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八十八話 海

 エリシオールへと辿り着くと、海独特の臭いが鼻につく。アレクは前世の知識として経験しているので感動もあまり無いのだが、アレクとミリアを除く三人は不思議そうにその臭いを嗅いでいた。

 街中は活気で満ちあふれていた。王都よりも人口は圧倒的に少ないだろうが、港町特有の賑わいを見せている。


「海に浮かんでいる船は、大きいものは大概魔法船よ。一見帆船に見えるけど、船体部分に大型の魔道具が使われているのよ」


 ミリアの説明に、アレク達は感心しながら海に浮かぶ船を見た。アレクの前世の知識では、スクリュー式しか知らないが、ウォータージェット推進装置を魔道具で作ったらしく、取り入れた水を勢いよく後ろに吐き出すことで推進力を得る事が出来るそうだ。可動式で、方向転換や狭い湾内での操船に優れており、最先端の技術なのだと教えられた。

 国外との貿易の拠点としても重要であるこの街は、海軍がある。密輸や海賊行為に対しての警備と、国外の侵略へ備える役割を持つ。海岸沿いの、倉庫が建ち並ぶ区画には兵士が巡回しており、ともすれば王都よりも犯罪の発生率は低いかもしれない。


「海賊か……」


 アレクは誰にも聞かれない程度の声で呟いた。海賊とは、陸の盗賊と同様、海で略奪行為を行う者達の総称だ。知識として、他国の認可を得て略奪を行う私掠船という者達の存在も知ってはいるが、いずれにしろ許されざる行為である。


『アン。街中の海賊に関する情報を集めておいてくれる?』

『畏まりました。お父様』


 アレクはアンに指示を出す。海賊がどのような行為を行っているかはおおよそ見当が付く。陸と海での違いがあったとしても、アレクは機会があれば潰しておきたいと情報だけは集めるようにアンを放った。

 アンやシェイドもこの一年間、自らの能力を最大限に活かす為に努力をし、成長していた。王都に潜む盗賊などの情報を重点的に集めたり、一般人には知られていない盗賊ギルドへ侵入し様々な情報を得ていた。


 どんな場所にも潜り込め、人に知られることなく情報を得る。ある意味、最強とも言える情報収集能力を遺憾なく発揮している。例外として、魔法で護られている場所にだけは入れないが。

 アンに情報収集は任せて、アレクは宿へと向かう。海が一望できる宿を見つけ、早速女性陣は水着を買うために出かけて行く。残ったアレクとランバートの二人は買い物が終わるまで、市場を見て回ることにした。


「流石に他国から入ってくる品も多いな。見たことの無い果実とか穀物もある」


 市場には大勢の人が集まっていた。商人が大半なのだろう、大口の買い物をする声も聞こえる。ランバートの言うとおり、王都でも見たことの無い商品などが多く、アレクとしても好奇心を刺激される。


「ん? これは……」


 大きな樽に入って売られていたのは、小麦のような穀物だった。もしやと思い、店の主に尋ねてみると、予想通り米であった。他国で栽培しているらしく、珍しさで購入したはいいが、誰も見向きもしないと店主は嘆いていた。

 アレクは暫く悩んだが、仕入れた米を全て買うことに決めた。種籾たねもみの状態で約百キロ程度らしく、精米すればおおよそ半分の五十キロだろうか。主食として食べていけば、一年持つかどうかである。

 学園で風呂を見た時もそうだったが、無ければ気にならないのに、あれば懐かしく思えてしまうのであった。アレクが嬉々としてマジックバッグに米をしまっているのを見て、ランバートが気になったのか尋ねてきた。


「なあ、アレク。それは小麦じゃないよな? 食い物なのか?」

「うん。水で炊いて食べるんだ。精米出来てないから直ぐには無理だけど、そのうち食べさせてあげるよ」


 ランバートも、シルフの気まぐれ亭でアレクの料理の腕は知っていたので、特に不安には思わなかった。旨いものが食えるならばランバートとしても嬉しいことなのである。

 色々と見て回っていると、いい時間となったので宿へと戻る。暫くすると、女性陣も戻ってきた。早速浜辺へと向かう事に決め、アレク達は街の外れにある浜辺へと向かった。


 浜辺に辿り着くと、波の音が耳に心地よい。潮風と波の音しか聞こえない、静かな場所だ。周囲には自分たちと同じように海水浴をしようと何組かの人が見えるが、砂浜が広いので少しくらい騒いでも迷惑になりそうも無い。

