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八十六話 時は過ぎ

新章となります、プロローグ的なもので短いです

 アレク達がユグドラルから帰国して二ヶ月が過ぎ、アレクは誕生日を迎え十四歳になっていた。この一年で僅かに身長が伸びていたので、どうやら成長が止まったという事は無いようだ。

 それでも同級生の女子に比べると伸び幅は少ない。単に成長期のズレからなのか、僅かずつしか成長しない体質になったのかは今のところ不明である。


 ユグドラルのミレイアやミントから、これまでに二度手紙が送られてきた。どうやら、シリカの回復は順調であり、徐々に食事も普通に取れるようになってきているという。

 その知らせにアレクとミリアはとても喜んだ。今後どうなるかは分からないが、少なくとも無駄では無かったのだと実感する事が出来た。少なくともミントが大人になるまでは生きていて欲しいものだとアレクは思う。


 その為にもアレクは、患部を特定する為の技法をミリアから教わっていた。いずれあの国へもう一度行こうと思っているが、その時にミリアも同行出来るかわからない。例え一人でも診察が出来るようにと、少しずつミリアからこの世界の医学を学んでいる最中だ。



 また、お礼として貰った魔導書についても徐々にであるが読み進めていた。

 ミリアが受け取った魔導書には、属性を複数掛け合わせた『複合魔法』についての概念が記されていた。この概念を元に、アレクとミリアは幾つかの魔法を新たに生み出す為、研究に励んでいる。


 例えば、土属性と風属性を組み合わせて遠距離へと攻撃する魔法や、地属性と炎属性を合わせた一定の範囲を溶岩にする魔法。そして重力魔法と風魔法を合わせた飛行魔法などが代表的な研究テーマとなる。

 しかし、いずれの魔法もイメージが難しい事と消費魔力が多い為に研究は思うように進んでいない。今まで魔力量は十分だと思っていたミリアですら連発するには自身の魔力総量を上げる必要があった程だ。




 複合魔法の研究についてはミリアとアレクが二人で行っているが、片やアレクが受け取った精霊魔法について書かれている本の研究はアレクだけが行っていた。これは、精霊魔法が妖精族固有のものであり、人族はどれだけ研究しようとも使うことは出来ないと言われてた為、ミリアが興味を示さなかったのだ。

 実際、いくら試してみてもアレクが精霊魔法を発動させる事は出来なかった。だがアレクは気落ちすることは無かった。アレクが知りたかったのは精霊を召喚する方法だった。自分が眷属を召喚する時との差を調べ、そこから『使い魔』の召喚、もしくは制作のヒントにするつもりだったのである。




 春になり二年生へと進級した後も、アレクの研究は継続して進められている。夏が近付く時期になる頃にはアレクの実力はミリアと並ぶ程になっていた。

 最近はミリアから魔導具の作り方を教わる事が多くなり、今も『マジックバッグ』の作り方を教わっていた。

 マジックバッグとは、特殊な製法で作った鞄に、導師級魔法である《空間魔法》と地属性の上位魔法である《重力魔法》を込めることで作られた魔導具である。鞄の大きさ以上の品物を入れることが可能になり、重さを感じさせないというこの魔導具は、とても高額ではあるが人気も高い。


 貴族や大商人であれば必ず一つは持っている魔導具であり、冒険者でもある程度のランクになれば多少の無理をしてでも手に入れたがる。理由は単純に効率が上がり、狩りでの素材などが大量に運べるのでダンジョンに潜る時間が増えるからである。

 また、中に入れている物は時間が止まるという事も人気の理由であろう。食品などが腐る事が無いというのはとても便利である。長距離を補給なしで移動することが出来るようになり、何時でも新鮮な食べ物や調理済みの食事が取れるというのはとても大きい。


「このマジックバッグの容量って何で決まるんですか?」


 自分用のマジックバッグを作るために、素材を手縫いで縫合し終えた所でアレクはミリアに尋ねた。素材が特殊な所為で既製品を使うことが出来ないのが難点であり、自分で縫うか職人に依頼しなければならない。今回は初めて作るという事でアレクは自分で縫うことを選択した。


「要領は空間魔法を掛ける時の魔力次第ね。でも大きくし過ぎると重力魔法の効果が薄れて重くなってしまうから、バランスが大事ね」


 縫い終えた鞄の出来をチェックしつつ、ミリアはアレクの問いに答える。初めてにしては上出来なようで、特に問題ないと判断が下された。


「マジックバッグが作れるようになれば魔導師として認められる最低限の資格を得るし、卒業した後もこれで食べていけるようになるわね。でも、アレクは『使い魔』を完成させて認めて貰うのでしょう?」 


今のままでもアレクは魔導師として認められる可能性はある。だが、いくら実力があっても平民であるアレクでは貴族達が認めてくれないかもしれないのだ。文句無く認めて貰うには高い実力を示すか、新たな魔導具を開発して有用性を認めさせる事が必要である。


 しかし、以前もミリアがアレクに言ったのだが、高い実力を示すと魔術師団に入る事を条件にされる場合がある。結果として汎用性のある魔導具を作ることで認めて貰おうと考えているのだった。


「まあ、使い魔の方はもう暫くかかりますね。まだ理論だけの段階ですが、卒業までには形になると思います」 


 エルフ達から精霊魔法についての本を譲られてから既に四ヶ月が過ぎ、おおよその理論は出来ていた。あとは実験を繰り返し形にしていくだけである。


「それはアレクの研究だから私は手を出さないわよ? でも、分からない事があれば聞きに来なさい」


 二人はそんな話をしながら、マジックバッグの制作を続けるのだった。

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