけだから」

「うん」

 嗚咽の混じった声を、あたしはただ肯定する。あたしは千鶴ちゃんに彼女がいることを知らなかったけど、きっと彼は彼女の前では普通の健康な男子高生のふりをしたかったんだろう。

「千鶴ちゃんの部屋の子とどうやって知ったの?」

「友達から噂で聞いた。千鶴って授業受けてないんでしょ」

 涙を拭きながら小枝子ちゃんは言う。

「うん、まあ」

「体弱いのは知ってたけど……それぐらいだと思ってた。街で、千鶴が具合悪そうにしてるのに声をかけてであったの、あたし達」

 彼女が言うに、小枝子ちゃんが街を歩いていた時に具合悪そうな千鶴ちゃんを見かけ、漫画喫茶に保護して、それから千鶴ちゃんが小枝子ちゃんに一目ぼれしてアタックしてきたらしい。そのうち小枝子ちゃんも千鶴ちゃんを好きになって、付き合いだして1年。

 知り合いをだれも紹介してくれないことに不安を感じながら、千鶴ちゃんに無断で彼の親が理事長の花野学園の中等部に編入したらしい。

「校則も自由で、髪の色も千鶴が好きな金髪に染めて……」

 千鶴ちゃんが金髪が好きだってこと自体初耳で、あたしは驚いた。てっきり清楚系が好きなのかと思ってた。

「ふりふりひらひらは却下したけど」

(あ、やっぱそこはふりふりひらひらなんだ?)

 ゆっくりと学校へ向かって歩くあたしたちはよく目立つ。

 大きなリボンを付けたあたしと、金髪の小枝子ちゃん。普通の学校じゃ絶対アウトなんだろうなあ。

「千鶴が、会ってくれないの。弱ってるところを見られたくないって。だから、代わりにあとであって」

 すがるような声だった。

 千鶴ちゃんの気持ちも小枝子ちゃんの気持ちも分かった。好きだからこその感情。

 校門が見えてきた。いつも通りに校門をくぐろうとしたその時。

「鈴木!」

「花籠です!」

 いつも通りのやり取りが始まった、かに思えた。

「理事長の息子が倒れたそうだな」

 先生がにんまり笑った。小枝子ちゃんがきっと先生をにらみつける。

「もうこんな頭飾りも、髪色もかばってくれるやつはいないぞ、理事長は別に寛大じゃない。息子に甘いだけだ」

「千鶴は死んでない!」

 小枝子ちゃんが犬のように吠えた。

「もう学校には来れないだろう。同じだ」

「同じじゃないっ」

 先生とは思えない非道さに、あたしもムカッとくる。きっともともと千鶴ちゃんをよく思ってなかったのだろう。

「理事長の息子だからって無意味に校則を乱して……あんまりだ」

「あんまりなのはどっちよ!」

 小枝子ちゃんは止まらない。

 ギリリと歯をむき出しにして闘志をぶつける。

「自由な校風が与える、よさがわかんないんだ? 先生」

 あたしは呆れてそう言った。

「風紀の乱れしか感じないな!」

「ふぅん、皆ワクワク楽しく学校に来れるのに」

「学校は学ぶ場所だ。わくわくはいらない」

「私立らしくない先生よねー本当」

「解雇されないんだから、オレの意見は間違ってない」

「そうかしら」

 ふふん、とあたしは鼻で笑う。

 みんながここの学校は自由でいいと言ってるのを、あたしたち生徒は知っている。

「生徒会長ももっと固くていいと言ってる」

 ああ、あのおかっぱマルメガネの会長か。

 おしゃれ興味なさそうだもんなあ。

「それに鈴木。お前は受験生だ。内申に響くと思え」

「……脅しですか?」

「そうとらえるのならばな」

 小枝子ちゃんが隣りで怖い顔をしている。

 卑怯だと、あたしも思う。

「いいでしょう。すっぴんで明日は来て見せます」

「夢子さん!?」

「大丈夫だから、小枝子ちゃん」

 あたしには、考えがあるから。

 先生はにんまり笑って、あたしを見た。

「意外と物わかりいいじゃないか」

「そうでしょうかね?」

 あたしもにんまり笑った。

 あたしにはあたしの考えがある。




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