 アレクとミリアは、それぞれのマジックバッグから荷物を取り出す。砂浜に敷くシートや、日よけの傘、そして丸いテーブルや椅子などだ。普通、これだけの荷物を持ち運ぶのは大変だが、流石はマジックバッグである。


 そして、最後にアレクは着替える場所を作り始める。地属性魔法であっという間に作り出したのを見て、フィアやエレンは驚く。アレクが作ったのは、シャワーを浴びられるようにした脱衣所である。


「アレク君。これって何?」


 フィアは中を覗きながら尋ねてくる。フィアが気になったのは、脱衣所の上部にある奇妙な箱であった。アレクは中へ入ると、マジックバッグからこの日のために作ってきた物を取り付ける。


「これを、こう取り付けるて上のタンクに《水》魔法で水を溜めると、ちょうど良い感じに水浴びが出来るんだ。海の水は塩を含んでいるから、放っておくと髪を傷めちゃうし、全身が引きつるようになっちゃうから。ここで水浴びをして、ついでに着替えられるんだよ」


 アレクの説明に皆は感心しながらシャワーのノズルを見ていた。今夜泊まる宿には、浴槽は付いていなかった。だとすれば、ここでしっかり海水を洗い流しておかないと、明日には大変な事になるだろう。アレクの気遣いに女性陣は素直に喜ぶ。


 アレクとしてもう一つ問題視しているのは、日焼けをどう防ぐかである。フィア達は皆肌が白い。海水浴をして日を浴びていればあっという間に日焼けをしてしまうだろう。とはいえ、日焼け止めのオイルなんてものの作り方や成分なんてアレクの知識には無い。

 エリシオールの女性は、皆日焼けをしていてそういう文化が無いのだと分かる。そこでアレクは日焼けを防ぐのではなく、日焼けした肌を治癒魔法で回復させることを思いついた。日焼けは皮膚の表組織が火傷によって炎症を起こしている状態である。であれば、火傷の治療と同様に治癒魔法で治せると考えた。まだ試してはいないが、ミリアとも相談して大丈夫だろうとの見解も貰ったので、いけるはずである。


 そんな事を考えていた間に、既にフィア達は着替えを終え水着になっていた。エレンは、薄い青のホルターネックタイプの水着だ。腰にはパレオを巻いており、露出は低めだ。魔術師なだけあって、全体的に線が細く華奢である。


 フィアは、薄い黄色のビキニタイプだ。全体的にエレンよりも鍛えられているのが分かる。しなやかそうな脚や、引き締まった体ながら、少女らしい色気がある。どことは言わないが、エレンよりも膨らんでおり、僅かにエレンの目が逸らされたように思える。


 そして、ミリアは黒のビキニ姿である。ファイ達とは違い大人の色気を感じさせる。普段はローブで隠されていた物が、これでもかと強調されており、フィア達も驚いていた。当然、ランバートやアレクなどは目のやり場に困り、目が泳いでいる。


 結婚前の女性が異性に肌を晒すのはどうなんだろうとアレクは思うが、どうやらそれほど厳しくは無いようだ。勿論、純潔は守るべきという教育はされるが、水着は大丈夫と判断したようだ。



 アレク達はまだ着替えては居なかったので、三人が軽くストレッチをしている間にさっさと着替えてしまう。二人とも色違いのトランクスタイプで、ものの一分で着替えを終えて合流した。

 青く透き通った海。よく晴れた空が何処までも続き、絶好の海水浴日和である。アレクとランバートはどちらとも無く顔を見合わせると、無言で頷く。そして再び、海で波と戯れる女性陣へと視線を戻す。綺麗な海と、三人の美女はとても絵になる光景だ。


 そんな女性陣に対して、アレクとランバートは何をしているかというと。フィア達を見て寄ってくる男どもへ特大の威圧を当てていたりする。それほど近い場所に人は居なかった筈なのに、遠目に綺麗な女性がいるのを見て、お近づきになろうと寄ってくるのだ。


 遠目に見られている分にはいいが、フィア達の水着姿を間近で見られるのは何となく嫌だった。ランバートも同じ気持ちだったようで、二人で声を掛けてくる男どもへ無言で圧力を掛けていた。勿論、そんな事をしなくてもフィア達ならきっぱり断るだろう。だが、そんな奴らを相手することで折角の時間を無為にする必要は無い。


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