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八十九話 海賊

 海の浅瀬にいる魚も二人の威圧で逃げてしまっているらしく、釣りをしていた人などは渋い顔をしてとっくの昔に離れている。僅かに申し訳ないなという気持ちを抱きつつ、アレクはフィア達が遊んでいるのを眺めていた。


「ねぇ、アレク君も一緒に遊ぼうよ」


 そんなアレクの腕を取り、フィアは水際までアレクを引っ張っていくと手で海水を掬いかけ始める。


「冷た! お返しだ!」


 急に水をかけられたことに驚きながらアレクもやり返す。戯れていると頭の中にあった悲しいものや辛さといったものが消えていくようであった。自身では気付いていないが、その時のアレクは年相応の無邪気な表情を見せていた。

 フィアはそんな楽しそうなアレクを見て、無理に引っ張ってきてよかったなと思うのだった。アレクが故郷へ立ち寄る前日辺りから、どこか近寄りがたい雰囲気を出していたのに皆気付いていた。

 結局、ロハの村だった廃村を発った後もアレクの表情にはどこか陰が残っていた。フィアはアレクに自分が何かしてあげれないだろうかとこの数日悩んでいたのだ。

 そんなフィアに、ミリアは年上としてのアドバイスをしてきたのだ。


「アレクが失った家族や敵討ちの事を一瞬でも忘れるように貴方が引っ張ってあげなさい」


 ミリアとしてもアレクの事が心配だった。だが、ミリアには師としてアレクを守る事は出来ても、友として接することは出来ない。だからアレクに好意を寄せているフィアにその役目を任せたのだった。

 アレクにとって久方ぶりとなる楽しい時間だった。どこか家族を失った自分だけが楽しんでしまうことに申し訳なさを感じていた。それによって周囲の皆に心配を掛けていたことを改めて自覚したのだった。

 フィアと戯れながら皆の顔を窺えば、ミリアは優しげな表情でアレクを見つめていた。ランバートやエレンですら、どこかほっとした表情でアレクを見ていたのだ。


(思い詰めすぎだったのかな。こうして引っ張ってくれたフィアに感謝しなっきゃ)


 アレクはそう独りごちると、今だけは何も考えないようにと思いながらフィアとの水掛けを繰り返して過ごすのだった。

 浜辺で二時間ほど遊んだアレク達は、しっかりと海水を洗い流して着替えをすると宿へと戻った。ミリアの水着に目がいったアレクにフィアが不機嫌になったりと、些細な出来事はあったが概ね楽しむことが出来た。






 アレク達が浜辺に居た間に、遠洋には大型の船が数多く行き来していた。海の貿易の拠点だけあって、他国の船も多く見受けられる。一人、街で情報を集めていたアンは、そういった外国から入港した船員などの話を盗み聞くなどして、海賊や国外の情報を収集していた。



「ふうー。無事にエリシオールに着けたな。今夜は早速娼館にでも行くか?」

「お! いいねぇ。一ヶ月も船の中だったからな、朝まで二人は相手出来るぞ!」

「ガハハハハ!」


 船員の大半はこんな感じの下世話な話をしており、アンは嫌悪感を面に出しながら聞き流す。


『やはり、ただの船員ごときの会話では無価値ですね。どこかに船長は――』


 アンがそう呟きながら船員達の間を彷徨っていると、身なりの良い商人らしき男と、立派な帽子をかぶった男が連れ立って船から降りてきたのが目に止まる。恐らくは船長なのだろうと思ったアンは、二人の話に耳を傾けた。


「船長。今回も無事に辿り着けましたな」

「ですな。――遠くに奴らの旗が見えた時には焦りましたが」

「遭遇しなくて何よりですよ。見張りに登っていた男が早めに気付いてよかった。――彼には金一封渡しておいて下さい」


 どうやら話の流れ的に、海で海賊か何かと遭遇しかけたようだ。アンはこの二人に暫く付いて回り、情報を集めるのだった。




 宿に戻ったアレクへ、アンは入手した情報を伝える。主に商人と船長が話していた内容と、街で集めた話についてだ。


『お父様。この数日、エリシオール周辺で海賊船の被害が増えているようです。不確かな情報ですが、近くに海賊が拠点を構えた可能性が高いという噂です』


 アンの報告に、アレクの眉がぴくりと動く。隣にはお湯で体を拭いているランバートが居るので、声には出さない。念話でアンへと続きを促して、自分も湯で体を拭き始める。


『可能性が高いのは、山を二つ越えた場所にある入り江というもっぱらの噂です。陸地から近づくことが出来ず、海流も複雑で波が荒い為、この街の船乗りも近づかないようです』

