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「お前のせいで僕の漫画家人生がめちゃくちゃになるとこだったんだぞ!」

 こんなに激怒するハジメを見るのは初めてだった。鬼のようだった。

「一度殴らせろ」

「ああ」

「えっ」

 あたしが声を上げた瞬間に、ハジメの拳は振り下ろされた。

(……あまり、痛くはなさそうだけど)

 久住さんのほほは赤くはなっていた。

「マジでごめん、やっちゃいけないことをやった」

「ほんとだよ!?」

「全部俺が悪い。縁を切ってもいい」

「切ってどうにかなるのかよ!」

「……それは」

 すごい剣幕のハジメに、久住さんが口ごもる。

「僕が損することしかないじゃないか! 親友がいなくなるだけで!」

 怒りながら、ハジメは叫ぶ。

「こんなことがあってもまだ親友だと思ってくれるのか?」

「むかつく親友に格下げだけどな!」

「……ハジメ」

 まくしたてながら、ハジメはハアハアと息を吐く。

「お前の代わりになる友人なんかいないんだよ、僕には」

 ふう、とため息をついてハジメが呼吸を整えていく。

「怒らないはずがない、本気で怒り狂ってる」

 だけど、とハジメは続ける。

「僕だって、君が離れてくのは怖いんだ」

「ハジメ……」

「嫉妬だって僕だってすることもある。気持ちは痛いほどわかるんだ。こんなことはしないけど」

 ハジメは最後のほうを強調して言った。

「……ごめんなさい」

「さあ、サイトを閉鎖しに行こう」

「夢子ちゃんもついてくるよね?」

「はいっ」

 久住さんに聞かれて、あたしは大きく返事をした。



「やばい、パスワードが出てこない」

 どこにでもあるインターネットができる漫画喫茶で、あたしたちはピンチを迎えていた。

 ハジメの盗作サイトのパスワードが思い出せないのだ。

「なんだっけ、いつものと違うパスワードにしたんだ」

「なんでだよ……」

 久住さんの言葉にハジメがあきれる。

 そのくせのんきにミルクティーを飲んでいたりもするあたり、完全にリラックスしているらしい。

 あたしはいちごミルクが冷めるのを待っているところ。

 2人はカチカチとパソコンに向き合いながら討論している。ああでもこうでもない、時間だけがどんどん進んでいく。

 あたしのいちごミルクは二杯目へと変わる。

 そしてあたしは暇つぶしに少女漫画の棚をあさり始める。

「なんか二人の記念になる日とかじゃないの??」

 あたしは少女漫画をめくりながらつぶやく。

「たとえば誕生日だとか」

「僕一回しか教えてないし、祝われてない」

「俺も祝ってない……けど、それだ」

 カチカチとタイピングする音が鳴り響く。すごい勢いでサイト編集ページが開いた。

「お前、覚えてるなら祝えよ……僕なんてお前に教えてもらってもないぞ」

「そうだっけ?」

 親友なのにそれってどうなんだろう。

 でも、そう言いながら二人は笑いあってるしどうってことないことなのかもしれない。

 そのまま編集を終えた久住さんを見届けてそれぞれが好きな漫画を読んだり、カラオケを楽しんだりダーツを楽しんだりした。

 夢子が歌ったマイナーな少女漫画の歌も、どっちも分かってくれてうれしかった。さすが漫画家志望だねっ!

 途中二人は合作を始めたり、とても楽しそうだった。こんなことがあってもすぐにそんな風に仲良くできるのは、やっぱり親友だからなんだろうな。

 親友かあ……。

(千鶴ちゃんぐらいかなあ、そう呼べるのは)

 彼のことを思い出した瞬間、なぜかぞわりと悪寒が走った。

 きっと気のせいだと、あたし達は漫画喫茶を後にした。





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