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九十一話 異変



 街へと戻る道すがら、ふと先ほどの事を思い出しては顔を真っ赤にしたりした二人だったが、街へと入った瞬間に、周囲の喧噪に気付き顔を見合わせる。

 大勢の兵士が港の方角へと走って行き、それに併せて街の人も港へ集まっていくような動きが感じられた。アンに事情を聞こうと思ったアレクだったが、海賊の潜伏先を探させていたのだと思い出す。仕方なく周囲の人の話に耳を傾けて、情報を手に入れようとした。


「どうやら海賊に襲われた船が港へと流れ着いたらしい」

「また海賊か。最近噂になってる奴かな?」

「だろうな……。だとすれば、乗組員の生存は絶望的か……」


 道行く人達はそんな会話をしながら港へと急いでいる。アレクとフィアも流れに乗って港へ近づくと一艘の船を兵士が囲んでいる様子が目に映る。

 船はかなり大きなタイプであり、貿易に使っていたのだろうと推測される。甲板のあちこちから火の手があがり、壁面にも穴が空いていて何時沈んでもおかしくない状態だった。魔法使いが初級の《ウォーターブリット》で消火を試みていたり、兵士が海水をたらいで掛けたりしているのだが、火の手の勢いが強く一向に消えない。中にもしも生存者が居たとしても、あれでは焼け死ぬか沈んで終わりだろう。


「消火を手伝います! 多少の魔法は使えますので!」


 アレクは近くで指揮を執っていた兵士へ向けて叫ぶと、フィアに宿に戻ってミリアを連れてくるよう頼んだ。生存者が居た場合、自分が治すと悪目立ちしてしまう為だ。消火してから生存者を探すまでにはミリアなら港へと着くだろう。もしかすれば、騒ぎを聞きつけて既に向かっている可能性もある。


「《レインストーム》!」


 アレクの唱えた上級魔法は激しい雨を甲板上に降らせる。似たような魔法で《テンペスト》というものもあるが、これだと暴風も加わる為、転覆の恐れが出てくる。《レインストーム》は局地的に大量の雨を降らせるだけの魔法だが、術者の意思で止める事が出来るので今回の場合は最適と言える。

 アレクの目論見通り、船にさしたるダメージを与えずに甲板の火をあっという間に消火する。船内でも火災が起きているかもしれないが、これでひとまずは船に乗り込めるであろう。


「すごい! こいつは上級魔法じゃないか。君、もしよければ生存者の確認に手を貸してくれ!」


 アレクの放った魔法に指揮を執っていた兵士も、周囲の魔法使い達も口を開けて唖然としていたが、指揮官の兵士が誰よりも早く我に返るとアレクへ協力を頼んだ。生存者が居る可能性もあり、有能な魔法使いが今は一人でも欲しかったのだ。

 その要請にアレクは頷くと、一刻の猶予も無いとばかりに船へと乗り込んだ。


「《ウィンドレジスト》《ヒートレジスト》」


 アレクは未だ船内から漂ってくる煙を防ぐ為に体の周囲に風の障壁を作って身に纏う。煙が生じるという事は燃えている箇所があるからと判断して、耐熱の魔法で暑さ対策を行うと船内へと入っていく。依然燃えている箇所には《ウォーターブリット》を放ち消火をしつつ、一部屋一部屋扉を開けて中を確認していく。


 アレクの目に飛び込んでくるのは、剣で切られたであろう乗組員達の姿ばかりであった。どうやら、皆殺しにしてから船に火を放ったのだろう。村での一件を思い出させるような光景に怒りを覚えながらも、生存者を求めて奥へと駆けていく。幸いにもまだ浸水はしていないらしく、船が傾く気配は無いが、何が切っ掛けで沈むかは分からないので手早く捜索を進める。



「なんだろう、この扉は……」


 アレクが船内を駆け回り、辿り着いたのは船の一番奥に当たる部屋だった。一見して頑丈そうな扉には幾重にも剣を叩き付けたであろう傷が走っていた。扉を開けようと手を掛けてみるが、鍵が掛かっているのかぴくりとも動かない。海賊も開けられなかったのであろう。だとすれば、重要な物が置かれているのか、生存者が隠れているとすればこの奥なのだろうとアレクは推測する。

 鍵穴は付いているが、今から乗組員の亡骸や部屋を捜索して鍵を見つけるのは困難だ。アレクは扉を前に腕を組んで考え始めた。


(魔法で破壊するか? でも、これだけ頑丈だと魔法耐性が高そうだし……)


 取りあえず生存者が居る可能性を考慮して、声を掛けてみるが反応は無かった。こちらが海賊だと思われている可能性があるので、人が居ても黙っているのかもしれない。アレクは仕方が無いと判断して、魔法で開ける事を選択した。


「中に人が居るかもしれないから吹き飛ばすのは駄目だよね……。扉が頑丈なら、横の壁を撃ち抜くほうが早いかな?」


 アレクは扉の横壁へと《アースブリット》を試しに放つ。しかし、普通に放った魔法では表面に窪みが出来ただけで、貫通しなかった。アレクはため息を吐きつつ、段階的にこめる魔力を増やしていく。最終的に、普通の五倍ほどの威力の土弾でやっと壁に拳大の穴を作る事が出来た。出来た穴から内部の様子を伺おうと目を宛がうと、限られた範囲ではあるが部屋の中の様子が目に映った。


 部屋の中は薄暗かったが、アレクの眼を持ってすれば大した影響は無い。きょろきょろと部屋の中を見ると、大小様々な箱が積み重ねられていた。そして、部屋の隅でこちらを怯えた様子で見ている四つの人影があった。

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