『でも、海賊が拠点を構えたって噂が立てば海軍が確認に行くでしょ? その辺はどうなってる?』


 アレクの疑問はもっともだ。海賊が拠点を構えるなど国からすれば百害あって一利無しである。噂や被害が広がれば、交易に大きく響くことになる。おおよその場所の検討もついていれば、通常であれば討伐隊が組まれて終わりである筈だ。


『確認へは幾度か向かったそうです。しかし、付近にはそれらしき船影は無かったと。――ただ、その入り江付近で問題の海賊船を見たという噂もありました。海軍では、その入り江に拠点は無いという判断を下したそうです』


 アンの報告にアレクは体を拭いている手を止めて考え始める。あり得るのは、目撃したという話自体が嘘である可能性だが、一度ならまだしも何度もであれば信憑性は高くなる。だが、そうすると海軍が偵察に行っても船などが発見出来ていない事が謎であった。


『余程上手く隠れている? ――いや、海軍だって素人じゃないんだから彼らの目を逃れるような偽装は無理だろうな。だとすると魔法で隠れているか、転移魔法を使って船ごと移動してる?』


 そこまで考えてアレクはあり得ないと首を横に振る。転移魔法であれば、大規模な魔方陣を用意しなければならないし、船を丸ごと転移させるとなれば莫大な魔力が必要である。アレクもダンジョンに用いられている転移魔法を研究した事があるので、大体は仕組みを把握している。

 転移魔法とは、一瞬で遠くの場所へと移動できる魔法だが、実際はそう簡単に飛ぶことはできない。ダンジョンは各層の入り口にある扉に刻まれている魔方陣が必要であるし、周囲に漂う魔力が濃い為、少ない魔力と護符を用いて転移できるのだ。間違っても、こんな自然界にそれだけの濃い魔力があるとは到底思えなかった。


『それと……』


 アレクが考えに没頭していると、アンが言い淀みながら口を開いた。物事をはっきりと言うアンにしては珍しいことだったので、アレクは考えを一旦止めてアンの顔を見た。アンは言うかどうか迷っていたようだが、意を決して自らの主へと言った。


『その海賊の旗は、黒い鳥が口から血を滴らせているような絵柄だというのですが……』


 アンの言葉に、アレクはアンが何を言いたいのかを悟る。黒い鳥という絵柄から鴉を連想したのであろう。加えて、その海賊の残虐さも関連づける一因となっていた。

 襲われた船の乗組員はことごとく殺されているそうだ。海へ飛び込んで逃げた相手にも、執拗に追いかけて殺すらしく、目撃者を残さないようにする手口がかつてロハの村を襲った濡れ鴉とも印象が被る。

 万が一にでも探している盗賊団の一味だとすれば、大きな手がかりになる可能性がある。しかし問題はこの街に滞在する期間である。


 明日か明後日には王都へと戻るべくエリシオールを出立する。だとすれば、調査に掛けられる時間は今夜か明日の夜のみである。他の皆を巻き込みたくは無いので、寝静まった頃に抜け出すとなると、探索には六時間程度しか割けないだろう。

 暫くどうしようかと考えていたアレクだが、アンとシェイドに偵察を行って貰う事に決めた。


『アン、シェイド。申し訳ないけれど、可能性の高い入り江を見張っていてくれる? 濡れ鴉に関係があっても無くても、どんな手を使って隠れているのかが分かれば海軍に報告が出来る』


『問題ありません。海賊船を発見した場合は、船員の会話も聞いて奴らに関係しているのかも調査致します。……もしも、奴らの一味だった場合は、どうします?』


 アンはアレクの表情を窺う。アレクとしては、海軍へは最低限報告をすべきだと思っている。だが、海軍が拠点は無いと既に判断しているのであれば、自分が情報を持ち込んでも本気にしない可能性が高い。

 だとすれば、自分で足を運ぶしか無いだろう。遠距離から魔法で沈めてしまうのも手だが、濡れ鴉との関係を調べておきたいし、だとすると何人かは捕縛すべきだろうかと頭を悩ませる。

 この国の法では、海賊は斬首か絞首刑と決まっている。他国の私掠船である場合もあるが、手口から見るに可能性は限りなく低いだろう。


『まずは――海賊船の発見と隠れている方法を暴く。次に会話や船長の部屋から重要そうな書類を探す事……かな。情報を海軍に渡して信じてくれるようなら討伐に便乗して情報を手に入れたいね。もしも、信じて貰えない場合は――僕の手で叩き潰す』


 濡れ鴉と無関係であれば、海軍に任せてもいい。だが、奴らと関係があるのであれば、自らの手で決着をつけたいとアレクは思う。いずれにしろ情報次第である。アンとシェイドを目撃情報のある入り江へと向かわせるのであった。

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